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3-1 2つ目の飴

今日はいつものならお茶会だが、

エリックが案内したい所があるというので、

お出かけする事になった。


初めてのデート?とちょっとどきどきする。


よそ行き用のワンピースは細かい柄の生地に、

所々レースが使われた高級な品で、

少し膨らんだスカートは気分を高めてくれる。


ワンピースに合わせた帽子も、

鍔が大きなレースが使われた高級な物で、

いかにもお嬢様と言った風な風貌だ。


「お待たせ」


エリックが迎えに来てくれる。


私は少し気取って、


「本日はよろしくお願い致します」


と挨拶をする。


「か・・・かわ・・・・」


とエリックが何か言いかけて、口ごもる。


以前なら、なに?と思っていたと思うけど、

心が読める飴のおかけで、

私の事を本心から可愛いと思っていると知っているので、

多分その辺りだろうと、ふふふと余裕である。


それにしても車か、


若い男性は「産業革命」なんて言っていて、

高位貴族やお金持ちは車を所有するようになった。


とはいっても、一般にはまだまだ普及しておらず、

一般庶民には高嶺の花だ。


我が家も、馬車で十分と、

(運転手を雇うのがもったいない)

車は所有していない。


初めて車に乗るとあって、それも楽しみにしていた。


実際乗ってみて、不思議な匂いがする。

しばらくして、燃料の油の匂いだと気づいた。


ドレスに匂いが移らないか、少し心配になる。


中は思ったより狭く、馬車の方がゆったりしている。


ドアがバタンと閉められ、車が動き出す。


馬もいないのに、鉄の箱が動くのは不思議だ、

ちなみに、運転手ではなく、エリックが運転している。

横顔は真剣そのものだ。


「今日はどこに行くの?」


「着いてからのお楽しみだ」


そう言って、事前から何も教えてくれない、

意地悪とちょっと不貞腐れた気持ちになる。


道は完全に舗装されている訳ではなく、

途中大きな石などあると、ガタンと大きく車体が揺れる。

馬車よりずっと揺れるので、

少し不安になりながらも、ドライブを楽しんだ。


20分ぐらい走っただろうか、

山の入り口らしき所に来た。


「この先は馬で移動する、俺の前に乗って」


「いいえ!私は自分で馬を駆るわ!」


馬に乗ると聞いて、目が輝く。


私の領地は元々馬が名産、

足が速い馬も沢山いて、乗馬には自信がある。


「しかし、そのドレスで」


心配するエリックを後目に、ひょいと馬に乗る。


「今日はよろしくね」


馬の首筋を撫でてあげると、

おりこうな馬は分かったとばかり頭を下げる。


「せい!」


私はワンピースを着ている事も忘れるかのような、

猛スピードで馬を走らせていく、

行き場所は聞いてないが、道が1本しかないので、

とりあえず道なりにいけばいいだろう。


エリックが驚いたように、あわてて付いて来る、

私の乗馬の腕は相当なので、

なんとか・・・といった感じではあるが、

付いて来られている事に関心する。


目的の場所と思われる、開けた土地に来たところで、

馬を止めた。


「ここ?」


最後の方は、少し遅れてエリックがやってくる、

やはり私が早すぎたようだ。


「そんなに飛ばして、髪がぐちゃぐちゃになるぞ」


私はあわてて帽子を押さえる。

一応、首の所で止めるタイプの帽子なので、

乗馬でも飛んで行く事はなかったが、

その間から飛び出る髪が気になった。


やっぱりデートだと身なりに気を使うべきよね。


やっちゃった?と思う私に、

髪をさっさと直してくれる、


私はどきどきして、これはこれでアリでは?

なんて思ってしまう。


髪を直してもらって周りを見る。


「気球?」


「そうだ」


「乗れるの?」


「ああ」


「嬉しい!」


私は思わずエリックに飛びつく。


エリックは驚いたようだが、きっちりと抱きしめてくれた。


いくつもの気球が並んでいる、

結構多いのではないだろうか?


「いくつあるの?」


「全部で30個飛ぶ予定だ、

 10個づづ3回に分けて飛ばす」


「私達は何個目?」


「2回目の、何番かはわからない」


私はどきどきして、周りを見渡す。


いかにも貴婦人といった風貌の人、

お金持ちの商人のような人、

子供を連れた人もいた。


だんだんと人が増え、賑やかになってくる。


エリックは知り合いがいるらしく、

そのうちの何人かと話し始めた。

社交慣れしている感じが、頼もしく感じる。


最初の10組の気球が空に浮かんだ。


「わあ!凄い!」


私は感動で興奮しどうしだ。

自分の順番が待ち遠しくて仕方ない。


「エリック・ランドルフさん」


係の人が名前を呼ぶ。


「はい!」


と私が威勢よく返事をする。


係の人は微笑みながら、こちらへと案内してくれる。


気球の籠に乗り込む。

バナーで気球に熱気が送られ、どんどん膨らんでいく。


言葉にならない興奮が襲う。


私!空を飛ぶんだ!


しばらくすると、ふわっと持ち上がる感じがした。


「飛んだわ!」


「そうだな」


普段は無表情のエリックも、

分かり難いが、少し嬉しそうだ。


気球はどんどん高度を上げていく。


「ねえ見て、教会があんなに小さい!」


「大通り、馬車が渋滞してる!」


「あ、あの山葡萄が取れそうね」


私は気球の中でエリックにずっと話しかける。

それをエリックは丁寧に返事をしてくれる。

それが嬉しくて堪らなかった。


最後の10個の気球も空を飛ぶ。

全部で30個の気球が空を飛んでいる風景は、

日常では考えられない体験で、

絵の中の世界にいるような感じにさせてくれる。


しばらく空の旅を楽しんで、

気球は無事に元の場所に降りる。


「凄く楽しかったわ」


「良かったよ」


ここになって少し心配になった。


「私、子供ぽかった?」


妙齢の女性としては、はしゃぎ過ぎた自覚がある。


「いや、本当に喜んでくれているのが分かって、

 俺も嬉しかったよ」


そう言われて笑顔になる。


「ありがとう」


私は心から伝えた。

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