洞窟の先に続いた場所 ⑫
「俺の身体を使いたいってなんなわけ?」
言葉からして明らかに良い意味合いではないだろう。俺のことを何だと思っているんだか。……消費物か何かのイメージ? それか古くから生きている神様だからこそ、その糧になるのならば喜ぶべきみたいな恐ろしい考えとか?
そんなことを考えると何とも言えない気持ちになる。
「……わしらに接触してきた神は、火の神イーシーカ様です。わしらの前に出てくださらなかった間に水の神スイラ様が傷を負ったそうです。二柱は争い合うことはやめたようで、イーシーカ様はスイラ様を回復させるために、サクト様の身体を、神力を取り込みたいと」
「うわっ! 怖すぎだろ。何、勝手に人の身体を回復の材料みたいに思っているんだか」
神様なんて自由で、我儘できっと好き勝手するようなものだというのは分かる。母さんを見ていると余計に、そういうものだとは実感する。それは好きにすればいいと思うけれど、俺がもしそういう神に取り込まれるなんて真似になったら……母さんは助けてくれそうだけど、父さんを悲しませることをしたって俺も怒られそう。
父さんは俺に何かあれば、悲しむだろうし。
「それで俺にこんなことをして報復されると思わなかったわけ?」
そもそも妖精たちは神というものに敬意を基本は持っているはずだ。それでいて俺の強さなども把握しているはず。少なくとも俺にあれだけ怯えて頼みごとをしてきたのにわざわざこうやって歯向かってこようとする意味も分からない。
何かしら理由があるのかもしれないが、本当にやめてほしいものだ。
「……それはそうなのですが。サクト様を差し出さなければわしらが、取り込まれます」
妖精たちから、凄く物騒なことを聞かされた。
え、なに。
俺を捕まえて差し出さなきゃ、自分たちが神に取り込まれるとかそういうことだったわけ?
信仰心があるなら、神に取り込まれても構わないという人も当然いるだろうけれど妖精たちはそうではなかったということだろうか?
その火の神と水の神に対する信仰心は強そうだから、自分の身を捧げて欲しいとそんな風に言われたら頷きそうなイメージだったんだけど、そうではなかったのか。
「ふぅん。それで自分の保身のために俺を攻撃したってことか」
「……考えが浅いわね。でもサクトがこれだけの力を持ち合わせていなければ私たちは一たまりもなかったでしょう」
俺の呆れたような声と、後ろから聞こえてくるフォンセーラの声。
まぁ、確かに俺が神の瞳をどうにかするだけの力がなければ大惨事になっていたことは予想が出来る。
「……わしだけなら問題はなかったのですが、神はわしらの種族全てを差し出すようにおっしゃっていました。流石にそれはわしらも頷けません」
……より一層物騒なことを言われる。
妖精たちの一部を取り込むではなく、全体を取り込まないといけないって言われたってことか。それにしても種族を根絶するような勢いで妖精を取り込まなければならないなんてどれだけその神は弱っているんだろうか。というか、他に自身を回復させるための術がないってことか? 神なんて時間が幾らでもあるんだから、時間をかけて療養では駄目だったんだろうか。ああ、でも神だからこそ思う通りに動けない現状に色々と思う所があって耐えられないとかそういう感じなのだろうか。
「なぁ、その神に連絡すること出来る? 俺は正直言って自分が取り込まれるのも嫌だけど、妖精たちが取り込まれるのも気分が悪いから話を聞きたいんだけど」
うん、正直言って両方とも嫌だ。いや、だってさ、こうやって会話を交わしている存在たちが全員神に取り込まれて、姿を消すのって怖くないか? 俺は少なくともそういう物騒な解決法はあんまり好きじゃないっていうか、嫌だ。
「か、神に連絡、ですか? わ、わしらからはとてもじゃないけれど、出来ません」
「そうなの?」
「……そうです。サクト様は半神だからこそ、神と簡単に連絡がつくものと思っているかもしれませんが、そんなことはありえないのです。わしらから連絡を取るなんて……恐れ多い!!」
そういうものかと、必死な様子を見て思う。
そうだよな。俺は母さんの息子だから、母さんに声をかければすぐに帰ってくるし、それこそ華乃姉や志乃姉だって俺が呼びかければすぐに反応してくれるだろう。あと伯母さんだって俺が困ってたら助けてくれる気はする。でも特に母さんと伯母さんってこの世界でも最も有名な神々の一柱なんだよなぁ。
どうしようか。母さん経由で話をする? いや、でも俺が取り込まれかけたこととか知ったら母さんは何をしでかすか分からない。それに母さんに頼ってばかりもあれだし、なるべく自分で解決できるようにした方がいいか。
俺はそんな結論に至る。
「えーと、じゃああれだよな。俺を引き渡すために神がこっちに接触とかはする予定なんだろう? そこに俺行ってもいい? 話したいから」
俺が軽くそう言うと、何だか化け物を見るような目で見られた。
……こういう場で逃げ出したりせずに話し合おうとするのがおかしいのだろうか。まぁ、頷いてはくれたけれど。
それから火の神イーシーカが、俺の身体をとりにきた。
「なぜ、意識がある状態だ」
「俺は取り込まれるつもりはないので、とりあえず話しません?」
その場に現れた火の神――おそらく本体ではないだろうけれど、怪訝そうなその男性の言葉に俺はそう問いかけた。