洞窟の先に続いた場所 ⑤
「わ、わしが説明します!!」
そう言って前に出てきた妖精は、可愛らしい顔立ちの小さな妖精だ。金色の髪と赤い瞳の、物語か何かだと勇者などを導きそうな雰囲気。
なのになぜ、一人称がわしなのか。
俺には全く分からない。こういうのにギャップ萌えを感じる人もいるかもしれないけれど、俺は生憎そういうのはない。長生きしているからとかなのかな? ただ他の妖精たちはその口調に慣れているのか全く気にした様子はない。
というか、フォンセーラとクラも気にしてない。多分こちらは本当に興味がないだけだと思われる。
フォンセーラとクラらしいけど……と思わず笑ってしまう。
クラは妖精たちがなにか問題を起こしたらすぐさまどうにかする気満々の様子だ。妖精たちもそれが分かっているからか、慎重に話しだそうとしているようだ。
きっと神獣であるクラを相手にするとなると妖精たちではどうしようもないからだろう。
「神様は……」
「えーっと、俺は神っていうより神の息子なだけだから名前でいいよ。咲人でいいから」
「……サクト様は、さぞ名のある神様のご子息だと見受けられます」
「まぁ、うん、それはそうだな。誰の息子かは言うのはやめとく。それで、相談があるとか、人間が邪魔だとか言ってたけど?」
俺が神の血を引くことは感じ取ったらしいが、誰の息子かまでは分からないものらしい。
きっと俺が母さんの息子だと知ったら話を聞くどころではなくなりそうなので言うのはやめておく。絶対、母さんの息子とか、この妖精たちからしてみれば騒ぐことだろうしなぁ……。俺は正直それで面倒なことになるのはごめんである。
「では、早速お話させていただこう。このあたりで人間たちが争いあっているのは知っていますか?」
「まぁ、それは知ってるけど。それが何か関係あるのか?」
二つの集落が争いあっていることに関しては知っている。だけどそれが妖精たちに何のかかわりがあるのかはさっぱり分からない。そもそもこういう妖精みたいな種族って、人族と関わるものなのか?
なんか人知れずひっそり暮らしているようなイメージもあるけれど。
「あります。そもそも彼らが所有している神の瞳と呼ばれる石は元々わしらのものでした」
「なにそれ」
争いあっていることは把握しているが、そんな神の瞳と呼ばれるような名称のものは知らない。名前からして凄いものだろうけれど。まさか本物の神の瞳ではないよな? 神って呼ばれるぐらいだから、瞳も取り出した後にすぐに修復するのかもしれないけれど、なんかそんな物騒な由来のもの関わりたくないなって思う。なんか呪われたりしてそうじゃないか?
そんなどうでもいいことを俺は考えながら、妖精の話を聞く。
「神の瞳とは、神がわしらに残してくれた希望になります。元々この地を治めていたのは火の神イーシーカと、水の神スイラです」
「ふぅん」
どちらも名前を知らない。
というか他の神について家族や伯母さんから特に聞いてないしなぁ。正直神のことは書物で読んだりしたけれど、全部は覚えてないしなぁ。
「……ご存じないですか?」
「俺は最近こっちに来たから知らないこと多いよ。それで二人の神様が治めていたのは分かったけれど……今は争いあっているのか? あの集落はそれらのことで争いあっているらしいけれど」
「争いあっているかどうかは定かではないのです。二柱の神々は、ここしばらくはわしらの前には姿を現わすことなどはありませんから。ただ確かにわしらの記憶では最後に姿を見た際に争いにはなっていたかと思いますが」
きっとこの妖精たち……少なくともこの説明をしてくれている妖精に関しては俺が想像できないほど長生きしているんだろうなと思う。多分、実際にその争いの場を見ているように見える。
「なるほど。それで神の瞳というのは?」
「神様が神力を込めた特別な石になります。それが瞳のように見えることから、神の瞳と名付けられています。それは元々、わしらの信仰心に神様が答えてくれたからこそ与えられたものでした。わしらは二つの神の瞳を大切にして、生活していました。しかし人間たちにだまされ、わしらは神の瞳を奪われてしまったのです。神の瞳には大いなる力が宿っています。その力をあの人間たちは使っており、わしらでは取り戻すことが出来ず……。わしらから奪った神の瞳をわが物顔で使っているのです」
なんか、一回聞いただけでは理解出来ないような込み入った話をされてぴんとは来ない。
でもとりあえず神の瞳って呼ばれるものが本当の目じゃなくてよかった。いや、でもこういう異世界だと本当に物理的な神様の瞳もなんらかの効果とかありそうだよな。……神の血を引く俺のもある? それはそれで怖いし、狙われそうで嫌だなとは思う。
「盗まれたことは分かったけれど、俺に何をしてほしいの?」
「わしらが、神の瞳を取り戻すのを助けてほしいのです!!」
必死な表情で、妖精にそんなことを言われた。