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 馬車の小さな窓からとんがった青い屋根の城が見えて私は黄色い声を出した。


「叔父様!お城だわ!すごく豪華ね」


 はしゃいでいる私を見て前に座っているモーリス叔父様は眉をひそめた。


「恥ずかしい。城を見たぐらいでそんなにはしゃぐな。お前もいい大人だろう。淑女というものを勉強してこなかったのか」


「お母さまはうるさく言ってくるけれど、お父様は全く言われないわ。その代わり宝石細工について煩いけれどね」


「あー、兄さんは職人だからな」


 モーリス叔父様は私の父の弟であり王都で魔術宝石師として城に勤務している。

 魔術を扱うエリートの人達に宝石を作っているのだ。

 今回私も田舎から宝石をもって王都にやって来たのだが、初めて城に行くことが出来て胸が高る。


「いつもお父様が宝石をもって城にきていたけれど、今回は私が大役を仰せつかったのよ。ちゃんと宝石を研磨してアクセサリーを作ることだってできるわ」


 偉そうに私が言うと叔父様は肩をすくめた。


「一流の腕にならなければ兄さんがよこす訳ない。腕を直接みせてもらったから大丈夫だ。ワシが心配なのはそこではない、鉱山の男連中と混じって仕事をしているルクレアが城でマナーを守ることが出来るかが心配なんだよ」


「酷いわ叔父様。私だってちゃんとできるわよ」


 自信満々な私に叔父様は深いため息をついた。


「これから会うのはカイネス殿下だ。王の弟君であるが、魔法騎士団長補佐をしておられる方だ。失礼のないようにしなさい」


「大丈夫よ!それより、カイネス殿下ってすごい美形なんでしょう?お会いするのが楽しみだわ!どうしよう、一目で気に入られて結婚を申し込まれたら」


 両手を合わせてうっとりしている私を眺めて叔父様は首を振った。


「無理だろう。ルクレア、お前はお世辞にも美人とはいいがたく上品でもない。殿下は今年で28歳になる大人だ。お前みたいな元気だけが取り柄のような子供を相手にするわけがない」


「酷いわ!夢をみたっていいじゃない」


 ブスッとする私に叔父様はにやりと笑う。


「真実を伝えるのも必要だからな。父親似だから、お前は美人ではない!」


 はっきりと言われて窓に薄っすら移る自分の顔を見る。

 どこにでもいるような茶色い髪の毛に、特徴のない顔は確かに美しさは無い。


「会ってみないとわからないわよ」


 私は宝石が入ったカバンを抱えなおして叔父様に言った。



 「今回、宝石の品定めをするのはカイネス様なの?」


 城の中を歩きながら前を歩く叔父様に聞く。

 赤い絨毯が敷かれた廊下は長く、時折騎士や侍女とすれ違い本当に城に来たのだと感動する。

 騎士達は叔父様とすれ違う時に軽く頭を下げているから、私が思うより宝石商であり魔術宝石師の叔父様は偉いようだ。


 私と叔父が手掛けている宝石はただの装飾ではない。

 魔術を掛けて常に身に着けることが出来るように仕上げるまでが仕事だ。

 田舎の実家の鉱山は宝石が採掘されている。

 魔術を入れても耐えられるような宝石が採掘されるのだ。

 生まれたころから父親に扱かれて、宝石の見極めと研磨、そして宝飾の腕を磨いてきた。

 最近では父親よりも素晴らしいものを作るのではないかと自負しているぐらいだ。


 宝石が入ったカバンを抱えて叔父様の後に続いて一室へと入った。

 お城の外れに近い部屋は豪華な部屋を想像していたが、机と椅子だけの簡素な部屋で拍子抜けしてしまう。

叔父様は慣れたように椅子を引いて座ると、私にも座るように促した。


「もうすぐカイネス殿下も来られるだろう、すぐに説明できるよう宝石をテーブルに出しておくといい」


 叔父様はそう言うと自分の鞄から装飾済みのアクセサリーなどを数点並べていく。

 私も同じように、自分が研磨した石と装飾したアクセサリーを並べ始めた。

 魔法師がもし戦闘になった時魔術を入れておく道具は小さい方が良い。

 何に魔法を入れて行くかは魔法師の好みだ。

 指輪を好んでするものもいれば、ピアスやネックレス、ブレスレットやボタンなどそれぞれ好みがある。

 今回は何点か魔法師から依頼があった指輪とピアスを数点持って来た。


 道具を並べているとドアが開いて美形の騎士が入って来た。

 黒い髪の毛に黒い瞳そして黒い騎士服を着ていてまるで闇の住人のようだ。

 騎士服の胸に魔法師の紋章のバッヂを付けている。

 

「カイネス殿下だ」


 叔父様は私に囁くと立ち上がって殿下を迎える。

 私も慌てて立ち上がった。


「お久しぶりです。今回は姪が独り立ちしたのでご挨拶にお伺いしました」


 叔父様が軽く言うとカイネス殿下は無表情に頷いて私を見た。

 黒い瞳が私を見て驚いたように目を見開いた。


「えっと、初めまして。姪のルクレアです」


 じっと見つめているカイネス殿下に私は眉を潜めて叔父様を振り返る。


「私どこかおかしい?」


 小声で聞いたつもりだが、カイネス殿下に聞こえていたようだ。

 彼は軽く口角を上げると首を振った。


「いや、すまない。かなり昔の知り合いに似ていたから驚いてしまった」


「はぁ……」


 気の無い返事をする私の腕を叔父様がつねった。

 痛みで声を上げそうになり叔父様を睨みつける。

 叔父様も私を睨みつけてちゃんとしろと言っている様子だ。

 仕方なく気を取り直してテーブルの上に並べている宝石を両手で示した。


「今回オーダーがあったピアスと指輪です。私がデザインをして作りました」


 サファイアの石が入った小さなピアスを箱ごとカイネス殿下に渡した。

 私の顔をじっと見ていたカイネス殿下は頷いて箱を受け取るとピアスを指でつまんで注意深く観察しはじめた。


「悪くない作りだ。サファイアは俺の魔法と相性がいい」


 カイネス殿下は手の平に両ピアスを乗せると握りしめた。

 ブゥンという音が響き、カイネス殿下の手が青く光る。

 ゆっくりと開かれた手の平のピアスは一見変化なさそうだが、小さなサファイアがキラキラと輝いているのが見える。


「わぁ、凄いですね。魔法なんて初めて見たけれど、宝石がイキイキして輝きが増しているわ」


 感動して大きな声で言った私に叔父様はまた睨みつけてくる。

 淑女としてマナーがなっていないと心の声が聞こえてくるようだ。

 カイネス殿下は気にした様子もなく微笑んで私にピアスを渡してくれた。


「宝石の輝きが増している……か、昔の知り合いも同じことを言っていた」


「その人もすっごく宝石が好きだったんですね。こうして大切に宝石が使われるのは嬉しいです。宝石も喜んでいるわ」


 魔力が入ったピアスは光が当たり研磨した時よりもキラキラと光が当たり輝き増している。

 生憎私に魔力が無いので、どのような効果があるかは不明だがこうして私が作った装飾品が大切に使われそして魔法師の助けになることは嬉しい事だ。


 ピアスを確認してカイネス殿下に返す。


「じゃ、これは買い取ってくださるっ」


 話の途中で叔父様がまた私の腕をつねった。


「買い取るとかそう言う話を露骨するもんじゃない」


「はーい」


 呆れている叔父様と不貞腐れている私を見てカイネス様はクスリと笑う。


「元気だな」


「元気だけが取り柄ですからねぇ。まぁ、研磨と彫金の腕は確かですよ」


 叔父が言うとカイネス様は頷いた。


「そのようだな、全部買い取ろう」


 カイネス殿下の言葉に私は手を叩いて喜んだ。


「ありがとうございます!全部なんて嬉しいです!今回は私のお小遣いになるんです」


 顔を輝かせている私を見てカイネス殿下は微笑んでいる。


「それは良かった。俺の物はルクレア嬢の作ったものを扱うことにしよう」


 カイネス殿下のまさかのご指名に私は手を叩いて喜んだ。


「ありがとうございます」


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