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組織へ

 何十年も前から『ナノマシン』を使った人体実験が行われていると上条から聞いた。

 今こそは多くの『強化人間』が生み出されているが、昔の成功率はゼロだったらしい。失敗に終わった者の多くはどうなっているか不明らしいが、死亡した可能性が高いと思う。

 俺も『簡易ナノマシン』を使っているけど、これはどうやら通常のナノマシンと根本的に違うみたいだ。実際に俺は『簡易ナノマシン』を使った五分間のみ力を使える。その時だけ俺は、『強化人間』と互角に戦うことができるのだ。

 この力がなければフェビアンを殺せないのは明確だ。


「『簡易ナノマシン』、残りは五回分だけです」


 時間に換算すると約二十五分か。

 まだ試作品段階だったらしいから、数が少なくて当然か……。


「音也さん。これは渡しておきますが、ぐれぐれも注意してください」

「……分かっている」


 エイミーから残り全部の『簡易ナノマシン』を受け取る。肌身離さず持っていれば、いざという時もこれで戦うことができる。

 もう足手まといになることもないだろう。

 窓の外に目をやると全然知らない土地を進んでいる。最初にどこに行くのか上条に尋ねたが、着くまでの楽しみだと言われたので仕方がない。

 

「音也さん」

「なんだ、エイミー?」

「お腹が減りました。だからご飯を下さい」


 猫が主人に甘える時のような声と、どこか誘っている笑顔のエイミー。普段の俺ならエイミーを連れて、どこか飲食店に入るだろう。

 しかし今は車で移動中。そんなどこか寄る余裕もないし寄るつもりもない。

 だから俺の答えなど既に決まっている。


「ない」

「な、なんでですか!?」


 エイミーが非常にショックを受けたからか、俺の両肩を掴みかかる。鬼気迫るその表情が俺を威圧してくる。さすがエイミー。食べ物に対しての執念だけは一流だ。

 でもエイミーが何をしたって、俺にはどうすることもできない。そう、エイミーが俺の身体を揺らそうと、俺のポケットを探ろうと、服を脱がそうって――――


「――――や、やめろエイミー! なぜ俺の服を脱がすとする!?」

「だって食べ物を隠し持っているかもしれないじゃないですか」


 笑顔とは裏腹に絶対にイライラしているだろう。エイミーは空腹になると常識がなくなる。いや、一般常識をもっているわけでないけど……。なんとか言うか……大事なことを失うのだ。


「これ以上はまじでヤバイからッ!!」

「おいおい、車の中で暴れるな二人とも。飯なら寄ってやるから」

「はーいです」


 抑揚のある声で返事をして俺から離れるエイミー。ご飯にありつけるからって急に大人しくなりやがって……現金な奴め。

 でも、嬉しそうな顔をして。本当に素直だよな~。

 車は道路の脇に建っている定食屋に入り、駐車場に車を止める。

 店に入ると、昼食の時間にしても遅い三時の時間帯なので他にお客などいない。肩まで伸ばした赤髪の女性の店員が駆け足で俺達の前まで寄って来た。可愛い人なんでラッキーだ。


「いらっしゃいませ。三名様でしょうか?」

「そうだ」

「禁煙席と喫煙席どちらにいたしますか?」

「そうだな~」


 上条は言葉を濁しつつ、俺とエイミーに目をやる。どうやら俺らがいるからどうしようかと思っているみたいだ。どうせ喫煙席を選ぶんだろうな。


「禁煙席で」

「え?」

「いかがなさいましたかお客様?」

「あ、いえ。なんでもないです」


 上条に若干不思議そうな顔をされてので、俺の思っていることがばれたかと思ったがすぐに脚を進めたのでどうやら思いすごしのようだ。

 注文は俺と上条はコーラとコーヒーを頼み、エイミーがカツ丼(大盛)を頼んだ。

 コーラとコーヒーがきてから十五分ほどでカツ丼もエイミーの前に置かれた。エイミーが嬉しそうな顔でカツ丼にかぶりつく姿を眺めていると、上条が俺の耳元で話しかけてきた。


「エイミーが大事だろ?」

「なぁ!?」


 思わず顔を赤くしてしまう。エイミーが食べるのを止めて、不思議そうな顔をする。


「どうしたんですか、音也さん?」

「い、いや。なんでもない」

「そうですか」


 再びカツ丼を頬張り始めるエイミー。焦る俺の横で上条がニヤニヤしている。

 くっ、からかいやがって。まじで焦ったじゃないか。

 さすがエイミーだ。まだ十分しか経っていないのに食い終わりが近いなんて。


「もう行きましょうか」


 食い終わったエイミーが俺らにそう言って立ち上がる。食い終わったばかりなのにもう大丈夫なんて、本当にエイミーは……。

 残っていたコーラーを飲みほして、俺も立ち上がる。

 上条は先に会計に向かっていたので、俺はエイミーを連れて先に車に向かうことにする。

 ドアを開けようとした時、先にドアが開いた。身長百九十センチはあろうかというサングラスを掛けた大男と、俺と同じぐらいの歳で野球帽を深く被った少年だ。

 俺達は横にずれ、その二人組を先に通す。その時に野球帽を被った少年の横顔が誰かに似ているような気がした。高い鼻筋と丁度良いくらいの膨らみを持つ頬、誰だか思い出せないので思い違いかもしれない。


「どうした?」


 会計を済ました上条がドアの前で立ち尽くす俺の所にやって来た。エイミーも心配そうな顔で俺を見ていた。

 本当に大したことがないので、俺は二人に大丈夫だと言って先に車に向かった。


「よし、行くか」


 車に乗り込んだ俺らは再び組織に向かう。

 よーく考えれば組織ってどこにあるんだろうか? 街を出てもう半日も経つのに一行につく気配がない。


「なあ、後どのくらいかかるんだよ?」

「そうだな~……明日だな。今日はもうすぐ着く街で止まるからな」

「まじかよ。一晩中車を走らせれば間に合うんじゃあないのか?」


 一刻も早く組織に行きたい俺としてはそうしてもらいたい。

 期待を込めて言ってみたが、無駄だった。

 上条の顔を見れば分かるが、相当疲れがでている。あんまり無理させるのは悪いかもしれない。


「間に合うかもしれないが……入れないんだよ。まあ、色々とあってな」


 めんどくさそうな顔をして、黙々と車を走り続けさせる。

 色々って何があるんだか。本当に訳分からん。


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