第11話 再び聖域へ。三顧の礼で挑む再出発
オフィスに戻ると、ちょうどコピー機の前にいた木場課長が、俺に気づいて声をかけてきた。
「八天君……大丈夫だった?」
その声色に咎めるような響きはまったくなく、純粋な心配がにじんでいた。
「はい……大丈夫です。心もお腹もちょっとだけスッキリしましたので。」
つとめて明るいトーンで返したつもりだったが完全に気持ちの整理がついたわけじゃない。
「長ぇトイレだな……違うことでもしてたのか?」
席に戻る途中、京右助が目を合わせずにつぶやく。
独り言のようなトーンだが、ニヤついた口元から明確な悪意のサイン。
俺は反応しないよう心掛けたが、心に誓う。
──もう、絶対に許さないリスト追加決定
心とお尻に傷を負いながらも、なんとか仕事を終え、定時で退社した俺は、再び“あの場所”へと向かった。
エンチャントジム──
夕暮れの西日に包まれたそのジムは、まるで聖域のような神々しさを湛えていた。
…ここが、俺にとってのダーマ神殿。
目の前には見慣れたエントランスと、あの呼び出しボタン。
押すのはこれで三度目。
──一度目は、絶望の中、すがるように押した「非常ボタン」。
──二度目は、決意を胸に誓った「再起の証明」。
三回目となる今回はどうなるか…。
深呼吸ひとつ。指先でそっとボタンに触れる。
……少しの沈黙。そして。
「お待ちしてました」
笑顔で出迎えてくれる、トレーナーであるみさきさん。
その笑顔は高位治癒魔法の如し。
体だけじゃなく、心の傷まで癒してくれた気がした。
今日は、初回のカウンセリング。
俺は念のために、動きやすい服装。
そして炎のように燃え滾る気持ちは十二分に用意してきたつもりだ。
どんな厳しいトレーニングも受けて立とうじゃないか!
「じゃあ、まずは身長と体重を測りますね」
……想定外の、“静かな出だし”。
(あれ……トレーニングって、今日はやらない感じ……?そりゃそうか。)
若干拍子抜けしつつも、俺は静かに靴を脱ぎ、体組成計に乗る。
カウンセリングはまだ始まったばかりだ──。