12話 表示された現実──読み仮名は“デブ”
「身長、169.0センチ。体重、85.5キロ。
BMIは……30。体脂肪率も30%ですね」
彼女が指さした先──適正体重の一覧表に、堂々と
肥満
の二文字が刻まれていた。
読み仮名など振られていないが、俺にはデブの2文字がはっきりと見えた。
思えば体重計に乗るなんて、本当に久しぶりだ。
健康診断ではいつもD判定、精密検査だけは寸前で免れてきた。
だが今無表情な機械が突きつけた数値は、俺が現実から目を背けていた証そのもの。
「……なるほど」
人間、あまりに都合の悪い事実を前にすると、意味不明な言葉が口をついて出るらしい。
自分の呟きに、思わず苦笑が漏れた。
「何か……すいません。」
「いえいえ。これから頑張っていきましょう。」
「ただ…。」
快活なみさきさんにしては珍しく口ごもる。
「ただ……ちょっと体重が多いので、絶対ダイエットしたほうがいいです!できれば15キロ落として、70キロ前後に。最低でも健康のために10キロは落としたいところですね」
70キロ──大学を卒業した頃の体重だった。
14年の間に積もった“怠惰のツケ”──
この贖罪に、どれだけの汗と時間が必要なのか想像もつかない。
そんなことを考えていると、彼女は明るく言った。
「八天さんが頑張れば、半年……いえ、4か月で10キロ以上は落とせると思いますよ!」
にっこり微笑む彼女。その笑顔は俺に不思議な全能感をくれる。
みさきさんが詐欺師じゃなくて、本当に良かった。
この笑顔を前にしたら、どんな無茶振りにも二つ返事で「はい!」と答えてしまいそうだ。
「わかりました。やってみます!」
俺は力強くそう返した。奇しくも、今日は9月1日。
俺は、年内に“60kg台”に突入するという高い目標を、みさきさんと固く握り合った。
目標を定めたことで、まるでふいごで魂の炎に空気を吹き込んだように、俺のモチベーションは最高潮に達する。
いよいよ本格トレーニングが始まる…かと思いきや
「次は普段の食事について教えてください♪」
またも梯子を外された俺
「あの……トレーニングは?」
つい、そんな“余計な質問”をしてしまう。
「もちろん、トレーニングも大事です。でもダイエットはどれだけトレーニングを頑張っても、食事がよくないと全部台無しになっちゃうくらい食事は大事なんですよ。」
いやな顔一つせず答えてくれた。そうだったのか…
この人になら、すべてをさらけ出してもいい。
自炊はほとんどせず、コンビニやスーパーに頼りきりの食生活。
ほめられたものでないことはわかっていたが、俺は正直に話した。
朝はコンビニの菓子パンが定番。昼は缶コーヒーとカップ麺。夜は、スーパーの半額総菜が並ぶ──通称「半額ハンター」としての日々。
それに加えて3時のおやつと夜食の一日5食。
計算したことはないが、エンゲル係数は相当高いことは間違いない。
そして、毎日の食事にコーラがついてくるのは、もはや俺の中で当たり前になっていることも。
隠しても仕方ない。だって俺は変わりたいのだから。