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 自分で考えてデザインした作品が売れるのはうれしい事だ。

 それも美形のカイネス殿下が付けてくれるのはとてもうれしい。


 手を叩いて喜ぶ私をカイネス殿下は微かに微笑んでくれる。

 

「デザインもいいが石の質がいい。研磨の腕もいいのだろうな」


 カイネス殿下のお言葉に私は嬉しくて叔父様を振り返った。


「聞いた?ほら、私頑張ったから認めてくれたのよ!」


 はしゃいでいる私を見て叔父様はため息をついた。


「全く、少しは落ち着いて貴族の女性らしいふるまいをしてほしいものだ。もしかしたらお前の結婚相手が城で見つかるかもしれないんだぞ」


「えっ?そう言う感じだったの?」


 私はてっきり装飾品の腕試しだと思っていたが別の理由もあったようだ。

 驚いている私に叔父は頷いた。


「王都に来たんだ、いい嫁入り先だってあるかもしれないだろう。あんな田舎ではいい男などおらんからな!」


「まぁ、たしかに年頃の男の子は皆結婚しているわ……」


 稼業の宝石づくりの勉強が忙しくて異性関係は全く興味が無かった。

 そのために気づけば周りは結婚しており、取り残された状態だ。

 カイネス殿下は微笑みながら口を開いた。


「ルクレア嬢のお相手は居ないのか。今年で18歳だったかな」


「そうです。彫金の勉強をしていたからすっかり取り残されました。けれど、私宝石の仕事が出来ればそれで十分なんですけれど」


 結婚なんて考えられないと唇を尖らせる私をカイネス殿下は頷く。


「彫金はぜひ続けてほしいものだ」


「もちろん続けます!」


「しばらく滞在するのか?」


 カイネス殿下に聞かれて私は頷いた。


「はい。しばらく居る予定です。王都の宝石店をめぐってデザインを見てみたいし、感じで宝石を使っているのか実際見学をしたいと思っています」


「そうか。ルクレア嬢が自由に出入りできるよう手配しておこう」


「ありがとうございます」


 叔父様は頷くと、テーブルの上に乗せていた研磨された石と私の父が作った装飾品を指した。


「こちらはどうですか?」


「もちろん、買い取る。魔術師に回しておいてくれ。宝石は研究室へ持って行ってくれ」


「ありがとうございます」


 叔父はそう言うと立ち上がったので私も慌てて立ち上がった。

 カイネス殿下も立ち上がると私を見つめた。


「これからもいい仕事を期待している。頑張ってくれ」


「ありがとうございます」


 どこか懐かしいような気分になりながら私はカイネス殿下にお礼を言う。

 目を細めて私を見つめるとカイネス殿下は部屋を出て行った。


「叔父様、カイネス殿下ってとっても素敵で優しいわね!」


 殿下が出て行き姿が見えなくなったドアを名残惜しく見つめたら呟いた。

 叔父様は呆れた様子だ。


「言っておくが、カイネス殿下と結婚出来ないからな」


「解っているわよ。でも、もしかしたらカイネス殿下が私に一目ぼれしたかもしれないわよ」


「それは無い!」


「だって、私の作ったもの全部買い取ってくれてそれに専属にしてくれるんだもの。きっと私に気があるのね」


「ないない。お前の腕とデザインが気に入ったんだ」


 否定する叔父に私は首を振った。


「もしかしたらってこともあるわ。私、カイネス殿下に一目ぼれしたもの。それに、懐かしくて大好きって気持ちになったわ。異性でこんな気持ちになったの初めてよ。きっと運命ってやつね」


 うっとりしている私に叔父様は呆れながら手を振った。


「年頃の女性はみんなカイネス殿下に惚れるんだ。そして相手にされなくて離れていくんだ。お前も気ずれ気付くだろうが、とにかく期待をするなよ」


「叔父様ってば、真面目ね」


「可愛い姪の将来を心配しておるんだ!とにかく、ワシは魔法師の詰め所と研究室へいって商品を納品してくるからお前は庭でも見ていなさい。それか、ここで待っていてもいいがあまりウロウロするな」


「はい」


 テーブルの上に乗っている宝石や魔法具を鞄に詰めていそいそと出て行く叔父を見送って私は窓から庭を眺めた。

 王都の城の庭は冬だというのに綺麗な花が咲いている。

 薔薇の様な花やユリのような花が咲いていて、庭の中心には池が見えた。


 初めて見る庭園なのになぜか懐かしさを感じて私は首を傾げる。

 この景色を見たのが初めてでないような感覚だ。

 夢で見たのか、昔来たことがあるのだろうか。


 もっと近くで見てみようと窓を開けて庭へと降りた。

 外廊下を歩き、池へと向かう。

 石畳の整地された道を歩く。

 手入れがされた生垣を超えると池にたどり着いた。

 池の水は澄んでいて、小さい魚が泳いでいるのが見えた。

 外は寒いので、庭園は人影が無い。

 城の外廊下を騎士が歩いているが私がここに居ることを気にしている様子もない。


 水が湧きでているようで、心地よい水音が響いている。

 住んでいる実家も田舎なので水音を聞くと落ち着くが、なぜか少しだけ心がざわついた。

 城という自分にそぐわない場所に居るからだろうか。

 澄んだ水の中で泳いでいる小魚をじっと見つめていると背後から肩を力強く掴まれた。


 驚いて振り返るとカイネス殿下が恐ろしい形相で私の肩を掴んでいた。

 険しい表情のカイネス殿下は私を見下ろすと緊迫した声を出す。


「何をしている。危ないだろう」


「水が……綺麗だなと思いまして。小魚を見ていました」


 池を見ていただけなのに、カイネス殿下は硬い表情だ。


「池に近づくな。この池は特に危ない」


「城の中だからですか?何か仕掛けがあるとか?」


 カイネス殿下の迫力に恐ろしくなり池から素早く離れた。

 私の腕をつかみながらカイネス殿下は首を振る。


「こう見えてこの池は深い。地中から水が湧き出ているが、藻が多く一度落ちたら絡まって上がれないこともある」


「それは、恐ろしいですね」


 水の中で溺死するのを想像して息苦しくなってくる。

 顔を顰めている私を見てカイネス殿下は表情を緩めて掴んでいた手を離してくれた。


「すまなかった。池に落ちてしまうと心配になった」


「いえ、注意してくれてありがとうございます」


 足を滑らせて落ちたらと思うとぞっとする。

 池は綺麗だが、今度から気を付けよう。

 

「綺麗な所ですけれど、気を付けます」


 この景色は嫌いでないが、カイネス殿下が様子からして危険なのだろう。

 何となく名残惜しそうな私に、カイネス殿下は頷いた。


「もし、池が見たければ誰かと一緒に来ることだ。俺でもいいし、モーリスでも連れてくればいい」


 カイネス殿下の言葉に私は首を振った。


「まさか、池が見たいだけでカイネス殿下をお供になんて出来ません」


 友達でもないのに気安く声なんて掛けれるわけがない。

 カイネス殿下はなぜか軽く笑った。


「気にする必要はない。俺も暇ではないが、ルクレア嬢が声を掛けてくれればいくらでも時間を作ろう」


「あ、ありがとうございます」


 思わず、私に一目惚れしました?と言いそうになり平静を装ってお礼を言った。

 カイネス殿下は頷くと私の背を押して歩き出した。


「とにかくこの池に一人で近づくな」


「はい」


 よっぽど危ないのだろう、カイネス殿下は私を池から早く遠ざけたいようだ。

 カイネス殿下をそっと見上げると、あまりの美しさにポーっとしてしまう。

 田舎にはこんな男性居なかった。

 流石王都だ。

 今日会ったばかりなのに、優しくされてますますカイネス殿下を好きになってくる。


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