第5話「昼休みの爆撃魔・塩田瑠美襲来!「あの時、キスしたじゃん?」事件勃発」
昼休みーー
塩田陸は、自分の弁当箱を静かに開けた。
「ふふ、今日は卵焼き、ハート型にしてみたよっ」
にこにこしながら自分のお弁当を差し出す少女、夜空美来。
ふわふわの前髪、柔らかな笑顔、そしてほんのりピンクに染まった頬。
“天使”と呼ばれるのも納得のビジュアルと癒し力だ。
「なんでハート型……」
「え? えっと……なんとなく……陸が、喜ぶかなって……」
「……」
ハート型の卵焼きを見つめながら、陸は少しだけ赤面する。
そんな風景が、ここ最近の日常になっていた。
屋上でのふたりきりの昼休み、まるで秘密基地のようなこの時間が、陸にとっても少しずつ、心地よいものになっていた。
が。
その時間は、今日も“奴”に破られる。
「ぴんぽーん♪ お昼の時間におじゃましまーす♡」
屋上のドアが唐突に開いた。
現れたのは、肩までのセミロングをふわりと揺らしながら、にこにこと笑う小悪魔少女――塩田瑠美。
「る、瑠美ちゃん……?」
いつもどうり真白な来ると思っていた陸は驚いた。
「あ~っ、美来お姉ちゃん、今日も相変わらず可愛い♡ 私、目が腐りそう~」
「え、えっと……ありがとう……?」
「でもねぇ~……りっくんは、誰が一番好きなのかなぁ?」
「おい、やめろ。いきなり地雷を投下するな。あとなんで来た?」
陸は弁当をガードするように引き寄せると、瑠美はにっこりと笑いながら自作の弁当箱を取り出した。
「今日はね~、私も作ってきたんだ。りっくん専用弁当♡」
「……誰が食べるんだよそれ」
「決まってるじゃん、りっくん♡」
美来の手がぴくっと止まった。
「あ、あの……陸のお弁当は、もう私が作ってるから……」
「あーん? じゃあ2個食べればいいじゃん! 男の子でしょ? 胃袋つかむのが恋愛の基本だよっ!」
「うぅ……っ」
あからさまに火花を散らす二人。
だが瑠美は、そこで止まらなかった。
「ねぇ、りっくん――あの時、私たち、キスしたじゃん?」
「――はぁ!?!?!?!?」
「「えええええええ!?」」
陸と美来の声がシンクロして跳ね上がった。
「る、る、瑠美ちゃん……!? き、キスって……!?」
「え? やだなぁ、美来お姉ちゃん。あの時の話だよ? 小さいころ、お正月にさぁ……りっくんが私にちゅーってしたの♡」
「待てい!!」
陸が慌てて立ち上がる。
「それはな! 瑠美が4歳、俺が5歳! しかも口にしてねぇ! しかもしかも! 記憶が曖昧すぎて夢かどうかも怪しいやつだろ!!?」
「でもでも~、初キスの相手ってことでしょ? つまり……私が“ファーストガール”♡」
「わけわからん理屈つけんなぁああああ!!!」
美来は完全に真っ赤になってぷるぷる震えていた。
「ふ、ファースト……き、きす……そ、それって、つまり……もう、すでに……」
「落ち着け、美来。聞いてる限り、それはノーカウントだ。間違いなく」
「で~も~? キスはキスだしぃ~? しかも私、覚えてるもん♡ “りっくんの唇はちょっと冷たくて、ラムネの味がした”……って♡」
「な、なんでそんな記憶まで!? 怖いわ!?」
「あはっ、覚えてないの? 残念だなぁ~♡ じゃあ、今度、もう一回する?」
「すんなぁああああああああ!!!!!」
この後、瑠美が来た理由を聞いたら真白が来てたかららしい……まじか……
ーー
その後。
美来は「……やっぱり、私、陸にふさわしくないかも……」と肩を落とし、
瑠美は「じゃ、私がもらってあげるぅ~♪」と笑いながら陸の腕を組み、
陸は「頼むから誰かこの屋上に避雷針を立ててくれ」と呟いた。
翌日、夜空優斗は「おい、また妹が泣いたらしいな」と言って陸に7回目の職質を行うことになる。