この国の秘密
「いや、知らないけど。それがどうかしたのか?」
俺がそう答えると、上条の目つきが真剣になったのが分かった。
空気が微妙に重くなり、心がザワザワし始める。
そう言えばエイミーの奴、朝から見ないな……。
それにマスターもいないな。
「今、この国はおかしな方向に向かっている。
六十年前の大戦で大敗北を決したこの国は、連合国によって軍備放棄と民主化を進められた。ここまで学校で習っただろ?」
「ああ」
上条が真面目な顔をして話を続ける。
俺も緊張を張り巡らせて、一字一句訊き逃さないように注意を払う。
「だが、それを良く思わないやつらがいるんだよ。
そいつらは、どうにかしてこの国を戦争前の国にしたかった。でも連合国がそうはさせてくれるわjけないので、どうすれば戦争前の国に戻すか考えた。
そして、そいつらあるものを見つけた。それは、とても強力なものであると同時に連合国でも保有をしていなものだった」
「……まさか『ナノマシン』か?」
上条は、俺の言葉に何の反応を示さずに話を進める。
まるで何か急いでいるようだ。
「そいつらは、二十五年前に『妖精族』と言われる、極めて人間に近い存在を捕獲に成功した。
その『妖精族』は、人間とは違って不思議な力を持っていた。例えば、身体の一部分を自由に変化させることができるとか、な。
そいつらは、その力を見て思った。『この力を人間が使えないだろう』かと。
それからは研究一色だ。様々な方法を試したが、どれも成功しなかった」
上条の声のトーンが段々、低くなっていった。
もしかしてこの話は、俺なんかが聞いちゃいけない物じゃないのだろうか?
「でも、実際に『強化人間』と言う奴らがその『妖精族』の力を使えるじゃないか?」
上条が話を続ける前に口を確認するように口を挟んだ。
あの時のサングラスの男が脳裏に過る。
あいつが今まで唯一出会った『強化人間』だ。あんなのが他にもいるって言うのか……はぁ。
「『ナノマシン』だ。『ナノマシン』のおかげで『強化人間』が成り立っているだ」
「どういうことだ?」
「『ナノマシン』に『妖精族の血』を注入することによって、一部の人間だけだが、『妖精族の力』を
うことが可能だ」
上条は、そう言って吸っていた煙草を灰皿に押しつぶした。
俺は、その仕草を見つつなんでこいつが俺なんかにこんな話をしたの考える。
分からない。一体こいつは、何を考えているのだろうか?
「……『妖精族』って言うのは、人里から離れた場所でこっそりと暮らしているものだ。
故に人間世界のことなど何も知らないものなんだよ」
どこか遠くを見ながら、上条が俺に対して呟いた。
「……世間知らずってわけか?」
自分の世間知らずと言う言葉で、エイミーの横顔が脳裏に過った。
確かエイミーも世間知らずだ。ハンバーガーもパフェもカツ丼すらエイミーは、どういうものか知らなかった。
それに俺がビルから逃げ出そうとして、エイミーをドアの前から退かそうとした時、彼女が重く感じた。
もしかして……エイミーは『妖精族』なのか?
「エイミー! おい、どこにいる?」
「……」
返事がない。
何処に行ったんだ。くそっ!
ふっと上条が笑ったのに気付く。なんでこんな意味深に笑うんだよ、こいつ。
「お前……まさかエイミーをさらったのか?」
「……」
俺が胸倉を掴んで身体を揺らすが、笑ったままだ。
一体、何なんだこいつは?
「笑ってないで答えやがれェ!」
俺の神経を逆撫でするかのように上条が鼻で笑う。
俺は、怒りのあまり上条の顔を思いっきり殴った。
殴られた上条は、俺を見てまるで哀れな存在を見るような眼で見ている。
「何者なんだよお前は!」
怒りや焦りと言った感情が俺の中に湧き上がってくるのが分かる。その行き場の無いそう言った感情をどこにやったらいいかも分からず、ただただ上条を睨みつける。
しかし上条は、俺の事を恐れもせずに視線を真っ直ぐ俺に合わせている。
やがて俺は、上条の視線に耐えきれなくなったので上条を掴むのを止めて、エイミーを探しに行くことにした。
店を出るが本当に人の気配がまるでしない。
昨日まで沢山の人がいたと言うのに不気味で仕方がない。一体この街で何が起きているって言うんだ?