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第3話「夜空優斗、妹の下駄箱の花びらを分析して「陸、これは求愛行動の証拠だ」と言い出す」


 朝ーー


「陸、これは……確実に“花びら事件”だ」


「なにそれ怖い」


 いつもの通学路、陸は目を擦りながら、隣を歩く幼なじみに視線をやった。


 夜空よぞら 優斗ゆうとーー

 勉強もスポーツもできるが、ちょっとズレている。

 自称「観察者」で、今日も今日とて警察帳片手に武装していた。


「いいか、陸。昨日の放課後、俺はたまたま自分の妹…」


「夜空 美来だな。」


「そうだ。その美来が下駄箱を開けたとき、白い花びらがひらひらと……落ちてきたんだ。」


「……で?」


「で、だよ。おかしいと思わないか? この季節、花は咲いてない」


「そういうのって大抵、誰かが花を仕込んだだけでは?」


「違う。俺の推理では、これは“求愛”の証拠だ」


「お前な……」


「第一発見者はこの俺。そして状況証拠もある」


 優斗は懐から1枚の写真を取り出した。


 花びらが1枚、下駄箱の下に落ちている写真。


「証拠写真……!」


「陸、俺はね、妹のために動いてるんだよ。美来を変な男から守るために」


「でもそれ、“誰かが好意でやった”って前提じゃん。犯人って決まってないんだろ?」


「……そう、そこなんだ」


 優斗の目が光る。


「そこで、俺は思った。“妹に好意を抱いていそうな男”をリストアップする必要があるってね」


「おい、嫌な予感しかしないぞ」


「まず1人目……お前だ、塩田 陸」


「はい出た」


「昼間から弁当を食わせ合い、屋上で二人きり。しかも昨日、唐揚げのあーん寸前まで行った」


「いや、見てたのかよ」


「そしてこれは決定的だ。昨日、美来が帰り際、こう言ってた。“うーん……明日はもっと美味しく作らないと……”」


「……」


「これは“料理で気を引こうとする乙女の心理”。妹がそんなふうに呟くのを俺は初めて聞いた!」


「ストーカーかお前は」


「違う。家族を想う兄貴として当然の行動だ」


 優斗は手帳をめくりながら真剣な顔をして言う。


「ということで陸、お前、妹に惚れてるだろ」


「いや、ないない。断じてない」


「じゃあ、あの唐揚げをどう説明する?」


「……唐揚げに罪はない」


「言葉を濁したな?」


「濁してねぇよ!」


 優斗はふむ……と腕を組んだ。


「これは本格的に“美来観察会”を開催する必要があるな」


「いやいや、巻き込むなよ俺を!てか今更だけどなんでここにいるんだよ!?」


 

ーー

 


 昼休み。今日もいつも通り、屋上。


「はいっ! 今日のお弁当は、なんと……和風ハンバーグですっ!」


「昨日より気合い入ってない?」


「ふふん、ふっふーん♪」


「テンション高ぇな」


「えへへ、昨日は失敗しちゃったから、今日はちゃんと……口に入れてもらうんだ!」


 美来はそう言って、ちょこんと陸の前に座る。


 ふわっと広がる甘辛い匂い。

 タレが絡んだ小ぶりのハンバーグが2個、可愛らしく並んでいた。


「これ、朝から作ったのか?」


「うんっ! お母さんにちょっとだけ手伝ってもらったけど……ほとんど自分で!」


「……じゃ、いただくか」


「うんっ!」


 今日こそちゃんと食べさせてあげたい――そんな目をしていた。

 少し恥ずかしそうに、それでいて期待に満ちた顔。

 その表情に、陸の心はちょっとだけ跳ねた。


「……あーん」


「……あーん」


 パクッ。


「――うまっ」


「やったぁっ!!」


 笑顔。満開。


 そしてその瞬間、


「ストップッ!!」


「!?!?!?」


 またもや現れたのは校門の茂みにいる夜空優斗。

 しかも手には拡声器と双眼鏡を持っていた。


「観察対象A(美来)と対象B(陸)が、弁当を通じて接近中! 要注意! これは兄として見過ごせない!」


「うわあああ!? やめてぇっお兄ちゃん!!」


「陸、お前、妹の弁当をあーんで食べてたな? 言い逃れできん!」


「だからそれは――!」


「ふたりとも……は、恥ずかしいからやめてぇっ!!」


 美来の絶叫が屋上に響いた。


 

ーー

 


 放課後。

 いつものように三人で帰る道すがら。


「……優斗、さすがに今日はやりすぎだと思うぞ」


「反省している」


「早っ」


「ただな……妹が笑ってくれるのが一番なんだよ。陸といるとよく笑う。俺は、そこだけは認めてる」


「……素直になれよ最初から」


「それと、これだけは言わせてくれ」


 優斗がすっと陸に差し出したのは、1枚の写真。


 今日の昼休み、笑顔で陸の前にお弁当を差し出す美来の姿だった。


「俺が撮った中で、最高傑作だと思う」


「いや、盗撮やめろ」


「あと、俺は撮影技術も上げていくから、よろしく」


「やめてくれってば!!」


 後ろで、美来が「もうやだぁ~……」と赤くなってうずくまっていた。


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