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異世界転生・転移の文芸・SF・その他関係

猫が導く異世界転生

作者: よぎそーと

「猫?」

 第一声がこれだった。

 寿命を向かえて死んで、意識が遠のいていくのを感じて。

 それから何故か意識が戻って。

 最初に見たのが猫だった。



 見覚えがある。

 かつて飼っていた猫だ。

 キジトラの縞模様が懐かしい。

「けど、なんでまた?」



 言いながらも何となく察する。

 ここが死後の世界というところなんだと。

 そして、目の前のキジトラは迎えに来てるんだろうと。

「わざわざ来てくれたのか」

「まあ、そんなとこ」

 ニャハハハと笑いながら猫が返事をした。



「喋るのか……」

「喋るさ、猫だもの」

「そういうもんか?」

「そういうものだ」

 ならそうなんだろう、寿命を向かえた男は素直に受け入れる事にした。

 死んだ後の世界なのだ、何だってありえるだろうと。



「それで、お前があの世に連れて行ってくれるのか?」

「うん、まあ、そのつもりだったんだけど」

「なんだ?」

「それがそうもいかなくなってね」

 どうやら素直に死ぬ事も出来ないらしい。



「いやね、兄ちゃんの人生って悲惨なもんだったでしょ」

「まあねえ」

 思い出すのも忌々しいが、確かにその通りだった。



 大学を卒業して、さあ就職となったのだが。

 折り悪く不況とぶつかる。

 おかげで就職先は激減。

 残念ながら無職として社会人の第一歩を踏む事になった。



 そこから先も苦難の連続。

 苦しい時期が続き、生きていくだけで精一杯だった。

 最低限の食い扶持はどうにか確保していが。

 生きてるだけという人生は良いものとは言えないだろう。

 そんな人生を終えたのが今という事になる。



「まあ、状況が最悪だったから」

 慰めるように猫が説明をしていく。

「こっちの話なんだけどにゃ」

 なんでも、地球における不況は邪神と呼ばれる連中のせいだったという。

 それらが地球の状況に介入して、不況を起こしていたとか。

「どうにかそいつらは倒したんだけど」

 悪しき邪神による介入はもう無い。

 だが、それが目に見える結果となるのはこれからになる。



「それまでに死んだ兄ちゃん達が不憫でね

 さすがに何の保証もないのは申し訳ない。

 邪神を滅ぼした神々はそう考えた。

 とはいえ死んだ者を復活させるわけにもいかない。

「なので、別の世界で幸せになってもらう事にしたんにゃ」



 なんでも、それほど発展はしてないが、平穏な世界があるという。

 邪神のせいで悲惨な人生を送った者達は、そちらでより良い人生をおくって欲しいと。

「このまま死んでしまっては哀れすぎるにゃ」

「なるほどね」

 そこまで哀れまれるほど悲惨な状態だったのか。

 そう思うとため息がこぼれる。



「分かった、じゃあそっちに行くよ」

「はいにゃ。

 じゃ、案内するからついてきてくれ」

 そう言うと猫は、男の前に立って歩き出す。

 その先にトンネルのような光の道があらわれ、猫はそこに入っていく。

 男もその後ろについていった。



「でも、なんでお前が案内人に?」

 歩きながら男は尋ねる。

「かわいがってもらってからねえ。

 その恩返しだにゃ」

 霊魂の案内は縁のある者がなるという。

 それは人に限らない。

 飼っていたペットなども、時に霊界の案内として立つ事がある。



「それににゃあ……」

「ん?」

「俺が死んだ後に色々不幸があったからにゃあ。

 さすがに責任を感じるにゃ」

「いや、死んだ後なんだろ。

 気にするなって」

「それでもだにゃ」

 猫としては思うところもあるらしい。



 元飼い猫のキジトラは、そこそこ長生きした。

 享年、十八歳。

 猫としてはかなりの長生きだ。

 そこまで生きると、多少は霊力らしきものも使えるようになる。

 その力で、キジトラは家に福を招いていたという。

「お前は招き猫だったのか」

「まあ、そういう事だにゃ」



 ただ、さほど大きな力が発揮できるわけでもない。

 せいぜい、食うに困らない程度の実入りを確保する程度だ。

 とても家を繁盛させる事は出来なかったという。

「頑張ってたんだな、お前」

「にゃーに、俺の御飯を豪勢にするためだ。

 その為にも、飼い主さんには幸せになってもらわにゃいと」

「なるほど、現金な話だ」

 それでもキジトラが頑張ってたのは変わらない。



「だけど、力及ばず。

 死んだ後はどうにもならにゃかったし」

 そこが悔いるところだという。

 自分の住んでいた家が衰退していくのは無念だったと。

「だから、今度は幸せになって欲しいんだにゃ」

「おう」

 そういう事なら幸せになってやろう。

 そう思いながら歩いていく。



「それじゃ、ここまでにゃ」

 トンネルの出口前。

 猫は止まって案内を終える。

「あとは頑張ってほしいにゃ」

「はいよ」

 言われるまでもない。

「お前も応援してくれよ」

「もちろんだにゃ」

 そういってキジトラは前足を持ち上げる。

「ちゃんとこうやって、福を招いてやるにゃ」

「そりゃありがたい」

 そう言うと男はトンネルの出口の向こうに踏み出す。

「じゃな。

 また死んだら会おう」

「はいにゃ」



 そうして男は異世界に転生をした。

 キジトラが言ってたとおり、さほど発展してない世界だ。

 だが、文明として未熟というほどではない。

 蒸汽機関は開発され、産業革命が始まる頃だ。



 しかも、魔術というものもある。

 これのおかげで文明水準は決して低くはない。

 魔術が底上げをしてる形だ。

 しかし、魔術は使い手が限られる。

 それが発展の限界を作っていた。



 そこに技術が加わる形だ。

 こちらは便利な道具や器具を作り出すもの。

 万人が使える道具により、生活水準を底上げする。

 世界に広まればその分だけ生活が楽になる。

 その渦中と言える世界に来たので、男の生活はさほど不便なものではない。



 むしろ、毎日のように新たな製品が生まれてる。

 それらが少しずつ日々の生活を変えていっていた。



 産業の隆盛も大きく、働き口に困る事はない。

 むしろ、労働力不足で就職口はいくらでもある。

 選び放題といえる状態だ。

 おかげで男は条件の良い職場に入ることが出来た。



 仕事は忙しいが、余裕もある。

 労働時間は九時五時で、残業はほとんどない。

 次々と機械化が進んでいき、人手がいらない省力化が進んでいってるからだ。

 それでも労働力が足りないというのだから恐ろしい。

「好景気ってこういうのなんだな」

 前世ではありえなかった事がこの世界ではおこってる。



 これも邪神という連中がいないおかげなんだろうか。

 そうも思う。

 前世の地球はそいつらの悪行のせいで悲惨な事になってたらしいが。

 この世界はどうやらそうではないらしい。



 また、日本からの転生者も多いのだろうとも思う。

 科学の発展が異様なほど早い事と。

 出て来る発明品の多くに日本を思い起こさせるものがあるからだ。

 おかげで、子供の頃と青年になった頃では文明水準が大きく違っている。



 生まれて間もないころが、産業革命期のようなものだとすれば。

 青年になって就職する頃は1970年代のようになってる。

 今も発展は続き、前世で見慣れたものも出てきている。

 既に自動車もパソコンも存在している。

 家庭用ゲーム機もだ。

 そろそろ携帯電話も登場するという。



 生まれて20年余りでここまで変わるのか。

 そう思うほどの発展具合だ。

 その変化に驚くばかりである。

 ありがたくその成果は受け取っていくが。



 そんな世の中でも変わらない事もある。

 今生でも家には猫がいる。

 どこからともなく家にやってきた野良が。

 どういうわけか家に定着し、その後もずっと我が物顔で住み着いている。

 なかなかに図太い根性の持ち主だ。



 そんな猫を、家族はなんだかんだで受け入れている。

 男も文句はない。

 その猫がキジトラなのも関係してるだろう。

 何となく、前世で飼っていて、死後に迎えに来たあいつを思い出すからだ。



 それに、ときおり前足を何かを招くように動かしてるのを見る。

 それが招き猫のように見える。

「本当に福を招いてくれてるのか?」

 尋ねる男に、にゃー、と猫は返事をしたものだ。



 その猫も寿命を向かえてもういない。

 寂しいが、こればかりは仕方がない。

 18年も生きたのだから、猫としては大往生だろう。



 それに、寂しがってる場合でもない。

 今回のキジトラは前世と違い、子供を残していった。

 どこから見つけてきたのか、これまたキジトラ柄の女房を連れてきて。

 その間に何匹かの子供を作った。



 そのうちの一匹は実家にて招き猫を継続。

 そして一匹は、都市に働きに出た男についてきて、招き猫をしている。

 そのおかげか男はよい就職先を見つけた。

 稼ぎも順調で、若くして家を買うに至った。

 その一軒家で二代目キジトラは、相も変わらず招き猫をしている。

 お昼寝・お散歩・御飯の間に。



「上手くやってるなあ、お前は」

 縁側に座り込みながら、男は膝の上にのせたキジトラを撫でる。

 気持ちがいいのか、キジトラは前足を香箱を組みながらうつ伏せになってる。

 ゴロゴロと鳴らしながら。



「家も建てたし、餌も確保出来てるし。

 あとはお嫁さんか?」

 快適な生活をするために飼い主を幸せにする。

 そんな招き猫として、二代目キジトラは上手くやっている。

 あとは男の言うとおり、お嫁さんを招くだけだろう。



「ついでに、俺にも良い娘を紹介してくれよ」

 苦笑しながら男は頼んでみる。

 稼ぎも良いし、家までかまえた。

 そんな男であるが、悲しい事に女の縁はない。

 神頼みならぬ猫頼みでどうにかなればと思ってしまう。



 そんな男の声を聞き届けたのか。

 キジトラは立ちあがると、



 くいっ、くいっ



 前足を何かを招き寄せるように動かした。

 何かを手繰り寄せるかのように。

 そんな二代目キジトラの頭を、男は撫でてやった。

 途端に不機嫌そうな顔になる。

 撫でる手から逃れようと頭をずらす。



 ならばと手を引っ込めると。

 今度は手を追いかけて頭を押しつける。

 今回に限った事ではない。

 毎度毎度、頭を撫でるとこの調子だ。

「お前はどうしてほしんだよ」

 撫でて欲しいのか、嫌なのか。

 どちらとも答えず、二代目キジトラは男の膝の上に鎮座していった。



 そんな手招きが功を奏したのか。

 程なく男の前に素敵なお嬢さんがあらわれ。

 告白・交際・結婚とあいなった。

 トントン拍子に進む展開に、男自身も驚くほどだ。



「やっぱりお前は招き猫なんだなあ……」

 結婚・新婚旅行・新婚生活とお熱い時期を過ごし。

 どうにかそれが一段落したある日。

 縁側で二代目キジトラを膝に乗せながら撫でていく。

 うつ伏せになって香箱を作るキジトラは、黙って背中を撫でられるがままになってる。

 頭はともかく、背中は大丈夫らしい。



 そんなキジトラであるが、



 にゃー



 と呼ぶ声が聞こえるとすぐにそちらに向かう。

 男に嫁さんがあらわれたのとほぼ同時期にやってきた雌猫だ。

 これまたキジトラのメスは二代目と懇ろになったようで、そのまま家に居着く事になる。

 また、そのお腹も大きく膨れている。

 そのうち三代目が生まれてくる事になるだろう。



「こういう時も一緒か」

 あらためてそう呟く。

 結婚からほぼ一年。

 現在、男の嫁さんは妊娠中。

 ほぼ臨月である。



 そんな嫁さんと同調・連動するように二代目の嫁猫も妊娠した。

 子供が生まれるのもほぼ同時期となる。



「狙ってやってるのか?」

 尋ねるも答えがあるわけもない。

 ただ、振り返った二代目キジトラは、



 ふふふふふ



 と笑うような顔をした。

 それを見て思う。

「おまえ、俺の言ってる事分かってるだろ」

 返事は、



 うにゃ?



 とぼけるような声を出して首をかしげてきた。

 その態度が答えになってるようなものだ。

「さすが化け猫」

 実際は神様みたいなものなのだろうが。

 男はそう評価した。



 キジトラはトテトテと男に近づき、



 ぱん!



 と猫パンチを放った。

 小さななりをしてるくせに、結構痛い。

「さすがライオンや虎の仲間。

 小さいながらも猛獣か」

 その片鱗を垣間見た。

 この評価にキジトラは満足そうな笑みを浮かべた。



 男はそんな猫と共に生きていった。 

 もちろん猫が人間ほど長生き出来るわけもない。

 なので、猫は生まれた子供が跡を継いでいくかたちになった。

 それでも、代々キジトラが男の招き猫になったのは変わりない。



 そのおかげかどうか分からないが、男は平穏に90年に及ぶ人生を過ごした。

 大往生と言ってよいだろう。



 その仕事、男は再び死後の世界でキジトラとまみえる。

「どうだった?」

「良い人生だったよ」

「それは良かった」

 目を細めるキジトラは、ゴロゴロと喉を鳴らした。

気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を


面白かったなら、評価点を入れてくれると、ありがたい



この話は、とあるVチューバーさんの動画を見てて思いついた。


詳しくは以下の動画41:45あたりを参照

https://www.youtube.com/watch?v=GATxsk15ENc

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