幕間 女神は愛しい人と共に故郷を歩く ②
「乃愛、咲人はなんて?」
「んー。博人は気にしなくていいことだよー。些細なことだから、ね?」
私、薄井乃愛はぎゅーっと博人にくっつく。
私は博人の体温を感じられるのが好き。博人は私が誰なのか、どれだけの力を持っているのか知っているのに私が触れてもいつも落ち着いている。
この世界に来てから、私は神としての力を沢山使っている。博人はそれを見ても、平然と見ているだけだ。博人は地球に居た頃は普通の人間として過ごすように言っていたけれど、異世界に来たらこっちのルールに合わせようとする。本当に博人らしい。
私たちは今、凍った湖の上に敷物を引いてのんびりしている。
博人の身体は私が作ったものだから、こういう所に居ても特に問題ない。誰も居ない空間。――普通の生物は寒すぎて耐えられないような極寒の地。
博人はね、こういう所に来たことなかったから気になったって言ってた。だから博人のことを連れてきたの。
博人はこういう所に来たのが初めてだったからか、楽しそうにしていて可愛かった。私が博人を独占したいからって、生物がほとんどいない場所にばかり連れて行っている。博人はそれに付き合ってくれていて、私は博人が呆れながらも受け入れてくれるのが嬉しい。だって博人は本当に嫌だったらすぐにばっさり断るから。
――私の言葉を、当たり前のように受け入れてくれるだけでも博人が私を愛してくれている証だから。
「咲人がわざわざ連絡してきたんだから、些細なことじゃないでしょ? 教えて、乃愛」
「むー。そう言われたら言うしかないじゃん。咲人はね、ちょっと神といざこざがあったけれど解決しているよ。だから安心して? その神が欲しいものは私が渡したから大丈夫だよ?」
「そっか。なら、良かった」
博人は私の言葉に安心したように笑った。
私が全部は話していないことは分かっていそうだけど、でも咲人が無事なら博人的にはいいのだろう。
正直言って、オーレオーミィを独り占めしていたことなんて忘れていた。博人の新しい身体――ずっと一緒にいるための身体を作るために使おうって思って独り占めしたのよね。私の博人の身体なのだから、最高のものにしないとって思ったから。
そのまま身体を準備した後も忘れていた。
貴重な宝石ではあるけれど、まさか、そのことで咲人が襲われるとは思ってなかったなぁ。
念のため、独り占めはやめるよとはお姉ちゃんとかに言っておこう。
「博人、このあたりで他に見たいものあるー?」
「沢山あるよ。行ったことのない場所ならいくらでも行きたい。というか、この世界、カメラとかないんだよな? 撮りたいものいっぱいあるのに」
そう言われて、私はすぐさま神力を使う。そして博人が日本で使っていたカメラを引き寄せた。
「はい、博人」
「……地球から持ってきたの? こんなことして大丈夫?」
「この位なら大丈夫だよ。お姉ちゃんも何も言わないと思うし」
正直お姉ちゃんに少し小言を言われるぐらいならどうにでも出来る。お姉ちゃんは何だかんだ私に甘いので、結局許してくれそうだし。
それよりも博人が喜んでくれるのが一番だもんね。
このカメラはこの世界の仕様にしちゃおうと。
あとは博人以外が持てないようにして……。
私はカメラを色々と弄る。博人はその様子を黙ってみている。
「博人、色々弄ったからこれで使いやすいはずだよ。あと博人と私以外が持てないようにしているのと、幾らでも神力や魔力を込めれば使えるようにはしているからね?」
「え、このカメラ、そんなことにされたの? 乃愛ってやっぱり凄いね。こんなに簡単にそんな機能つけるなんて」
「うん、私凄いでしょ? だから、博人は私を褒めるべきだよ?」
そう口にして博人に縋れば、口づけしてくれた。私からの口づけも幾らでもしているけれど、博人の方から口づけしてくれるのも幾らでもされたい! 博人が大好きだから、こうやって引っ付いているだけでも本当に幸せ。
その後は博人はカメラで沢山写真を撮りたくなったのか、私のことを沢山撮っていた。
地球に居た頃も、博人は写真を撮るのが好きだったもんね。私も、博人に撮ってもらうのが好き。というか、他の人に何て写真は撮ってほしいとなんて思わない。
このカメラでは、過去の写真も見れるようにしているので子供達が生まれた時のものとかも一緒に見たの。博人は子供達が産まれた時に本当にうれしそうにしていた。神としての自覚を持って産まれた志乃と華乃のことも、自分が神の血を引いているなんて知らずに普通の人間の子として産まれた咲人のことも同じように可愛がっていて流石、私の博人だなって思った。
お姉ちゃんがやっぱり博人に挨拶したいって煩いんだよね。でも私は博人ともっと二人でゆっくりしたいのに!!
でも博人は真面目だから、お姉ちゃんにもちゃんと挨拶したいと思っているだろう。もうしばらくしたら「神界に行こう?」って私を誘うんだろうなとは思っているけれど。
ただそれまでは私は博人と二人でいるって決めているの。