何処に向かうか相談 ②
「咲人、なんでわざわざ木の上で移動しているの?」
「やったことないから、楽しそうだなって。実際に結構楽しい」
俺はクラと同じく木の上をぴょんぴょんと飛び回って移動している。
先ほど、木の枝が俺の体重に耐えられずに折れてしまったからちゃんと太いものを選んで飛び乗っている。
クラは俺が乗れるぐらいの太さのものを選んで移動しているらしく、うん、そういう所、クラの可愛い所だと思う。
木の上から見る光景は、結構楽しい。
当然のことだけど、地球にいた頃はこんな背の高い木の枝へと飛び乗るなんてまず無理だ。どれだけ頑張ったとしても人の身体能力には限界があるし、軽く飛んで枝に飛び乗るなんて魔法がなければできないしな。
「サクトって……、なんというか今をすごく楽しんでいるわよね」
「フォンセーラ、突然、どうかしたの?」
「なんていうか、色々なことに遭遇しても全く変わらないなとそう思ったの」
「そうか?」
地面を歩くフォンセーラに言われた言葉に、軽い調子で返す。
色んなことに遭遇かぁ。まぁ、異世界に来てから予想外のことばかりだ。というかそもそも普通は地球から異世界に行くというのがあり得ないし。それで異世界に来たら来たで、母さんが神様――それも邪神とか言われそうな存在だと知った。それから母さんの
母さんの信者を邪神の信徒だから排除すべきという春暖がいて、命の危険にさらされた。あとは普通に魔物との戦いも、俺にとっては初めての経験だった。盗賊と戦ったり、母さんに関わる遺跡に向かって、チエリックのような存在に出会ったり……。
うん、かなり色んなことが起こっている。というか俺の人生の中でこれだけ濃い日々は初めてであると言える。
確かに何かしら出来事が起こって、性格とか、色んなものが変化することはあるとは思う。
俺が好んで読んでいた漫画とかでもそういう変換は少なからずあった。確かにこれだけ色々あったら変わってもおかしくない気がするけれど、俺は不思議と落ち着いている。
これは母さんが俺にそういう風に生きやすいようにしてくれているからもあるだろうけれど。
まぁ、あとはなんだかんだ何かあったとしても母さんが何とかしてくれるみたいな安心感があるからかも。
「俺は実際にこの異世界での生活を楽しんでいるからなぁ。大変なことも危険なことも多いけれど、それでもその分楽しいことも多いし」
嫌なこともないわけじゃない。けどまぁ、それも人生経験だと思う。
どちらにしても地球でだって社会人になって、一人で何かをするとなったら危険なことは色々あるだろうし。それと変わらない。地球でも、異世界でも正直言って俺は変わらない心づもりで生活していると思う。
「私はサクトがそういう性格だから、接しやすいと思っているのかもしれないわ。幾らサクトがノースティア様の息子だったとしても、性格の不一致があるのなら一緒に居るのが苦痛になったと思うもの」
「まぁ、気が合わない奴と無理に接するのって大変だしなぁ……。フォンセーラは俺に我慢できない部分とか見つけたら教えてほしいかな」
俺とフォンセーラの関係は信仰対象の息子と信徒なので……普通の旅仲間とか、友達と言った関係性ではない。とはいえ立場が上下関係だとは思ってないし、俺はそういうのは嫌だなとは思う。
「ええ。サクトも遠慮せずに何か私に改善してほしい点があったら言ってね」
「んー。改善したい点か。ないかな。フォンセーラと一緒に居るのは楽しいし」
正直考えてみても、フォンセーラに改善してほしい点なんて全く思いつかない。フォンセーラと一緒に居て、その性格で何か嫌なことがあったなんてことはない。というか、俺はあんまり人に対して一緒に居てこういう点が嫌なんて思ったことないかもしれない。
その辺は、まず合わないと思った相手と一緒に居ようとしないからかもしれない。母さんが自分が付き合いたくない存在とはまず一緒に居ないタイプだし、俺も合わないなという相手とはそもそも一緒に居なかったしな……。
フォンセーラが本当に相いれない考えを持っている人だったら、まず途中で一緒に旅をするのはやめると思う。
「そう……。私はサクトに何か変えて欲しいというのはないわ。ただあれね、サクトはもっと自分がノースティアの息子であるという自覚はもっと持ってほしいなと思うわ」
「自覚?」
「ええ。貴方に何かあれば確実に大変なことは起きるわ。それこそ世界を揺るがすようなことが起こる可能性もあるんだから」
そんな風に言われて、それもそうだと思った。
……俺は頭では母さんが神であることを頭ではなんとなく分かっている。けれども実際に俺に何かあった時にどういう影響があるか――というのをきちんとは理解していないとは思う。
そういう心配ばかりして行動を制限するつもりはないけれど……、うん、特に母さんや伯母さんの信者がいる場所では気を付けてはいないといけないなと改めて思った。
「うん。それは気を付ける。俺も自分が母さんの子供だって大々的に言うつもりはないし」
きっと一度広まれば、ずっと広まっていくだろうから。