「お水にありがとうって言ったら、やさしくなった気がした」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
土曜日のお昼、公園のベンチでひとやすみ中に、お水を見つめながらひとりごと。 「ありがとう」を込めることで、きっと味もやさしくなるんだと思ってる。 ――そういう話を真顔で言える関係、わたしはけっこう気に入ってる。
荻野目 蓮
陽葵の話は、たまにファンタジーを超えてくる。 でも、全否定なんてできないのは、それが“陽葵らしさ”だから。 ――ちゃんと向き合って、最後には「なるほど」って言える自分でいたいと思う。
【こんかいのおはなし】
ある土曜日のお昼。 ベンチの上、陽葵がペットボトルの水を見つめてた。
「……ありがとう」
「なにに?」
「このお水に」
「え」
「飲む前に“ありがとう”って言うとね、ちょっとだけ優しくなる気がするの」
「味が?」
「うん、きっと、伝わるんだよ。ありがとうって」
「……それ、科学的な話じゃないよね?」
「ううん、これはもう“ひより的感覚論”」
蓮が笑いながらうなずいた。
「なるほどー」
「でしょ? このお水もね、“やさしくなぁれ”って感じで体にしみるの」
「すごい……もはや魔法」
「ちがうよー、“ありがとう”の魔法!」
ゴクンと水を飲んでみた。
「……あ、なんか今日、心まで潤った気がするー」
「気のせいじゃなくて?」
「気のせいじゃない。断言する」
蓮もひと口飲んでみて、少し目を閉じた。
「……たしかに、なんか、いいかも」
「ね!」
「陽葵の“ありがとう”、わりと効力ある説」
「もー、それ真顔で言われると照れるからやめてー」
風がふわっと吹いて、木漏れ日が揺れた。
ふたりの間に、透明でやさしい時間が流れる。
その午後、空の青さがちょっとだけやさしくなった気がした。
【あとがき】
ありがとうって、言った相手だけじゃなくて、自分にも染みわたる魔法かもしれない。 そしてその言葉が、誰かと一緒に飲む水の中にあったなら―― それはもう、きっと最高に“嬉しい”って魔法になると思います。