洞窟の先に続いた場所 ⑮
「はっ!? これはオーレオーミィか? なぜ、突然……!? ノースティア様が独占しているものを勝手に持ってきたとなれば――」
「いや、勝手にじゃないし。ええっと、あなたの言っている闇の女神ノースティアって、俺の母さんのことね」
「は!?」
この火の神、いちいち反応がいいな。
俺が母さんの息子だと知って余程驚いたのか凄い表情している。
「だから母さんに連絡して、オーレオーミィをもらったんだよ。これ、あなたにあげるので俺や妖精を使うとか辞めてもらえます?」
とりあえず簡潔に俺の望みを告げる。
これでも嫌がられたらどうしようかな。神様としてのプライドとかあると、半神である俺からそういうものもらいたくないとか思うかもだし。うん、そういう風になったら……伯母さんにでも助けを求めるか。
母さんは父さんとの時間を邪魔されたくないって言ってたし。
本体ではない火の神は相手に出来るけれど、本体出てきたらどうなるか俺にも分からないしな。
「ノノノノノ、ノースティア様の息子ぉおお??」
「はい。そうですよ」
「神界には娘であるカノとシノが居るが……」
「俺の実の姉ですね」
「はああああああ!?」
この火の神、煩すぎる。
それにしてもやっぱり神様だから、神界にいる華乃姉と志乃姉のことは知っているらしい。母さんと違って二人はしっかりしているから、神界の神々にはちゃんと挨拶してそうだしなぁ。父さんがそういうのはちゃんとした方が良いと言っていたからな。
というか華乃姉と志乃姉からしてみると、父さんの言うことは聞くべきって思ってたんだろうなと思う。だって二人は母さんが物凄い力を持っている神様だって知っていたわけで、それを唯一制御出来るのが父さんだからなぁ。こう考えてみると父さん、やばいな。
「な、なぜ、ノースティア様の息子がこんな場所に……」
「この世界初めてなので、ぶらぶらしているだけです。此処に来たのは本当に偶然です。特に意味はないです」
驚くぐらいに顔が青ざめている。
そんなに母さんが怖いのだろうか。いや、俺も母さんが怒ったら怖いとは思うよ。でもさ、なんというか世界の終わり的な顔をされるとそこまでなのか……? と思ってしまう。
それは俺が母さんの息子だからこその感覚かもだけど。
「そ、そうなのか。って、……お、俺のことをまさか、ノースティア様に」
「名前は出してませんがオーレオーミィをもらうために説明はしましたけど」
「……ひぃいい」
あ、滅茶苦茶怯えている。母さんが今すぐ飛んでくるとでも思っている?
母さんは俺のことは一般的な感覚で大切にはしてくれているけれど、父さんだけが第一だから飛んでこないけど。
「大丈夫です。安心してください。母さんは確かに消滅させようとしてましたが」
「しょ、消滅……」
「ちゃんとそんなことをしないようにいったんで、大丈夫ですよ。結果として俺はそういう事に使われてないですし、妖精たちも無事なんで」
俺が軽くそう言うと、益々目を見開かれる。
「……息子だからといってノースティア様にそんなお願いが出来るのか?」
「お願い? しないでほしいって言ったことですか? そのくらいの意見は親子ですし出来ますよ。というか、最悪の場合は父さん経由で頼めば大体上手くいきますし」
例えば俺が言った言葉を母さんが聞かなかったとしても、父さんに相談してそれが通れば結局それが通る。父さんに難色を示されると流石に無理だけど、母さんって父さんの言うことなら何でも聞きそうだしな。
……この世界に来てすぐの時も父さんが望むなら人も国も世界も、全てを差し出すとか言ってたし。父さんが何か欲しいって言ったらすぐに行動しそうだよな。父さんってストッパーが居なかったら地球でもきっともっと好き勝手してたんだろう。
「そうなのか……。それは凄い」
「……母さんって、そんなに人の言うことを聞かないんですか?」
こんな反応をされるということはそういうことだよな? どれだけ母さんってそういう風に思われているんだ?
「そうだな。……ノースティア様はイミテア様の話ぐらいしか聞かないはずだ。俺はノースティア様とは直接あまり関わっていないが」
「伯母さんはやっぱり母さんにとって特別な存在ではあるんですね」
「お、伯母さん?」
「光の女神イミテア様のことです。母さんが『お姉ちゃん』呼びしているので、本人に聞いたら伯母さん呼びでいいって言ってましたよ」
「そ、そうなのか。お、俺はなんてことを。君をスイラのために使っていたら……」
「少なくとも母さんは飛んできたかと」
そう言ったら母さんが飛んできた時のことを思い浮かべたのか、顔をより一層青ざめさせている。
その状態だと俺は喋れなくなってそうだし、うん、俺が復活させられる頃には火の神は消滅していたんだろうなと思う。本当に早めに対応出来て良かった。
俺は自分に何かしてくる存在は嫌だと思うけれど、だからといって物騒な結末をひたすら母さんが量産するのはもっと嫌だ。
それで母さんが周りにさらに恐れられるのも嫌だしさ。
「……本当に良かった。それでその、オーレオーミィを持って行こうと思うが、一緒に来てもらえないだろうか」
火の神は俺に向かってそう言った。