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蠢く事件

 次の日。

 俺がせっせと働いている間、相変わらずエイミーは主婦四人組の相手をしていた。

 あの四人は、昨日も来ていたし、どうやら常連さんみたいだ。


「最近、物騒になってきたわよね~」


 ショートカットの四十代であろう女性が話を切り出した。

 その話が気になったので、働きながら耳を傾けることにした。


「そうよね。こないだだって田中さんの家、空き巣に狙われたそうよ」

「そうなの? 知らなかったわ……」


 ……どうやら聞くに足りない話のようだ。

 ここいらで聞くのをやめようかな、と思ったが髪を後ろに一つにまとめている女性がまた別のことを言い出す。


「ねぇ。ここ二、三日で子供が何人も行方不明になっているって知っている?」

「初耳だわ。それ本当なの!?」

「ええ。なんでも三歳から十歳の子たちが狙われているらしいわ」

「それってロリコンの仕業なの?」


 興味津々の様子で訊く。

 その訊いた人は、髪が腰まで伸びており四十代に思えないほど綺麗な肌をしている。

 そんな女性が一番興味あるということは、娘か息子が三歳から十歳なのかもしれないな。


「ロリコンって何ですか?」


 今まで黙っていたエイミーが不思議そうな顔をして四人に訊ねる。

 少々驚いたのか一瞬、間が出来たがすぐに綺麗な肌をした女性が答える。


「小さい子供が好きな人たちのことを言うのよ。エイミーちゃん」

「そうなんですか。勉強になります」


 満足そうな顔のエイミー。

 疑問が解決できてうれしいらしい。


「どうやら誰の仕業かも検討がついていないらしいわ」

「まったく警察は何をやっているのかしら。怖くてしかたがないわ」


 ため息まじりにショートカットの女性が呟いた。

 そんな危険な犯人が見当もついていないとは……やはり警察は役立たずだな。


「あ。いま思い出したけど、最近クタクタのスーツを着た銀縁眼鏡の男がこの辺をふらついているらしいわよ」


 ショートカットの主婦が他の四人に聞こえるぐらいの大きさで言う。

 クタクタのスーツ着た銀縁眼鏡って……上条のことじゃないか?

 あいつ、この街をウロウロしているということは、また来るかもしれないな。

 その時は、今ここ耳にはさんだ事を伝えておいてやろうと思う。


「おい、エイミー。そろそろこっちを手伝ってくれ」

「分かりました」


 エイミーは、主婦四人組に別れを告げ、俺の元に来る。ついでに空のカップも回収してきた。エイミーにしては気がきくな。


「何をすればいいですか?」

「そうだな……じゃあ、しばらくここを頼むよ。俺は、マスターとこ行ってくるから」

「はい。分かりました」


 ここは、エイミーに任して厨房に行くか。

 マスター、朝に厨房に来いって言っていたけど何の用だろうか……。


「マスター。来ましたよ」

「来たか」


 マスターは、相変わらず足が竦むほどの威圧感だ。正直、いつまで経っても慣れない様な気がする……。

 直立して、マスターの言葉を待つ。一体何の用があると言うんだ?


「西城」

「はい!」


 思わず大きな声を出してしまった。

 マスターは少々驚いた表情をしたが、すぐにまた難しい表情に戻った。

 何か言われるかと思ったよ……。


「近々この街から人が消える。私の『千里眼』が間違っていないなら」

「街から人が消えるってどういうことですか?」


 俺が当たり前のように訊き返す。そもそも『千里眼』って何のことだ?

 一切、表情を変えずにマスターが口を開く。


「そのままの意味だ」

「意味が分からねぇよ!」


 俺が言い返すと、マスターが明らかに不快そうな顔をして俺の両頬を片手で掴む。

 予想以上の力に驚いた。まじで痛いぞ……。


「西城。お前は、いつか大きな選択を迫られるだろう。その選択をくれぐれも間違うな」

「!」


 頬を握り潰されているから喋れないじゃないか。

 一体、何なんだ。大きな選択って。

 俺の最終目標は、フェビアンを殺し、両親の敵をとることだ。

 それを果たすためなら俺は、どんな犠牲だって払わないつもりだ。そうどんな犠牲だって……。





「喫茶・ロキ」で働き始めて一週間が経った。

 マスターが言っていたこの街から人が消えることもなく、今日でここともお別れだ。

 本当は一日だけで良かったが、これからのことを考えると不安で仕方がないので、余計に働いてバイト代を貰うことにしたのだ。

 頑張ったかいがあって、今日で三万ほど貰える予定だ。

 カランカーンとドアが開く音が鳴ったので、迎えるために向かうと上条だった。


「よぉ、西城」


 軽く右手を上げて挨拶をしてきた上条。今日もヨレヨレのスーツを着ている。

 こいつ他に着るものがないのか?


「い、いらっしゃいませ……」


 いくら上条とは言え客は客だ。案内をしなくては。

 でもお客はいないので、全席空席なわけなので適当に座ってもらった。


「ご注文は?」

「コーヒーを一つ」

「かしこまりました」


 俺は店の奥に向かい、そこでコーヒーをカップに注いだ。

 そしてそれを持って、上条の所まで向かう。


「どうぞ」


 カップを置いて掃除でもしようかと思った時、上条に呼び止められた。

 振り返ると上条は、煙草に火をつけていた。


「まあ、座れよ。今日はどうせ誰もこねぇよ」

「はあ?」

「いいから座れって」


 上条に言われるままに俺は正面に座る。座ったのは良いが、上条はコーヒーを飲んでいるだけで何も喋らない。

 こういう沈黙は嫌いだ。何というか歯がゆいし、イライラするからだ。


「なあ、西城。お前は今、この国で何が起きているか知っているか?」


 上条が唐突に言いだしたもんだから、少しびっくりした。

 でもなんで、いきなり十七歳の俺にこの国の現状を聞いてくるなんて。一体こいつは何を考えているのだろうか?

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