宿屋でゆっくり過ごす ②
宿で調理場を借りて、料理をする。クラも一緒にこの場にいたがったけれど、周りから見るとクラのような存在を調理場に入れるのは不安なようで、フォンセーラと一緒にお留守番してもらっている。
それにしてもこうやって宿で調理場を借りようとする人は、少ないけれどそれなりにいるものらしい。
俺が作っているのは、唐揚げもどきと焼きそばもどき。うん、材料が地球のものとは明らかに違うので、全く同じ物ではないけれど……。でも味見をしてみたところ、美味しかった。唐揚げも美味しいだよな。俺はコンビニのものとかも好きだ。
父さんも唐揚げ好きだから、母さんはよく唐揚げを作っていたっけ。というか本当に父さんが好きなものばかりが出るのがうちの家では基本だったからなぁ。姉さんたちと俺が食べたいものがある時は父さんがなんだかんだ「僕もそれ食べたい」って言ったら作ってくれてはいたけれど。
やっぱりなんというか、家族のことを思い起こすとまた一緒にご飯を食べたいなと思う。……なんだろう、少しホームシックな気分になっているのかも。
そんなことを考えながら料理を終える。
美味しそうな匂いは、食欲を誘う。フォンセーラが気に入ってくれるといいな。あと猫用のごはんも準備しておく。神獣になったクラは何でも食べれそうだけど、念のためそうしておく。
宿の食堂の端の方を借りる。そしてフォンセーラとクラを呼ぶ。
「美味しそうね」
周りに人が沢山いるので、クラは言葉は発さないが嬉しそうににゃああんと鳴いている。
クラにとってもその匂いは懐かしいものなんだろう。クラは地球に居た頃から、行儀が良いというかそんなに問題は起こさないタイプだった。
だから普通に母さんの料理中や俺達がご飯を食べている時だって自由にしていたなと思い出す。
フォンセーラは、まずは母さんに対する祈りを捧げていた。
……地球で母さんが作っていた料理を再現したものを出しているので、特別な思いを抱えているのかもしれない。俺が作ったものだから、そんな特別視するものでは全くないけれど。
やっぱりこういう料理を食べていると、白米が欲しくなる。
パンと一緒に食べるのももちろん、いいけれど。
母さんに言ったら白米をもらえたりするだろうか。どうせ父さんが白米を食べたがったりするだろうから、すぐに用意しそうだけど。うん、この世界の常識とかよりも父さんのやりたいことの方がずっと母さんにとっては重要だからな。
「美味しいわね」
「だろ? 俺も好きなものなんだ。もっと色んな料理が作れたらいいんだけどなぁ。材料とか、レシピとかは聞かなきゃだけど」
こう考えてみると俺の好物のレシピとか、聞いておきたいかもしれない。
あとは飲み物とか、おやつとか。
そういうのも自分で好きな時に食べれた方が嬉しいしな。とはいってももちろん、この世界でお気に入りの料理とか見つかるのならばそれはそれで嬉しいけれど。
タレとか、塩とか、そういうものもお金を払って使わせてもらえたので色々味変もしてみる。様々なものをかけたり、つけたりするとまた楽しめるからいいよなぁ。
俺達がそれらを食べていると、他の宿の客も食べたがっていたので一部渡しておいた。
気に行ってもらえたみたいで、そのことは嬉しかった。ついでに唐揚げを宿で今後出したいと言われたので、レシピを売ることになった。レシピといっても、家庭で作っている簡単なものだけど。
というか、こういう異世界の知識って細かいものでも何かしら売れたりするんだなと思った。もちろん、この世界に多大な影響を与えすぎるものだと問題かもだけど。
ついでに明日の朝も唐揚げを出してくれるといってたし、うん、普通に嬉しい。
「サクトは人と関わるのが好きな方よね」
「まぁ、嫌いではないな。一人も好きだけど」
「私はあまり必要最低にしか関わらないから、そういうところが凄いと思うわ」
そんな風にフォンセーラには言われた。
そうやってのんびりと過ごしていると、頭の中で声が響いた。
『咲人、今、何しているかしら?』
『咲人、元気?』
それは華乃姉と志乃姉の声だった。家族会議以外でこうやって話しかけてくることはあまりなかったので、少し驚く。多分、華乃姉と志乃姉も、異世界で新生活をする俺に話しかけすぎても……と思っていたのかもしれない。
そういう思いやりがあるところは、姉さんたちの良いところだと思っている。
(元気だよ。どうしたの?)
俺が言葉を返すと、華乃姉と志乃姉は嬉しそうな優しい声を返してくれる。
『良かった。咲人、何かあったら教えるのよ?』
『私達、咲人に会いに行こうと思っているのだけどいいかしら?』
二人の言葉を聞いて、俺はすぐに返事をした。
(もちろん、いつでもきてくれていいけれど……。すぐ来れるものなの?)
そう聞いたらすぐに来れるとかえってきたので、今いる街の名前や場所を伝えておいた。
姉さんたちとの会話の後に、フォンセーラに二人が来ることを告げたら驚かれた。