幕間 姉神たちはかく思う ①
「シノ様、こちらにおられましたか! 今日は私たちの宴にきてくださるのですよね?」
「おはようございます。シノ様!!」
私の名前は、薄井志乃。
神様である母様と、人間である父様との間に産まれた半神だ。
元々は父様の意向で、地球と呼ばれる世界で生きていた。母様も、私も、双子の姉である華乃も当たり前の人に扮して過ごしていた。本当に父様は、あんなに凄い神様である母様をただの奥さんとして扱っているのが本当に色々おかしい。そういう父様だからこそ、私は尊敬している。
私と華乃は、産まれた時から神としての意識があった。
母様のお腹にいた頃から、周りの状況を把握することが出来た。だから、父様って本当に凄いなとずっと思っていた。
あくまで普通の人間なのに――私たちのような、人としての感覚を持たない半神の誕生を本当に心待ちにしている様子だった。
――はやく産まれておいで。
――君たちが産まれてくるのを楽しみにしているよ。
――乃愛に似た子になるのかな?
そんな私たちのことを慈しむ声。ただの人間であり、私達が何かしたらすぐに消し飛んでしまいそうなほどに父様は弱いのに……当たり前のように私達のことを親として愛している。母様のお腹にいた頃から、私も華乃も母様の凄さを知っていた。私達が二人で束になってかかってもどうしようもないほどの、圧倒的な存在。
この世界の神様達が、どれだけ固まって母様をどうにかしようとしてもできないだろう。
そんな母様に……父様は一切の恐怖心を感じていない。それが本当に凄い。私や華乃は母様のことを母親として慕っているけれど、怖くないわけじゃないのだ。本能的に母様に逆らってはいけないと、私達は知っている。だから私や華乃は少なくともやろうと思っても本気で母様に反抗は出来ないと思う。
――母様は、そういう存在だから。
だけど、そう父様はきっと……そういうのがないのだ。ただ父様は母様の傍にいても自然体で、母様のことを本気で止めるし、注意をしたりする。父様は母様に恐怖心を一ミリも抱いていない……。
その性質は弟である咲人にも引き継がれていると思う。
母様が咲人がこの世界で生きやすいようにと、感覚的な部分で何かはしているらしい。けれどそれはあくまでちょっとしたものだ。咲人が母様に対しても遠慮がないのは……元々の咲人の性格だもの。
咲人は私たち家族のことを知って驚いたみたいだけど、すっかりこの世界での旅を満喫しているみたい。命の危険も多いような、未知なる世界を旅するのを不安に思ったりはせずに楽しんでいるあたり流石私たちの弟だと思う。
「志乃。ぼーっとしてどうしたの?」
私が咲人のことを考えているといつの間にか近くに来ていた華乃がそう口にする。
「咲人のことを考えていたの。今頃、何をしているかしらと」
「時々見ている限りは、楽しそうよね」
「ええ。でも流石にずっと見ているのは……咲人も嫌がりそうだものね」
「ブラコンって言われてしまうわ」
「何かあれば母様か私達を咲人も呼ぶだろうから心配していないけれど……、咲人ってば私達じゃなくて母様ばかりに声かけているように思えるのよね」
「私たちが半神だって実感を持っていないのだと思うわ。だって半神としての力を私たちは咲人に見せてないでしょう?」
私は華乃に言われて、確かに……と思った。
あくまで私や華乃が半神で、力を持っているということを咲人は母様に聞いただけなのだ。だから私達に助けを求めるという感覚はないのかもしれない。
それに咲人もなるべく家族に頼らずに自分の力で旅をしようとしている。もっと私達に頼ってくれていいのになと思うけれど、これが独り立ちをしようとしているということなのかしら。
「……私、咲人にしばらく会えていなくて寂しいの。だから、今度二人で咲人に会いに行かない?」
「ふふっ、いいわよ。私も可愛い弟に会いたいもの。これまでこんなに離れることはなかったものね。あと母様と父様にも会いたいけれど……母様はまだまだ父様のことを独占したいかな」
私の提案に華乃が頷いてくれる。
地球では私達も咲人もまだ学生だったから、こんなに離れることなんてなかった。母様と父様ともそう。だから、なんだか柄にもなく寂しさは感じてしまう。
母様と父様にも会いたいのに、母様ってば父様を独占したくて仕方がないのか話しかけても全然返事くれないのだもの。
その後、私と華乃は伯母様達に咲人に会いに行こうと思うと報告する。そうしたら伯母様は……なんだか色んなものを私に渡してくれた。この世界で最高位の神と名高い伯母様は、母様のことを可愛がっている。だからその子供である私達にも優しい。それで咲人の旅がもっと過ごしやすくなるようにと色々準備したらしい。
咲人はあまりにも規格外なものは受け取らないと思うけれど……、とはいったのだけど伯母様は持って行ってほしいらしいので一旦受け取った。咲人に断られたら返そう。
そう決意して、私達は咲人に会いに行く準備を進めるのだった。