洞窟の先に続いた場所 ③
呆然としている男性のことを置いて、俺達はその場から去ることにした。
それにしても集落同士で争いあっているって命の奪い合い的なことまで起こしているのだろうか? 口論とかなら平和的ではあるけれど……。
正直、そういう命の奪い合いって考えただけでぞっとする。でもそれをやらない方がいいなんていって勝手に止めるのは違うだろう。やろうと思えば無理やり争いを止めることは出来るだろう。けれども――様々な事情があるはずなのに俺が勝手に打ち出しをするのはどうかと思うし。
うん、俺自身がその問題を完全に解決できる術があって、双方の話を聞いた上でどうにかすると決めたならとことんやるけれど。
俺としてみたらこの争いあっている集落と関わり合おうとは現状思っていない。だから関わらないことにする。
「サクトが何にでも首を突っ込むタイプじゃなくてよかったわ。なんでもかんでも関わろうとしたら少なくとも私はついていけなくなるもの」
「なんでもかんでも手を出したら収拾がつかなくなるだけだしなぁ」
大体、俺の手に余るようなものに自分から手を突っ込んでいこうとは思わない。衝動的に行動してしまうことはもしかしたらあるかもだけど、母さん頼みを前提に色々やるわけにもいかないしな。
俺が結局解決するだけの力を持ち合わせていたとしても、なんでもかんでも手を出したら俺はいっぱいっぱいになって全部を中途半端に終わりそうだし。
母さんならば全部好き勝手にどうにでも出来るだろうし、父さんならばこんな風に悩むことはないだろう。そして華乃姉や志乃姉は少なくとも俺よりは要領よくなんでもこなすだろう。
そもそも神としての感性の方がずっと強い母さんや華乃姉、志乃姉は周りの人間たちのことなんてあんまり気にしないだろう。父さんはゆったりしているというか何事にも動じないしな。
家族のことを考えると、俺は全然ああはなれないなとは思う。まぁ、俺は俺でそういうものと思っているけれど。
「でももしかしたら向こうからサクトに関わろうとしてくるかもだよ? その時は僕が対応しようか?」
「あんなに脅したのに関わってこようとするか?」
「誰がなんて言っても関わろうとする人は来るよ。それにもう一個の集落の方が関わってくる可能性はあるよ」
「それは確かに……まぁ、その時はとんずらするか」
クラの言葉にそうやって返事をする。
……とりあえずその辺のことは置いといて、このあたりを見て回るか。
そういう結論に至ってその後はぶらぶらとそのあたりを見て回った。
このあたりは魔物が結構な数、生息しているみたいだった。それも見たことのないような魔物の姿もちらほら見られる。その中で人を操るような魔法を使う存在もいて、少しだけびっくりする。
「あ」
その最中に不思議な存在を見た。それは小さくて、羽の生えている不思議な種族。所謂妖精か何かみたいなそういう風に思った。
その小さな存在は、さっと俺の姿を見るなり逃げて行った。
このあたりではああいう種族が沢山生息しているのだろうか。
「逃げて行ったな。あれ、何の種族?」
「僕は知らないー。でも基本的には人族の前にはあんまり姿は現さなさそうだけど。それにしてもああいう存在って人族からすると魔物扱いされたりもするって乃愛がくれた知識にあったかも」
「あー……まぁ、自分達とは違う存在ってそういう扱いする奴らもいるだろうからな。この場所だとどうなんだろう?」
「さぁ? あの妖精たちがここの人間たちとどうかかわりあっているかは知らないよ。だけど、まぁ、それも放っておいていいんじゃない」
クラは本当に何もかもどうでもよさそうな様子である。うん、クラらしい。俺は初めて見る存在に興味津々だけれども、あんまり妖精に関わり続けてもややこしいことにはなるのか。
妖精がここで暮らす人々とどういう風にかかわりあっているかどうかも分からないし。
こういう風に衝動的に行動を起こそうとすると、面倒な事態になるんだろうなとそう実感する。ちゃんと色々考え上でどうにかしないとなぁ……。
「よし、一旦妖精たちとも必要最低限関わらないようにしておくか。その方が良さそうだし」
あくまでその妖精のような存在達については、もう少し調べた上で関わろうと思ったら関わることにしよう。
そういう結論に至ってからまたそのあたりを俺達はぶらぶらすることにした。それで敵対している集落の連中を見かけることも度々あった。
その連中に関わることはないように、ひっそりと息をひそめながらばれないようにうろうろはしている。
その結果、どうして彼らが敵対しているのかの情報も何かしら耳に入ってくる。その中で分かったのは二つの集落が争いあっているのは神が関係しているということが分かった。
――それぞれが信仰している神が、過去に争いあった。それが原因で長い間、諍いになっているらしい。