闇の女神に纏わる遺跡 ⑱
「お前たち、無事だったのか」
俺達が遺跡を後にして、宿屋へと戻ると宿屋の店主に驚いた顔をされる。
……俺達が亡くなっているかもと思われていたようだ。確かにしばらく遺跡にこもっていたしなぁ。
それだけあの遺跡は危険だというそういうことなのだろうというのが分かる。
「はい。無事に戻りました」
「かなり潜っていたようだが、何処までいったんだ?」
「そんなに奥までは行ってないですよ」
俺はそう言ってはぐらかしておく。
だって流石にチエリックに会ったこととかは説明できないし。俺が母さんの――闇の女神の息子だと周りに知られても良いという状況ならともかく、そうでないのならばそういうことは周りに伝えない方がずっといい。
ただ俺達が無傷で戻ってきたことだけでも十分、周りからしてみると驚きらしい。
……まぁ、俺達って客観的に見てみると頼りなさそうな少年(俺)、愛らしい見た目の少女、そして猫だしなぁ。
正直見た目では何も測れないとは思う。とはいえ、視覚情報というのはやっぱり重要で、雰囲気とか第一印象とかを含めてで判断しちゃうだろうし。
「そうなのか。……これらかも潜る予定か?」
「この街にいる間は潜るかもです」
いつまでこの街にいるかというのは決めていないけれど、この街にいる間はまた遺跡には行こうとは思っている。
チエリックから聞きたい話もあるし、それに遺跡を全部見て回れるわけでもないしなぁ。
「サクト、私は疲れたから眠るわ」
フォンセーラは旅慣れしていて、体力がある方だとは思うけれどこれだけ遺跡に潜ると流石に疲れてしまったらしい。うん、俺も気持ちはわかる。
「うん。お疲れ、フォンセーラ。俺も部屋に戻るよ。また明日」
「ええ」
そう言ってフォンセーラと別れて、そのまま俺はクラと一緒に借りている部屋へと戻る。
ベッドへと腰を下ろして、仰向けになって寝転がる。天井を見上げながら、今回、色んなことがあったなと改めて思った。
「サクト、寝る?」
「いや、まだ寝ない。ただ、なんか色々あったなーって。この世界に来てから今までになかったことにどんどん遭遇するからさ」
この世界に来てからというものの、驚くことばかりだ。
母さんが神様だったというのが一番の衝撃的なことだったけれど、やっぱりこの世界は地球育ちの俺からしてみると不思議なことで溢れているのだ。
「これから先もチエリックみたいな、母さんの信者には遭遇することあるかもな」
「そうだね。乃愛って、僕が思っているよりもずっとこの世界の皆に慕われてるみたいだし」
クラはそう言いながらどこか不思議そうにしている。
……母さんがこの世界にとって特別な女神で、チエリックみたいな連中が世の中には山ほどいるんだろうなと頭では理解していても、俺達からしてみれば母さんは母さんで、地球にいた頃の印象が強いからな。
「伯母さん以外の神様だと、どういう人がいるか分からないしな。神様全員が母さんに好意的であるとは限らないよな」
「乃愛、敵も多そうだよねー」
「それはそう。母さんって周りの意見なんて気にせずに突き進むからなぁ」
母さんってどれだけ敵が増えようともあのままだろう。というか、俺や華乃姉や志乃姉達も、母さん関連のことで狙われる可能性も出てくるとそんな考えにも至る。母さんが何かしら周りを敵に回すとしたら、俺は母さんの話を聞いた上で考えるだろうな。……俺にとってどうかと思うようなことを行われたら、流石に意見ぐらいはするだろうな。流石に父さんが本気の親子喧嘩は止めそうだから大変なことにはならないだろうけれど。
「サクト、何、考え込んでいるの?」
「いや、母さんと親子喧嘩とかすることになったら大変そうだなって」
「え、それ、楽しそう。僕、それするならサクトの味方するよ」
「なんで、楽しそうなんだよ……」
大惨事にしかならなさそうなのに、クラは楽しそうにしていた。
そんな会話をした後、俺は眠りについた。起きた時にクラはべったりと密着させて眠っていた。
その後はしばらくの間、街に滞在中は街を見て回ったり、遺跡と往復したりというのを繰り返した。
チエリックとは沢山会話を交わして、この世界での母さんのことを色々と知ることが出来た。
「よし、じゃあ次の場所行くか」
「ええ。行きましょう」
「うん。次はもっと面白いもの見れるかな」
そして思う存分、遺跡を見て回るのに満足したので俺達は街を後にすることになるのだった。
次は何処に行こうかというのは、なんとなくしか決まってはいない。だけれども興味深いものは沢山この世界にはあるのだ。
そのうち母さんたちとも再会したいけれど……まぁ、それはまだまだ二人で旅を楽しみたいと母さんが言っているらしいので先のことにはなるだろう。
神界に行くための方法を調べつつ、もっと母さんに纏わるものを調べて行かないと。