洞窟の先に続いた場所 ⑩
「火の神イーシーカ様と、水の神スイラ様はわしらのために神の瞳を授けてくださったのです。わしらの信仰心に応えて授けてくださったものだというのに、人間たちの手に渡ってしまったのは本当に問題なのです」
人間たちが神の瞳を集落から持ち出すまでの間に、俺は神の瞳の話を妖精たちから引き続き聞いている。
クラに関しては神の瞳に関して特に興味関心はないようで、俺の膝の上にいたり、離れていったりと自由気ままだ。フォンセーラは俺と一緒に横で話を聞いている。
母さんの信者であるフォンセーラからしてみると、色々と興味深いのかもしれない。というかフォンセーラは母さんの信者だから、他の神々に対して強い関心はないとはいえ一般的な敬意ぐらいはあるだろう。
あとは神々の話となると、母さんの話題が出てくるかもなどと思っているのかもしれない。
「へぇ」
俺からしてみると結局他人事でしかないので、そんなテンションで聞いてしまう。
大変なことうんぬん言われても、具体的に言われないとぴんとこないものだ。あとこの世界にやってきて何でもかんでも母さん基準で判断してしまうので一般的な感覚が若干欠如してしまっている気がする。
そこまで考えて流石にその考え方だと駄目だなと自分で反省する。だって母さんなんてこの世界では最も力があて特別な存在なのだ。
そんな存在を基準にして他を判断はすべきではないだろう。
うん、俺もなんかこの世界に馴染んでいる証なのかもだけど、それで変な風にはしゃぎすぎないようにはしないと。それで思い込みとかで行動した結果、母さんたちに迷惑なんてかけたくないしなぁ。
「神の瞳にはそれぞれ、火と水の力が込められているのです。その力は使い方次第では一国を滅ぼすことぐらいできるでしょう」
「……そんな物騒なもの、奪われていて大丈夫なのか?」
想像以上に物騒な単語が聞こえてきて思わずそう問いかける。
いや、だってさ。そういう特別で危険なものって基本的には管理されているからこそ問題ないものだと思うんだよな。下手に誰でも制限なく使える状態だと大惨事になる未来しかないだろう。というかそんな力がありながらこのあたりの地形が壊れてないのも分からない。
なんていうか、それだけの力があれば――おそらく自然の土地を壊すことだって出来るだろう。というか、それだけの力があるものだと思う。
それなのにこのあたりが破壊されてないのが逆に疑問に思えた。母さんレベルの存在ならば、それだけ壊されたとしても――すぐに元通りに出来ているとか?
「人間たちでは神の瞳の本領を発揮することはできません。だから、そのあたりは問題ありません」
「そうなのか」
イメージ的には神の瞳と呼ばれるもの単体では本領を発揮できないもので、使い手も重要な感じなのか。
……魔力とか神力でそれが決まるのならば俺はその神の瞳に不用心に触れない方がいいんだろうなと実感する。触れた瞬間発動するとかの物騒な感じのものじゃなければどうにでもなりそうだけど、うん、そういう用心はちゃんと必要だと思うしな。
……うーん。
俺は盗まれたのならば、それは元々持っている人の元へ戻る方がいいとは思っているけれど。
ただこの妖精たちに戻したところで、どういうことになるかという不安はある。制裁は加えないようにとは言っているけれど!
それでも本当にそれでいいのかという悩みはやっぱり芽生える。
それにしても意図的に神の瞳なんて呼ばれる物騒なものを下界で使わせようとするんだろう? まぁ、母さんを見ていると神様は自分勝手なものだと思うから、深くは考えてなさそうだが。
そうやってつらつらと神の瞳のことを考えながら、妖精たちから話を沢山聞いた。
……ただ妖精たちは俺が問いかけたことに関しては答えてくれるが、隠そうとしていることもありそうだなとは思った。
妖精たちは神というものを基本的に敬っているけれど、一番敬っているのはこのあたりを治めていたという火の神と水の神だろうし。
この妖精たちが俺にとって望まない行動をしてきたら対応方法は考えておかないといけない。
それから人間の集落から神の瞳が持ち出すタイミングが起こるまで、俺は妖精の里でゆっくりと過ごした。
そして、その日がやってきた。
……人間の集落から、持ちだされた神の瞳。
それを取り戻すことに関しては、正直言って拍子抜けするほど簡単だった。
というのもその人間の集落の者達からすると、俺のように神の血を引く存在の対処法など持っていなかったらしい。妖精たちは……武力行使で奪い返そうとしたわけだ。それこそ命を奪ってでも。
それは俺は嫌なのでそのあたりはそういうことが起こらないように立ち回った。クラとフォンセーラもきちんとその意向に従ってくれた。
――そこで平和に終わりましたとなればよかったのだけど、そうはならなかった。
「サクト様、すみません」
そう言った妖精の一部が、俺に取り戻したばかりの神の瞳を向けてきた。