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第2話 転生がしたかった。それより先にトイレがしたかった

就職した瞬間、俺を待ち受けていたのは──

“陰キャ”ד営業職”という、死にステだらけの職業ガチャの大ハズレ。


赤の他人に笑顔を振りまいて契約を取る?

そんな社交スキル、残念ながら俺には未実装だった。


同期たちが華麗に出世していく中、俺だけがひっそり低空飛行。

いつの間にか、口癖のように「異世界転生しねぇかな……」なんてつぶやくようになっていた。


残念ながら、異世界転生の予定は本日も未定。

だが、腹の減りだけはリアルタイム進行中。


何か口に入れようと、部屋を見渡す。

……この空間から何か食べられそうなものを探し出すには、スキル“心眼”が必要だ。

目に留まったのは、四季を問わず鎮座するこたつ兼テーブルの上──

そこに、2日前にスーパーで買った見切り品の唐揚げが放置されていた。


ためらうことなくそれを素手でつまみ、口へ放り込む。


「ん? 甘酢……? そんなソースかかってたか?」


知らない間に味変されていたが、まあいい。

俺は言う、「やっぱSDGsよな」と。

“食料を無駄にしない”ことは冒険者の基本的な心得だ。

一日一善のクエストを無事に達成した俺は

まだ見ぬ異世界へ近づいたような気がした。


くたびれたカバンを助手席に放り込み、車のエンジンをかける。

今日も大して代り映えのしない一日が始まる――そう思っていた。


だが


アパートを出発して、車でたったの5分。

異変は、唐突にやってきた。


「……ん? ゴロゴロ……? 腹の中で雷鳴が……?」


雷魔法なんて詠唱してないのに、腹の中に不穏な暗雲の胎動を感じる。


──犯人は、さっきの唐揚げ。ほぼ確。


どうやらアイツは、善良な市民を装った魔王軍のスパイだったらしい。


俺の体が“異物”と認識し、緊急排除ミッションを発動。

長きにわたる人類の進化の果てに獲得した腸内免疫──その真価が今、試されている。


「やっべ……これ、会社まで持たねぇ……!」


便意、後悔、焦り。

三重苦のSSS級クエストが今、俺を襲う。


立ち寄れるコンビニはナシ。

家に戻るにも、もう時間が足りない。


腹の中で繰り広げられるターン制デスマッチ。

“雲虎”という名の獣王との死闘は、すでにクライマックス。

だが、敵は強大すぎた──


詰み、完全敗北確定──


「……もう、人間性、捧げちゃってもよくね?」


内なる悪魔が囁く。


闇落ちするかどうかの狭間で。

普段なら見逃していたはずの“それ”を、俺の“超心眼”が捉えた。


左手に見えたのは、小さな建物。

その壁に、真っ赤な背景に白文字でこう書かれていた──


「最高の自分を目指せ!未来を変えるのは今!エンチャントジム」

「ここだ……! ここしかねぇ……!」


このままでは、クソにまみれた未来が確定してしまう。

でも、ここなら……“何か”が変わるかもしれない。


──いやいや違う! 俺は今、とにかく!


「トイレがしたいだけなんですけどおおおおお!!!」

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