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9話「焼きそばパンと三角関係!?学校帰りに選ばれるのは誰!?」

 

 文化祭から数日が経ち、校内にはようやくいつもの静けさが戻ってきていた。とはいえ、2年B組においては、静けさとは無縁な話である。


「ねぇりっくん、今日は放課後どこ行くの?コンビニ?ゲーセン?それとも帰って一緒に動画見る?」


「はいはい真白落ち着いて。俺、まだ掃除当番だって」


「じゃあ待ってるからっ!」


 教室の前で、相変わらず陸にぐいぐい迫る真白。

 その様子を教室の後ろから、視線を感じるままに眺めていたのは、美来。


(……また真白ちゃん。ああやって“ぐいぐい系後輩”で押されると、陸、まんざらでもなさそうに見えるんだよね)


 教科書を片付けながら、ふと自分の胸元を見下ろす。

 文化祭で着たメイド服とは違い、今日は至って普通の制服だ。リボンが少し曲がっている。


「……ふん、どこ見てんのよ」


 小さく舌打ちして、窓の外を見た。

 日がだんだんと傾いて、放課後の時間がゆっくりと染まっていく。


 ーー


 一方そのころ、廊下では菜乃葉が自販機の前で焼きそばパンと格闘していた。


「……出てこない。ていうか、なんで焼きそばパンのときだけ、いつも引っかかるの」


 彼女は少しだけ陸に好意を寄せていた。…とはいえ、それを自覚しているわけではない。

 むしろ、自覚してしまうと“こじらせ”のスイッチが入ってしまう厄介なタイプ。


「もう……こうなったら、手で取るわよ…!」


 ガコンッ!


「あっ、危な――」


 その瞬間、自販機の横からひょいっと手が伸びて、焼きそばパンをキャッチしたのは――


「お、お前……菜乃葉、焼きそばパンに殺されかけるのそろそろ5回目だぞ」


「し、塩田陸!……な、なによ、見てたの?」


「いや、助けただけだけど。てか焼きそばパン、どんだけ好かれてんだよお前」


「こっ、これは……縁よ、縁!!運命ってやつよ!」


「……運命って、焼きそばパンに対して?」


「……違うわよバカ」

 彼女は赤くなって目をそらした。


 


 その日の放課後。

 陸、美来、真白、菜乃葉、そしてクラスメイトの数人で「帰り道コンビニ立ち寄りコース」が発生した。


「いや~文化祭終わった後の開放感、やばくね?」


「てか俺、あの劇の動画いまだに再生されてるんだけど…コメント欄が“女装似合いすぎ”で埋まってる…」


「ほんと、陸先輩ってば罪な男ですねっ!」


「なにその“魔性の男”みたいな扱い…」


 そんな和やかな雰囲気の中、コンビニ前のベンチでひと休みするメンバーたち。

 そのとき、風がふわっと吹いて、美来の前髪が揺れる。


「……ねえ、陸」


「ん?」


「文化祭のときのセリフ、本当に“演技だけ”だった?」


 一瞬、空気が止まったような気がした。


 周囲が気を使って少し距離を取るなか、陸は口を開く。


「……わかんねぇよ、正直。けど、演技でもあの瞬間だけは――本気だった気がする」


「――っ」


「お前は?」


「私も……同じ。演技だったけど、“ドキドキ”は、本物だったよ」


 二人の間に、また沈黙が流れた。


 が。


「えっ、ちょ、待って!?それ、えっ、今、聞いてていいやつ!?ねぇ!?」


 真白がベンチから飛び上がる。


「う、うそでしょ!?りっくん!?えっ!?美来先輩!?えっ、なにそれ!?恋愛的なやつ!?恋バナ!?修羅場!?えっ!?えっ!?」


「落ち着け真白…」


「無理!それ無理!このままじゃ三角関係まっしぐらじゃないですかっ!」


「……違うよ」


 ぽつりと、美来がつぶやいた。


「三角関係なんて、なってない。……私、別に告白したわけじゃないし。ただ、“あのときの演技が、本当っぽかった”って言っただけ。ね?」


「……あ、ああ。そうだな」


 陸も言葉を濁した。


 真白は、胸に手を当てて、深呼吸した。


「ふーっ、よし。じゃあ今から“ガチ恋バトル”ってことで!」


「おい、勝手に宣戦布告するな」


「するもんっ!真白、もう決めたんだもん。りっくんといるときが、一番“自分らしくいられる”って!」


「…私も、負けないよ」


「菜乃葉まで!?うそ、まさかの参戦!?待って!?え!?これ、陸を巡っての戦争なの!?」


「いや、ちげぇだろ絶対に」


 ーー


 それから数分後。

 それぞれの帰り道、3人の女子の心は複雑だった。


 美来は、自分の気持ちにようやく気づき始めたばかり。


 真白は、恋心を“真っ直ぐ”にぶつけられる自分を信じていた。


 菜乃葉は……まだ、その気持ちに名前をつけていなかった。


(でも、なんかイライラするのは……なんでだろう)


 そんな微妙な三角関係が、静かに動き始めていた――。


 

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