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新しい家


 組織に着くまで車中は終始無言だった。上条もエイミーもそれぞれ何か考えているようだ。

 二人がそんな状態なので、話しかける事も出来ずに俺も無言でいるしかない。そう言えばあの紅葉って子、本当に桜にうり二つだったな。世の中には似た人間が三人いるって言うからいても可笑しくないか。

 でももしも本当は桜だとしたら、俺はどうしたら良いだろうか。今度会えたらゆっくりと話をしたいものだ。

 上条が車を止めて降りるので、俺達も一緒に降りる。


「ここに組織があるのか?」

「そうだ」

「でもここって思いっきり森の中じゃん」


 そう着いた場所は考えられないほどド田舎。木々が生い茂るこの場所に組織があるとは思えない。

 上条はポケットから黒い携帯電話を取り出して、電話を掛ける。


「俺だ。上条だ。ああ、分かっている。よろしくな」


 携帯電話をきって何故かその場から離れる。

 俺達にも離れるように催促してきた。

 俺達がそこから離れると地面が開いて、エレベーターのようなものが上がって来た。


「乗るぞ」


 上条の後に続いて俺とエイミーもそこに乗る。俺達が降りると同時に車も地下へと下がっていく。

 下に着くと乗って来た車の他にも車とバイクが二台ずつ止めてある。ここは車庫のようだ。


「行くぞ」


 上条の後を着いて行く。ひたすら廊下を真っ直ぐ歩いて行くと、組織の中心部と思われる部屋に着いた。大小様々なモニターが部屋の正面にあり、そこに外の様子が様々な視点で映し出されている。

 すげぇ、まるでアニメみたいだ……。


「良かったわね、新一。今日はアタシがいて」

「ああ。昨日は大輝(たいき)しかいないって聞いたからな。

欲を言えばもっと人員が欲しいが、そんなことを言っていられないからな」


 モニター前の椅子に光合成を活発にしそうな緑色のショートカット女性が座っていた。スタイルはボン・キュ・ボンの三拍子が揃っていて、まさに男を虜にするものだ。

 この人も組織の一員なのか。挨拶をしておこう。


「初めまして。俺、西城音也って名前です。こっちが――」

「――エイミー・ドリーン・エージーです」


 俺達は精一杯の笑顔で挨拶をする。人は第一印象ですべて決まるってどこかで聞いたような気がするからだ。


「ふーん。アタシは今野真視。よろしく」

「宜しくお願いします」


 何か勘ぐられているようなだが一応握手を交わして、一通りの挨拶をこれで済ませた。そろそろ『ラグナロクの鍵』に詳しい人に会いたいけどな。


「あいつなら自分の部屋で籠っているわよ」

「あいつって?」

「大輝だ。俺が言っていた伝承に詳しい奴だ」

「その人って部屋に籠っているのか?」


 二人は顔を見合わせて難しそうな顔をしている。なんだ、そんなに気難しい人のなのか?

 不安になるじゃないか。


「別に気難しいわけじゃないわ。ただあいつはねぇ……」

「まあ、実際に会えば分かる。案内してやるからついて来い」

「その必要はないネ」


 声のする方向を見ると銀髪で白衣を着た小汚ない人がいた。科学者に見えるけど、この人がもしかして伝承に詳しい人なのか? 


「いや~ちょっと行き詰っちゃってネ。モニターを見たらビックリネ。上条君と知らない子が二人もいるんだもんネ」


 なんだこいつ。むちゃくちゃ臭い。

 この臭い……何日も風呂に入っていないだろ?


「珍しいネ。この女の子『妖精族』だネ。久しぶりに見たヨ」


 エイミーを一発で『妖精族』と見抜きやがった。

 なんで分かったんだ?


「私以外の同族に会った事があるんですか?」


 エイミーの質問に頷いて、言う。


「モチロン。キミによく似た子に会ったヨ」

「……」


 エイミーの表情が曇ったのが分かった。

 俺がサングラスの男を殺したのを見た時の得体の知れない何かを感じる。エイミー……お前は今、何を思っているんだ?


「キミは普通の人間ネ。――――いや、違うネ。何か力を使ったように見えるネ」

「――――!」


 なんで俺のことまで分かるんだ? 予め上条が報告したのだろうか。


「キミ達がヤツラの研究所から試作品を盗んだネ」

「もしかして『簡易ナノマシン』のことか?」

「へ~ヤツラそんなものも開発していたネ。今、持っているネ?」

「あ、はい」


 俺はしまっている『簡易ナノマシン』を取り出して、男に手渡す。

 若干気が引けるが今は仕方がない。


「お~ヤツラは自分達の手でワルキューレを創りだすつもりネ。

 人間よりも高位なモノを創りだそうとするなんてネ、おバカだネ。

 キミもそう思うよネ?」


 そう言ってから『簡易ナノマシン』を返してもらった。


「あ、ええ」


 何を言っているかよく分からないが、つまりこの人は奴らがやろうとしていることが分かったということなのだろう。この人ってもしかして天才なのか?


「珍しい子達を連れてきてくれたネ。でも許可を司令官には許可もらったネ?」

「これから報告するつもりだ」

「あ~残念ネ。今は東京の方に出払っているネ」

「分かっている。だから司令官が帰ってきたら報告するつもりだ。じゃあ、後は大輝、頼む」

「分かったネ」


 思えば上条の奴、任務をこなしてから俺らの世話までやっていたから疲れて当たり前か。ここは一人にさせて休ませてやろう。

 部屋に残っているのは、俺とエイミーと大輝さんと今野さんか。今野さんは何の用で残っているんだろうか?


「大輝が無茶しないように見張る為よ。こいつ、色々むちゃくちゃだからね」

「キミも似たようなものネ」

「あんたと一緒にしないでよ。そんなことよりさっさと『ラグナロクの鍵』に関することを吐きなさいよ」


 俺としては早く『ラグナロクの鍵』に関することを聞きたいものだ。

 大輝さんは壁にもたれかかって、何日も洗っていない髪の毛を掻く。その際床にフケらしきものが落ちた。


「『ラグナロクの鍵』ネェ……。あれってボクでもどんな姿をしてどこにあるかは分かっていないネ」

「そ、そんな……」


 この人なら何か知っているかもしれないと思ったけど……残念だ。自然と肩が落ちてからため息が出てくる。


「あ」


 大輝さんの話はまだ終わってなかったようだ。この人はやっぱりただでは終わらない人なのかな?


「古い文献や資料には『ラグナロクの鍵』は世界を統べるために必要なものと漠然に書かれているだけネ」

「ねぇ、それってあいつらが言う『神々の遺産』と同じ物じゃないの?」


 今野さんが言うあいつらって敵のことだろうか。そいつらが『神々の遺産』つまり『ラグナロクの鍵』を俺とフェビアン以外にも狙っているって言うのか? 


「分からないネ。ただ西城君だっけネ? キミが探しているものはとんでもないものネ。どうしてそれを探しているか解らないけど、キミみたいな子には危険すぎるネ。

 諦めた方がいいネ」


 大輝さんの言いたいことは分かる。分かった上で俺は言う。


「諦めるなんてできない。俺は……それを何としても探し出して、フェビアンに復讐をするんだよ」


 誰が望んでいなくても俺はやり遂げなければいけないんだ。こんな臭い奴に何を言われようと諦めるつもりは無い。


「そうネ。ならボクもできる限り協力するネ」

「ありがとうございます」

「……」


 エイミーさっきからずっと黙っているけどどうかしたのだろうか?

 今までの疲れがきたのだろうか。俺も昨日はあまり眠れなかったからなんか疲れたな……。


「ねぇ、あんた」

「はい?」

「……やっぱり何にもないわ」


 今野さんはそう言って、踵を返し自分の部屋かどこかに向かってしまった。

 取り残された俺とエイミーは、唯一この施設に詳しい大輝さんに頼るしかない。

 でもこの人、本当に詳しいだろうか? 


「キミ達。空いている部屋案内するネ」


 大輝さんは俺達の状況を察してくれたのか、そんな言葉をかけてくれた。こっちとしては助かるのでここはありがたく案内してもらおう。

 

「こっちネ」


 もう一つの廊下に出るとそっちには、両側に扉がズラリとあった。どうやらこちらの方にメンバーの部屋が集結しているようだ。

 この廊下まだ先に続いているけど、何かあるんだろうか? 


「この先って何があるんですか?」

「訓練場ネ。今はたいして用がないから行かないネ」

「分かっています。な、エイミー」

「はいです……」


 何かエイミーの様子が先ほどから変だ。今だって話しかけてもどこか上の空だ。ずっと何かについて考えているような……そんな感じだ。

 大輝さんに案内された部屋は、広さは六畳ほどでベッドが置かれているだけだ。さすがにエイミーと一緒の部屋と言うのはまずいので、この部屋はエイミーが使うと良いだろう。


「エイミーがこの部屋を使えよ。俺は別の部屋を使うからさ」

「はいです……」

「エイミー聞いているか?」

「はいです……」

「エイミーは大食いじゃない」

「はいです……」


 やっぱり話を聞いてないな。こういう時は――


「てい!」

「――!」


 エイミーの頭を軽く一発叩いた。目を丸くしたエイミーが俺を見て首をかしげる。

 なぜ自分が頭を叩かれたのか理解してないようだ。


「やっと我に返った顔をしているな、エイミー」

「す、すいません……」

「エイミー。前に言っていたよな? 時期が来たら俺に全て話してくれるって」


 エイミーが珍しく困った顔をしている。話そうか話さないか悩んでいるのだろう。でも俺としては、エイミーのことをなるべく多く知っておきたい。もしかしたら俺も力になれるかもしれないからだ。

 

「……分かりました。なぜ私が『研究所』に潜入していたか、そして今思っていることを全部音也にお話しします」


 険しい表情のエイミーは妙な迫力があった。そこまでエイミーが抱え込んでいるものは恐ろしいものなのだろうか?


「じゃあ、後でこの部屋に来るから」

「はいです」


 俺と大輝さんはエイミーの部屋を出てから、隣の部屋の扉を開ける。こちらは打って変わって荷物置きとして使われていた。なんでこんなに差があるんだ?


「この部屋で本当に良いのネ?」

「ああ。俺はエイミーの部屋の横が良いんだ」

「……まるでアイツみたいな事を言うネ」

「あいつって?」


 大輝さんは何も言わずにそのまま俺の部屋を出て行ってしまった。まあ、いいや。

 とりあえずこの部屋を片付けなくちゃな。

 段ボールの山を目の前にして、心が折れそうになるがここは我慢。一つずつ段ボールを廊下に出す。後で他の部屋に移動させておけば良いだろう。


「おっと」


 最後の段ボールの蓋が空いてやがる。まったく誰か知らないけどちゃんと閉めておけよ。

 ん? 中身は真っ白な服じゃないか。しかも明らかに小さいし。

 一体誰のだ?


「……まあ、いいや。早く片付けるか」


 掃除機は大輝さんに訊けばいいか。布団もないからあるかどうかついでに訊いておこう。

 幸い大輝さんの部屋はすぐに分かったので、掃除機を貸してもらった。

 まあ、布団は後で上条に訊こう。

 部屋の隅々まで掃除機をかけて、これでようやく完了だ。何とか人が住めるぐらいの部屋にはなったな。


「よし。エイミーの部屋に行くか」


 部屋を出て、ノックをする。


「どうぞ」


 部屋の中に入ると、エイミーはベッドの上に座っていた。表情は重く、こんなエイミーを見るのは初めてだ。

 緊張からか喉が渇く。手汗もヤバいし、鼓動の高まり方も尋常じゃない。


「私が研究所に潜入した理由を語る前に、私の過去についてお話します」


 エイミーから告げられた言葉は、俺が想像しているよりも重いものであった。


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