闇の女神に纏わる遺跡 ⑰
その母さんに纏わるものが置かれているエリアを見ていると、本当に様々なものがある。
というかチエリックは、母さんの信奉者であるというだけあって楽しそうに母さんに纏わるもののことを喋っている。
そんなものまで大切に保管しているのか……? と疑問に思うようなものなども沢山あって、不思議な気持ちになった。
チエリック達からしてみると、地球での母さんの私物とかも全て特別なものって認識なのだろうか……?
というか、こういう人たちからしてみれば母さんの息子である俺の物も全部特別に思うことになりそう。
……なんかストーカーみたいな思考だなぁと何とも言えない気持ち。
「チエリックは神界に行ったことあるのか?」
「ないです! ああいう特別な場所には、招かれないと行くのは難しいですし。そもそも僕が勝手に神界に行こうとしたら怒られそうですし!!」
「怒られるのか?」
「ノースティア様は特に自分のペースを崩されることを嫌がるような方です。過去にノースティア様を信仰するあまりに神界にまで訪れた人は問答無用で殺されたりしました」
そんな風に言われて、凄く納得がいった。
母さんが望んでもないのに、わざざわ母さんを訪ねて神界に訪れるとか母さんが怒るのが容易に想像できる。
というかあれだよな。神界を一つの国か何かに置き換えてみると、気づいたら外から人がやってくるだと結構大問題になったりするのかな? そもそも神様達が暮らしている場所を訪れる人なんて早々居ないだろうけれど。
「他の神様だと訪れようと気にしない感じ?」
「そうですね。イミテア様とか、他の神だと普通に受け入れるはずです。寧ろ自身の力で神界を訪れるような存在には神は興味を抱くことが多いはずなので。願いを叶えたりしているはずです」
やっぱり神様の中でも母さんって特別というか、異質な感じのようだ。
でも神様が全員母さんみたいに自由気ままで、マイペースだったら流石に世界が混沌としてそうだしななんて思ったりする。
それにしてもこの前、伯母さんに会った時に望みはないかと聞かれたりしたけれど……神様って自分の気に入った相手の望みを何かしら叶えようとするものなのだろうか? 俺はただ母さんに招かれるではなく、自分の力で神界に行けたらいいなと軽い気持ちで神界を目指しているわけだけど……。
世の中で神界を目指すような人たちはもしかしたらその何かしらの願いを叶えてもらうために向かうのだろうか?
「へぇー。他の神様がどういう人が居るか気になるなぁ」
「サクト様はまだ会ったことがないのですか?」
「伯母さん……光の女神のイミテア様にだけは会った」
「イミテア様を伯母さん呼び……」
俺が伯母さん呼びしていることが衝撃的だったのか、チエリックは固まっている。
それにしても伯母さんはともかくとして他の神様って母さんにとってどういう存在なんだろう?
神話とか調べていると確かはじまりの神様ってのは居るらしいけれど。
そんなことを思考しながら、どんな神様と出会えるかと楽しみだったりする。
まぁ、中には母さんをよく思っていない神様も居るのかもしれないけれど。でもこうして異世界で過ごしていると、基本的に他の神様でも母さんには手を出せないと思うんだよな。
感覚的に母さんってこの世界だと手を出さない方がいい存在っぽいし。……うん、というか今はまだ母さんは父さんを人気がない所にしか連れて行ってないっぽいけど、満足した後に人里とか訪れた時に父さんに何かあれば母さんブチ切れそうだなぁ。
そんなことを考えながらチエリックから色んな話を聞いた。
俺の知らない異世界での――本来の母さん。父さんと出会う前の母さんはなんというか、俺の知っている母さんと少し違ったりする。今の母さんは父さん第一で、それ以外はどうでもいいと言った感じだけど、父さんに出会う前だと当然違うから。
なんというか、母さんって制御の効かない存在だったんだなというのは思った。今は父さんの一言ですぐに止まるだろうと予想出来るけれど。
きっとこの世界で母さんを知っている人たちは、父さんと出会って少し丸くなった……いや、丸くはなっていないか、暴走癖が少し収まった勘感じかな。その状態になった母さんを見てほっとするかもしれない。
「チエリック。神界に行くために役立つかもだから、一応母さんに纏わるものもらっていい?」
俺がそう口にすると、チエリックはすぐにそれを俺に差し出した。
この遺跡で保管されているものの中で、持ち運びしやすそうなものをもらった。それは母さんの神力の込められた竜の鱗のようなもの。というか、竜の鱗ってだけでもワクワクする。
なんか過去に母さんに負けた奴が残していったものらしい。
ちなみにクラとフォンセーラも同じようにもらっていた。
フォンセーラは感激した様子を隠せていなかった。それだけ母さんの信者にとってはそういうものを手に入れられることって特別なんだろうなと思った。
それから色々話を聞いた後、俺達は遺跡を後にするのだった。