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異世界の、はじめての街 ②

 宿にチェックインする作業だけでも、少し緊張してしまった。

 思えば俺は普通の高校生だったから、一人で宿に来るなんてなかったし。まぁ、俺は母さんの子供なので、全然普通ではないのかもしれないけれど……。


 

 荷物を宿に置きっぱなしなのは不安なので、リュックを抱えたまま街に出ることにする。でもあれだな、こういう異世界だとスリも多いかもしれないから、気をつけないと……!

 折角母さんが俺のために準備してくれたものを取られたら困る。



 街を歩いているだけでも、少し高揚した気持ちになる。

 これから何が待っているのだろうという期待。それでいっぱいだ。



 街を歩いていると冒険者ギルドという、漫画や小説の世界でよくみる建物も見かけた。母さんが与えてくれた知識を見た限り、俺の知っているよくあるものと変わらないらしい。

 所属するのも一つの手かもしれないけれど、冒険者ギルドに所属するということは色んな制約もあるらしい……と知識から分かっているので一旦保留にすることにする。



 飲食店の立ち並ぶエリアには、沢山のお店がある。だけれど米料理はない。やっぱり異世界では米というのは珍しいのだろうか? それとも日本みたいな米を栽培している国もこの世界のどこかにはあるけれど、広まっていないとか?

 米食べたい場合は母さんに言えばくれるかな。……というか知識の中で、母さんは神様だからご飯とかもいらないらしいってある。でも三食食べていたのは父さんと一緒にご飯を食べたかったからとかかな。


 



 俺はお腹もすいてきたので、立ち並ぶ飲食店のうちの一つに入ってみることにする。少し緊張しながら、食事を注文して食べてみる。


 これ、魔物の肉なのかぁ。

 そういうものも食べるっていうのが異世界って感じがする。


 基本的にこの世界の生物は魔力を持ち合わせているものらしい。母さんみたいな神様だと、神力っていう特別な力があるらしい。





「美味しい」



 ちなみに俺は日本語でしゃべっているつもりなのだが、自動翻訳的なものがされているんだとか。

 というか、母さんが与えてくれた知識の中に召喚の際に異世界人が言葉を喋れるようには基本組み込まれるように出来ているってある。あと母さんがそのあたりは俺が困らないように強化してくれているっぽいから、全然会話は困らない。






「坊主、見ない顔だな。最近この街に来たのか?」

「あ、はい。ええっと……」



 お店の人に話しかけられて、母さんが用意した偽りの経歴を語る。うん、なんか不思議な気分。しかし異世界から来たと露見すると色々ややこしいらしいので、その経歴はありがたく使わせてもらう。




「冒険者になりにきたのか?」

「え、いえ。ちょっとどうしようか悩み中です」

「へぇ、わざわざこの街に出てきて冒険者を目指さないなんて珍しいな」

「……この街に来る人って冒険者を目指す人が多いんですか?」

「なんだ、それも知らないのか? この街は光の女神イミテア様と関わりが深い街だからな。イミテア様は『勇者』様への加護を与える偉大な女神なんだ。歴代の『勇者』様は冒険者と関わりが大きいからな。そういう英雄に憧れて冒険者登録をする奴も多いんだ」



 やっぱり『勇者』や『魔王』っているんだなぁなどと思った。母さんの与えてくれた知識は俺がこの世界で生きていけるように、最低限の知識を詰め込んでいるだけなのでそれらの情報はあまりない。

 母さんからすると『勇者』や『魔王』ってどうでもいい存在なのかもしれない。

 


 あと光の女神イミテア様って、知識の中だと母さんの姉的な立場の人らしいってある。

 ……俺にとって伯母的な人なのだろうか。いつか会うこともあるのだろうか? その男性は光の女神を信仰しているらしく、俺に向かって熱く語っている。



 光の女神はこの世界で最も信仰されている女神と言えるらしい。

 人の味方をし続け、人に寄り添い続けた女神様。……それでいて英雄と呼ばれる男性と恋仲になる例も多いらしい。英雄になって女神と恋をすることを夢見ている人もいるそうだ。


 神っていうのは、恋愛沙汰に奔放なものなのだろうか。

 俺は正直あんまりそういうのは何とも言えない気分になるので、時期は重なっていないとはいえそれだけ英雄と恋仲になる女神様ってちょっと仲良くなれるだろうかとそんな気持ちにもなった。






「……店主さんは、女神ノースティアについてどのくらい知っていますか?」

「なんだ、お前、ノースティア様を信仰しているのか?」


 問いかけた後に、闇の女神とか言われているなら……光の女神の信者に聞かない方が良かったのではと思ったけれど案外店主は表情をかえなかったのでほっとする。



「いえ、ちょっと気になっただけです」


 俺にとって両親と言うのはある意味絶対で、特別な存在ではあるのである意味信仰ともいえるかもしれないけれど……まぁ、あくまで母さんに対しては母親として慕っているだけである。



「ノースティア様は遥か昔にお隠れになられてから、現れていない。言い伝えによると天災のような女神であると言われているな。時に人に祝福をもたらし、時に人に災厄をもたらす。それはすべてノースティア様の機嫌次第だと言われている。ノースティア様は闇の女神、悪魔、邪神などと称されることも多いが……別に悪と言うわけではない」



 母さん、邪神呼ばわりされているの?

 いや、でも簡単に想像できる。母さんは自由気ままだ。父さんが止めれば止まるけれど、それ以外の人の言葉は聞かないだろう。まだ俺や華乃姉、志乃姉の言葉は少しは聞いてくれるけど……。


 知識によると地球とこの世界の時間の進みは異なるようなので、こっちでは母さんが地球に行ってから随分時間が経っているようだ。



「ただあまりノースティア様のことは公で話さない方がいい。ノースティア様を悪とするものもいれば、ノースティア様を信仰し悪行を行っている者も多いからな」

「……はい。そうします」


 うん、という俺を召喚したあの黒いローブの人たちもそういう悪行を行ってそうな人たちだったしな。



 俺はそれからしばらく食事を終えるまで店主と話していたのだった。




 それで分かったのは、母さんはこの世界にとってある意味特別な女神なのだなということだ。

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