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『絶対に許さない!私は本気だったのに。恨んでやる』


大雨が降っている中ずぶ濡れになっている女性のシルエットが見える。

風も強く吹いていて、嵐なのだろうか。


『この恨みは消えることが無いから!忘れるな!』


女性の低い声が頭に響いて私はハッとした。

馬車の中でいつの間にか眠ってしまったようだ。

前に座る叔父と叔母が私を心配そうに見ている。


「凄い怖い夢を見た気がするわ」


 欠伸をしながら言うとヘレン叔母様は頷いた。


「良く寝ていたと思ったら、急にうなされていたわよ」


「馬車の中で寝ているからだ」


 叔父様に言われて私は軽く伸びをした。

 狭い馬車で縮こまっていたから変な夢を見たのかもしれない。

 窓の外を見ると青空が広がっておりいい天気だ。

 先ほど見た夢は大雨が降っていた。

 思い出すだけで嫌な気分になりため息をついた。


「これから宝石を宣伝しに行かないといけないんだぞ。もっと楽しそうな顔をしろ」


 叔父さんに言われて私は作り笑顔を向ける。

 

「大丈夫よ。私がデザインしたアクセサリーは間違いなく売れると思うわ。お兄様が作ったものより石もデザインも素敵だもの」


 嫌な夢は忘れて、自分の作った宝石を売ることに専念しようと気持ちを切り替えた。

今日は、王妃も交えての大きなお茶会だ。

未婚の女性も沢山出席する予定だと聞いたのでこの機会に私のデザインした宝石も絶対に売ってやる。



 馬車が城ににつくと多くの参加者で渋滞をしていた。

 仕方なく入口から遠いが歩いて会場へ向かう。


 私は自分がデザインした宝石で固めたが、叔母様は兄が作ったアクセサリーを三人付けている。

 叔父様はカフスや眼鏡のふちに小さな宝石を付けたりと男性でも違和感ないようなデザインのものを着用している。

一族揃って売り込む準備は万端だ。


大広間はすでに人が集まっており、昼のお茶会というだけあって穏やかな雰囲気だ。

私たちはお互い視線をあわえて頷いた。


「私は知り合いに挨拶をしてくるわ」


 ヘレン叔母様はそういうといそいそと人々の中に入って行った。

 私は叔父様と頷き合う。


「レクレアは初めてだからワシとあいさつ回りだ」


 私は頷くと指輪が付いた手をさりげなく胸元に持ってくる。

 

「これはモーリス殿」


 早速叔父様に挨拶をする父と娘がやって来た。

 私と叔父は営業用の笑みを浮かべる。


「お久しぶりです」

「そちらのお嬢様は……」

「えぇ、私の姪です。兄がずっと指導しておりまして、やっと自立したんですよ」


 叔父の言葉に私は笑みを浮かべて頷いた。


「初めまして。ルクレアと申します」


「あぁ、噂になっていますよ。お嬢さんが作った魔法具をカイネス殿下が買い取ったと。腕がいいんですな」


 私と叔父は視線を合わせて頷く。


「えぇ、このアクセサリーも姪がデザインをしたんですよ。若い女性に会うような素敵なデザインで……」


 そんなやり取りを何度も繰り返して営業用の笑みを浮かべていた私は叔父様を振り返った。


「叔父様、少し疲れたわ」

「わしもだ、少し休むか」


 ジュースを手に叔父様は壁際の椅子に腰かけた。


「私、外の空気を吸ってくるわ」


 気分を変えようと、大広間から出て廊下に出た。

 少し庭園にでも行こうかと歩き始めると、前からカイネス殿下が歩いてくるのが見えた。


「こんにちは」


 私が挨拶をするとカイネス殿下は頷いてくれる。


「お茶会と言う名の営業の日か」


「そうです。疲れましたけれど、手ごたえはありました」


 鼻息を荒くして言う私にカイネス殿下は微笑んだ。

 彼の頬笑みを見ると、疲れていたが元気が出てくる。


「カイネス殿下はお仕事ですか?」


 手に書類の束を持っているのを見て私が聞くとカイネス殿下は頷いた。


「いつもの事だ」


 それは大変ですねと言おうとすると体が固まって動かなくなる。

 一瞬びくっと体動き、私の口が勝手に話し出した。


『あら、とっても素敵ね。私、あなたの顔が好みだわ』


 とんでもないことを口走り慌てて謝ろうとするが、口がゆうことを聞かない。

 カイネス様は顔をしかめ私をじっと見つめている。


『私が大好きだった人にとてもよく似ているんだけれど、もしかして親戚なのかしら』


 また私の口が勝手に動き出した。

 どうしてしまったのだろうか、内心焦っているのに私の顔はにこやかに微笑んでいる。

 自分の意思と関係なく話している自分に恐ろしくなる。

 

「何を言っているんだ?大丈夫か?」


 カイネス様は一瞬私を睨みつけた後、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 背中をさすられて私の体ガヤっと自由に動き始めた。


「はっ。今私、何を言っていました?口が勝手に動いたんですけれど」


 やっと自由になった手を動かしながら言うとカイネス様は険しい顔になる。


「口が勝手に動いた?」


「はい。私、どうしちゃったんだろう」


 頭がおかしくなってしまったのだろうかと不安になってくる。

 カイネス様は少し考えて私の背中を優しく撫でた。


「疲れているのかもしれないが、少し気になるな……。もう帰った方がいい」


 カイネス様はそいう言うと近くの騎士に頼んでモーリス叔父様を呼んできた。

 おばさまも一緒に廊下まで出てきてくれる。

 私がカイネス殿下と一緒にいることを驚いているようだ。


「どうしたの?体調が悪くなった?」


 心配してくれるヘレン叔母様に私は首を振る。


「悪いっていうか、口が勝手に話すの」


「はぁ?」


 理解できないような顔をされて私も理解できないと頷く。


「勝手に口が話すのよ。体を乗っ取られたみたいな感じで勝手に動くの」


 叔父様も理解できないような顔をして私を見ている。


「その通りだ。俺も見たから確かだ。全く別の人格に見えた」


 カイネス様は私を注意深く見ながら説明してくれ、やっと叔父様たちは信用してくれたようだ。


「頭でも打ったのか?」


「記憶にないわ」


私がいうとカイネス様は難しい顔をしている。


「考えられるとしたら、呪いのサファイアの影響かもしれない」


「呪いのサファイア……」


 私と叔父様の声が重なる。


「だから言ったじゃない。そんなもの見に行って大丈夫なのって、呪われたのよ!」


 ヘレン叔母様は震えていうとカイネス様は頷いている。


「確かに不用意に触ったのがいけなかったのかもしれない」


「触ったの?間違いなく呪われているわ。早く家に帰って塩のお風呂でも入りましょう」


「塩?」


 また私とおじさまの声が重なる。

 ヘレン叔母様は当たり前のように小さなパーティー用のバッグから小さな巾着を取り出すと指をつっこんで何かを取り出すと自分の頭にかけ始めた。


「それは一体何?」


 叔父様と私がじっと見つめているとヘレン叔母様はまた指をつっこんで足元にもかけた。


「塩よ!幽霊には塩がいいのよ。カイネス殿下もかけますか?」


「いや、結構だ」


 巾着の中身はどうやら塩らしい。

 また指を突っ込んで私とおじさまの頭に塩をかける。


「これじゃ足りないわ!早く家へ帰りましよう」


 さっさと歩き始めたエレン伯母様を呆気に取られていたが私たちも慌ててついてく。


「カイネス殿下、失礼します」


「ご迷惑をおかけしました」


 私と叔父様はあわてておばさまの後をついてく。


「こちらも調べよう。何か変化や困ったことがあったら連絡してくれ」


 カイネス様の言葉に私は振り返って頭を下げた。


「ありがとうございます」

 


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