7話「催眠チョコレートと告白未遂事件!美来の「好き」がバレそうになる!?」
昼休みの屋上ーー
風は少し冷たく、でも日差しは柔らかい。
「今日はちょっと頑張ったよ!」
お弁当箱の蓋をパカッと開けて、美来が陸に笑顔で見せた。ハート型の卵焼き、タコさんウインナー、星形にくり抜かれた人参。…が、やや焦げている。
「おー…うん、気合い入ってるな。焼きすぎた星が眩しい」
「うるさいっ!これはね、“恋の焦がれ焼き”っていうの!って、言わせないでよぉ…!」
真っ赤になった美来がプイッと顔をそむける。そんなやりとりも、いつものことだ。
だが今日は、この屋上の平穏が崩れ去る日だった――。
昼休み前、校舎裏。
「…ふふふ。今日こそ、チョコで逆転勝利よ…!」
怪しげに笑うのは、理系最強の先輩・柊 菜乃葉。
1ヶ月前、文化祭で美来と陸が「両想いらしい」と噂を聞き寝込んだ過去を持つ。バレンタインを前にして、彼女は禁断の手段に手を出していた。
「この催眠チョコ、“好きな人の名前”を食べた相手が言っちゃうのよ…。理論上は完璧…。実証は…うちの猫で成功したからいける!」
猫の名前を言わせる催眠チョコが人間に効く保証はないが、菜乃葉の理系魂にそんな細かいことは関係ない。
標的は――塩田 陸。
昼休み。屋上に現れたのは、1年下の中学生・白間真白。勝手知ったる顔で、校門をすり抜け、警備員に会釈して屋上へ。
「やっほー!りっくん!先輩もこんにちは〜」
「ましろちゃん、今日も来たの…!?もう、受験生なんだからお弁当届けに来なくていいのに」
「えー、お姉ちゃんってばケチー!りっくんのお嫁さん候補、最上位のこの私が来てあげたのにぃ〜?」
「そんなランキング存在しねえよ…てか屋上って来ていいの?」
「大丈夫〜。警備員さんに“お弁当配達”って言えば通してくれるよ。もう顔パス♡」
笑ってるけどそれ、問題発言だよね?
そこへ、ひときわ長い前髪を揺らしながら、もう一人の来訪者がやってくる。
「ちょっと、あなたたち何人で屋上占拠してるの?」
柊 菜乃葉、颯爽に登場。
「あっ、菜乃葉先輩…こんにちは」
美来がぺこりと頭を下げると、先輩は手に持っていたハート型のチョコを取り出した。
「これはね、ちょっと変わったバレンタインチョコ。…塩田くん、食べてみる?」
「え?なんで俺?」
「…なんとなく、気になったから」
「じゃあ、もらうけど…お前ら食う?」
「え、いいの!?…私、チョコ大好き!」
と、美来がパクッとひと口。続けて真白も「チョコは正義〜♪」と頬張る。
――その瞬間、菜乃葉の顔が真っ青になった。
(え、ちょ、ちょっと待って!?なんでそっちが食べるの!?標的は陸だったのに――!)
しかも、2人はぴたりと動きを止めた。
「…ねぇ、りっくん」
「ん?」
美来が、チョコを飲み込みながらこちらを見つめる。その目は、まるで夢見る少女。
「私、ずっと前から――」
「ちょ、ちょっと待ったァ!!」
菜乃葉が叫び、教科書を美来の口に押し当てた。
「なんですかっ!?わたし今…いいとこだったのに!」
「それ以上はダメ!今あなた、正気じゃないのよ!!」
「正気だもん!私、正直に話そうと思っただけ…」
「やだ、効いてるぅ…!これ、猫と違って人間には効き目が倍なのかも…!」
そんな中、陸は口に入れたチョコをゴミ箱に投げ捨てていた。
「おい菜乃葉先輩。なんか混ぜたな?」
「ば、ばれてた!?」
「勘でな。てか、言わなくてもお前の顔が全部語ってるわ」
「…ちょっとだけ、惚れ薬的な、催眠的な?」
「アウトやろ」
「りっくんのバカぁあああ!!」と美来は泣きそうに顔を赤くし、上着のフードをかぶって蹲った。
真白はというと、「りっくんの将来の嫁はましろなんだからね!」といつものポジション主張。
そんな混沌とした空気の中、チャイムが鳴った。
ーー
帰り道、美来はどこか落ち着かない様子だった。
「…さっき、ほんとは何て言おうとしてたの?」
陸の問いかけに、美来は小さく首を振る。
「秘密…。ううん、まだ秘密でいたいの…」
「そっか」
夜風に吹かれ、2人の歩幅はピタリと重なる。
いつも通りの、でも少し特別な帰り道。
“天使と悪魔の仲良し大作戦”は、今日も波乱のまま幕を閉じるのだった。