第4話「真白、なぜか“妹カフェ”の制服を着て登校し、陸を朝から困惑させるの」
第4話「真白、なぜか“妹カフェ”の制服を着て登校し、陸を朝から困惑させるの」
朝ーー
いつもの登校時間、塩田陸は玄関先で大きなため息をついた。
「……今日は静かに過ごせるといいな」
昨日の“弁当事件”がまだ尾を引いている。
特に夜空優斗の拡声器アタックは、学校中の注目を集めてしまった。
「さすがにもう、事件は起きないよな……」
その時だった。
「りっくーん♡ おっはよ~!」
近づいてくる明るい声。小さな足音。軽快なスキップ。
そして、明らかに制服ではない何かを着ている人影が、向かいの通りから手を振ってくる。
「…………は?」
塩田陸、思考停止。
「お待たせぇ♡ 今日の私はちょっと違うんだからぁ♪」
全力の笑顔で走ってくる少女。
白間真白――陸の従姉妹で、現在中学3年生。
彼女は……妹カフェの制服を着ていた。
「あんたそれ! 完全にアウトだろ!!」
「えっ、でもこれ、昨日メルカリで買ったの♡」
「そこじゃない! 購入経路の問題じゃなくて、そもそもなんで着てきた!?」
「だってさ~、りっくん、こういうの好きでしょ?」
「誰がだよ!? どこの情報だよそれ!?」
真白はにこにこと笑って、ぴょこんと頭を下げる。
ふわふわのカチューシャ。ミニスカ。
完全にカフェバイトのそれである。
「今日はさ、高校の見学日ってことで学校に行こうかなって思ってぇ~♪」
「服装は!? なぜ制服で来ない!? しかも中学生がなぜ高校に……」
「進学予定校の雰囲気調査ってことで♡ 校則にはないよねぇ?」
「あるわ! 大ありだよ!!」
陸は思わず自分のこめかみを押さえた。
そして、目をそっと閉じてつぶやいた。
「今日は静かに過ごせるといいな……って願った、あの3分前の俺を殴りたい。」
「ほら、行こ行こっ♡ 美来お姉ちゃんに会うのも久しぶり~♪ 今日はいっぱい屋上で三人でお話ししよ?」
「もう絶対トラブル起きる……」
高校、屋上。
「……あれ? ましろちゃん?」
「やっほ~♡ 美来お姉ちゃん、お久しぶり~♡」
「か、かわいい服だね……?」
「でしょでしょ~? りっくんが喜ぶかと思ってっ♡」
「えっ、陸が……? こ、こういうのが……」
美来の頬がほのかにピンク色に染まる。
「りっくん、こういうの、どう?」
真白は、くるっと回ってスカートをふわりと広げる。
明らかに狙っている動き。
「や、やめろ! スカート! お前、男子多い場所でその動きは危険だ!!」
「……でも見てるの、りっくんだけじゃん?」
「お前は!! ほんとに!!」
陸が顔を真っ赤にしながら大声を出すと、美来が少し拗ねたように言った。
「うぅ……でも、可愛いよね、ましろちゃん……」
「えへへ~♡ 美来お姉ちゃんも着てみたら? お揃いとかっ♪」
「む、無理だよぉ……そんな……私なんて……」
「いーや、絶対似合う!! てかむしろ店で働いて!! 客めちゃ増えるから!!」
「どこの店!? お前それ営業トークか!?」
陸が突っ込む間もなく、真白はささっと美来に近づいて、小声で囁く。
「……ねぇ、りっくんの好みって、清楚系と見せかけてちょいアピール系だよ?」
「えっ、そ、そうなの……?」
「私、いっつもお正月の初詣の時、ちょっと大胆な服着てたんだよ?」
「た、大胆って……」
「でも毎年、最後は美来お姉ちゃんと一緒に行くでしょ~?」
「あっ……」
「つまり、私たちの戦いは――正月前から始まってるんだよっ!!」
「な、なんだかすごいこと言われてる……!?」
美来の頭がぐるぐる回る中、屋上のドアがガチャリと開く。
「……やっぱりお前か、真白」
「うわっ!? ゆ、優斗兄!? なんでここに!?」
「俺はこの高校の“妹監視官”だ。誰かが妹に絡んでいる気配があれば、即座に駆けつける」
「何そのポジション!?」
「しかもお前、なぜ妹カフェの制服なんだ」
「うっ……」
優斗は一歩、真白に近づいた。
「……これはもう、赤点だな」
「学校違うのに赤点判定!?!?」
「陸、お前。妹が複数人に狙われてることについて、どう思う?」
「いや、なんで俺が代表みたいになってんだよ。」
「これはもはや、“妹系逆ハーレム状態”……いや、“妹サバイバル”だ。」
「お前らみんな妹ってわけじゃないだろ!」
ーー
その日の放課後。
なぜか真白は「生徒指導室」で軽く事情を聴かれ、
美来は「真白ちゃん、すごいなぁ……」と呟きながら反省ノートに“変身願望について”と書き、
陸は「頼むから普通に登校してくれ……」と3度深呼吸した。