洞窟の先に続いた場所 ④
神様のことが原因で諍いが起きていると聞いた俺は何とも言えない気持ちになった。
それは俺が母さんという――闇の女神ノースティアの息子で、他人事という感じではないのだ。
というか、その原因となった神様は母さんでも伯母さんもなかったことにはほっとしたけれど――その神様達は自分たちの行動のせいで、後々こういう争いがおこっていることは把握しているのだろうか……。
そんなことを考えると何とも言えない気持ちになる。
「何を言っているのよ。神がそんなことを気にするはずがないでしょう?」
「そうだよ。咲人。神って乃愛とか、この前の乃愛の姉とかと同じでしょ? だったら人のことなんて気にしないと思う」
ばっさりとフォンセーラとクラにはそんな風に言われた。
この世界の人々にとって神様というのが身勝手であることは当たり前なのだろうと思う。そしてそれだけ好き勝手していたとしても、その恩恵を沢山受けているからこそそういうものであると皆、受け入れているのだろうとは思う。
俺は神の血を引いていたとしても、人間として生きていたというのもあって神様としての感覚なんて全然分からない。
「……それもそうか。なんかこの世界って神様の影響力が高い分、大変だよな。信仰心があるからこそ、人々が神様のことを絶対視しているし」
「咲人は神の影響でそういうことが起こるのが嫌なの? どうにかする?」
「なんかちょっとモヤモヤするかなってそういう気持ちなだけ」
少しモヤモヤした気持ちにはなるけれど、勢いのままに行動するのもなというそういう気持ちである。
ああ、でも家族会議の時に軽く、聞いてみてもいいかもしれない。もし神様に話をして無用な争いをどうにか出来るならそれはそれでいいと思うし。
でも俺が神様と話したところで、上手くいくかどうかは分からないけれど……。
「咲人はもっと力を抜いて、自分がやりたいようにしたらいいと思うよ? 咲人が何をしても誰にも文句を言わせないし」
「いや、クラ。それで好き勝手していたら明らかに暴君かなんかになるだけだろ。俺がそういうのになってもいいのか?」
クラは俺に向かって何をしても大丈夫などと、そんなことを言ってくる。
……俺が何かをしたとしても、きっと許されはするだろう。この世界では強いということはそれだけ多分自由なのだと思う。いや、でもまぁ、母さんやクラは俺が暴君的な感じで好き勝手しても何も言わないだろうけれど、結局父さんが俺がやりすぎると止めにきそうだなとは思う。
「まぁ、いいや。なるようになると思うし。深く考えるのはやめとく。一先ずぶらぶらするか」
なんだか色々考え込むと疲れたので、一旦思考を放棄する。
結局はなるようにしかならない。そういうわけでその周辺をぶらぶらしてみる。
美味しそうな木の実を食べたり、川で釣りをしてみたりとか、そういうことをするだけで楽しいものだ。
余計なことを考えないように思いっきり楽しんで過ごし、また洞窟を移動して帰るかなどと考えていた。
下手にずっとこの周辺にいるともやもやした気持ちが増していきそうだし。
そういうわけでさっさとこの場所から、ずらかろうとしていると急に妖精たちに囲まれた。
「神様、相談ある」
「力ある人、私達の話聞いてほしいの」
「あの人間たち、邪魔」
「神様、お願いします」
周りを飛び交う妖精たちは、口々にそんなことを言い始める。
正直、急に現れてそんなことを言われても困る。あと俺は一斉に喋りかけられると全部を聞き取れない。
あと甲高い声の妖精が多くて、頭がキーンッとなる。
思わず耳を塞いでしまう。
「にゃあああああああああん」
その時、苛立ったようにクラが威嚇する。
そうすれば一斉に妖精たちは固まった。言葉を喋れない様子で、青ざめて、固まる。
クラのことが恐ろしくて仕方がないのならばもっと大人しくすればいいのにと思わなくもない。でもさっき相談があるうんぬんを口にしていたので、よっぽど切羽詰まっているのかもしれない。
クラの威嚇、魔力か、神力的なものが込められているみたい。だからその声を聞いた生物は割と動けなくなるようだ。ちなみにフォンセーラも食らっていた。
……俺は全然そういう恐怖する気持ちはわからないけれど、それは俺が神の血を引いているからだろうしな。
「咲人、これ、どうする? 邪魔なら全部排除するよ?」
「そんな物騒なことはしなくていいから。なんか必死そうだし、話だけは聞くよ。それで判断する」
「えー? 咲人は優しいね。こんなの相手にしなくていいのにー」
クラはそんなことを言って少し不満そうだけど、俺が話を聞くと言ったら大人しくなった。それでも妖精たちは相変わらず固まって怯えているけれど……。
「妖精たち、俺に話を聞かせてもらえるか? ただ分かりやすくな。あと一人が話してほしい。俺は全員の話を一斉には聞けない」
俺がそう告げると妖精たちは頷くのだった。