何処に向かうか相談 ①
「フォンセーラとクラは何処に行きたいとかある?」
俺達は今、街道を進んでいる。
明確に何処に行きたいかというのは決まっておらず、正直見たことのない景色は幾らでも見たいと思っているので向かう場所は何処でもいいかなとは思っているけれど。
「ノースティア様に関わりがある場所に向かうのならば、北大陸とかにも行ってみるのもありだと思うの。ここからは遠いけれど」
「北大陸って……あれだっけ、魔族とか、そういう存在が住んでいるかもって言われてるんだっけ?」
俺はフォンセーラの言葉に北大陸について思い起こす。
――この世界に来てから少しだけその話は聞いたことある。
北大陸と呼ばれる場所は、他の大陸とほとんど交流を持っていないというか……、未開の地のように一般的には認識されているらしい。母さんなら行ったことはあるかもしれないけれど、少なくとも一般的には知られていないだろう。
魔族とか、そういう単語を聞くと母さんと関連がありそうってそんなことを思う。
「ええ。私も当然、行ったことはないわ。いつか行ってみたいとは思っているの。ノースティア様に関わりのある逸話がいくつか残されているから」
「へぇ、そうなんだ」
「そうよ。ノースティア様は世界各地に……それこそ何処にだって逸話が残っているような方だもの」
普段はあまり表情が変わらないのに、やっぱりフォンセーラは母さんのこととなるとこうやって顔に出る。うっとりした様子を見ながら、母さんは本当にすさまじいなと思った。
ちなみに今、俺達が居るのは西大陸と呼ばれている場所の、南に位置する国である。北大陸に行くにはかなりの距離がある。だからもし向かうとしてもまだ先になるだろう。
「北大陸に行くのを目指すとはいえ、すぐにはいけないし、一先ず近場で良さそうな場所がないかだよなぁ」
大陸を渡るとなると船で行くわけだけど、そもそもほとんど他の大陸と関わりがないような場所だし船が出てるかもわからないしな。
出ていたとしても凄く限定的な気がする。
「それはそうね。他の大陸に行ってから、そこから北大陸に行く船があるかとか探すになりそう」
「正当な方法で行けないなら、別の方法を探らなきゃだしなぁ」
今度の家族会議で軽く聞いておくか。ああ、でもなんでもかんでも教えてもらうだと面白くないし、最低限だけ教えてもらうことにしよう。
そんなことを話しながら歩く。
どこに長期的に滞在するかなども全く決めてない。何かしら面白そうな場所を見つけられればいいのだけれど。
「なんか適当に進んでいたら面白いもの見つかるんじゃない?」
俺達の会話を聞いていたクラが軽い調子でそう告げる。
なんだろう、俺が地球で呼んでいた異世界転移ものだと何かしらの切羽詰まったことがあったり、目的があったりとかも多かった。でも特に俺は絶対にかなえなきゃならないものなどないので気が抜けるというか、随分のんびりしてしまっているなぁとは思う。
それでもいいけれど、何かもっとワクワクするようなもの見つからないかな? って期待する。
「よしっ、クラの直感で進んでみるか?」
「……それもありだと思うわ。神獣であるクラの導きによるものなら、良い場所に行けるかもしれないわ」
「いいけど、変な所に進んでもいい? 僕、サクトたちが喜ぶ場所に連れて行けるかわからないよ?」
俺の提案に、フォンセーラが乗り、それにクラが答える。
「問題ないよ。どこでも基本は楽しそうだと思うしな」
「私もそう思うわ」
俺とフォンセーラがそう口にすると、クラは嬉しそうな様子を見せる。
「じゃあ、こっち行こうよ」
クラがそう言う先は――街道から外れた場所である。
基本的にこの世界、人の手入れが届いている場所以外は魔物が溢れていたりと危険である。だから敢えて理由もなしにそういう道を進む人は少ない。
「フォンセーラ、街道それても大丈夫か?」
「ええ。周りへの警戒は必要だけど」
フォンセーラが頷いてくれたので、そのまま俺達はクラについていくことにする。
それにしてもクラはこうやって自然がよく似合う。ぴょんと木の上に飛び乗ったりして、跳躍力が凄い。
クラが好きなように進むと決めたので、先にあたりを見渡して周りを警戒してくれているようである。
「クラは本当に身軽だよなぁ。あんな風にぴょんって木に乗れたら気分良さそう」
「サクトも魔法を使えば飛び乗れると思うわ」
「それもそうか。ちょっと、試すか」
フォンセーラの言葉に早速試してみようと思い、身体強化の魔法を使って飛び乗ってみる。……思ったより細い枝に乗ってしまい、そのままぽきっと折れてびっくりした。
魔法使っていたから、落ちても問題なかったけれど!
「咲人、何やってるの?」
「サクト、ちゃんとしないと危ないわ」
そんな俺の様子を見て、クラとフォンセーラのそれぞれにそう言われる。
……もうちょっと考えて魔法を使わないとなと思う俺であった。