闇の女神に纏わる遺跡 ⑯
「ノースティア様の旦那様は、それだけノースティア様のことを惹きつける素晴らしい方なのですね! 是非お会いしたいです。それにそんな方ならば、信仰しないと!!」
「いや、絶対父さん嫌がるからやめよう」
うん、チエリックの言葉に思わずそう言ってしまう。
父さんは日常を愛しているような人なのだ。そもそも神である母さんに愛されておきながら、その力を何かに利用しようとすることなく……ただ日常を謳歌していたような父さんである。
頭で考えてみると改めておかしいな? ただ父さんって別に無欲とかそういうわけでもないから、不思議だと思う。
「嫌がるんですか……」
「多分。父さんって目立つのとか好きじゃないから」
……父さんは母さんにほだされて、異世界にまでやってきたわけだけど。
でも周りの連中が騒ぎに騒いだら、それだけ父さんは嫌がって、母さんはそれを見たらすぐ対応しそうだ。
一斉にみんなの記憶を消すとか、そういうのもきっと母さんはすぐに出来るだろうし。
「そうなんですか。ノースティア様がそれだけ惹かれている方だというのならば素晴らしい方なのだろうなぁ」
「……言っておくけど、父さんは俺と見た目そっくりだからな? さっき平凡な見た目がどうのこうの言っていただろ?」
「……そうなんですね」
「ああ。俺のことはまぁ、ともかく……父さんのことを悪く言ったら間違いなく、母さんはブチ切れる」
「……ノースティア様が、そんな風に?」
チエリックは母さんが本気で怒るという場面が想像できないらしい。父さんのことが関わりなければ飄々とはしているしなぁ。
「俺はこの異世界での母さんのことを知らないから、どんな風にチエリックから見えていたかとか教えてくれるか? ついでにこの遺跡に母さんに纏わるものとかあるのならば教えて欲しいと思うのだけど」
俺がそう言うと、チエリックは笑顔で頷いた。
「まず、この場所はノースティア様が過去に降臨された場所に建てられた遺跡なんだ。ノースティア様はこの場に訪れた際に三つのことを成した。それはこの地で紛争が起きていたのをまず収めたこと。そして遺跡を建てる許可を出したこと。あとはダークエルフに言葉を授けたこと」
「……絶対に何か面白そうとか、そうした方がいいって気まぐれでやったんだろうな」
母さんってそういう理由じゃなければおそらく紛争に口出したりとか、遺跡を作る許可を出すとか、ダークエルフに言葉をかけるとか絶対にしないし。
「その時に言葉を授けられたダークエルフの長は、そのことを凄く自慢してる。ノースティア様、キスして言うこと聞かせたみたいで、自分はノースティア様の祝福を受けたって言ってる」
「いや、絶対ない! ただ気まぐれでやっていただけだろうし、母さんは絶対にそんな奴、覚えてないな……」
「いつか自分はノースティア様から使命を受けるんだって言ってた。あとノースティア様の美しさにも魅了されているのか、誰の物にもならないって神聖視してるのは知ってるから……サクト様が子供だってそいつも認めないとか言い出すかも……」
「お前みたいに話聞かない系なの?」
「……うっ。まぁ、そうです。はい。ノースティア様の美しさは完璧で、それが損なわれることはあってはならないって感じなので、サクト様とか、あとノースティア様の旦那様の見た目とか見ても信じないかも……」
そんなことを言われても知るかと思った。
というか、勝手に誰の物にもならないって神聖視しているとは中々気持ち悪い。母さんは神様だから一方的な感情を向けられているのなんて当たり前なのかもしれないけれど、それでも冷静に考えると中々引く。
一方的な神様への信仰なんてそういうものなのか……。というかそういう感情を向けられても平然としている母さんはやっぱり色々と凄い。
「この遺跡、そのダークエルフの長が掘った彫刻とかあります。あとノースティア様に関わる物とか、色々あります。この遺跡を見事クリアした人には分け与えられるものは分け与えたりしてます。それだけノースティア様への信仰心が強い方になるので。でも今の所、そこまでたどり着いた人いませんけど」
「一応、見たい。俺、自分の手で神界行くようにしようと思っているから、役に立ちそうなのあったら欲しい」
「……ノースティア様がすぐ迎えに来てくれそうですけど」
「自分で行った方が楽しそうじゃん。俺、この世界初めてだし」
俺がそう言うと、変な顔をされる。
「サクト様は変わってますね」
なんて言われたけれど、俺はそこまで変ではないと思うのだが……。
その後、チエリックに案内されて俺達はその母さんに関わるものが置かれている場所へと連れて行ってもらうことにした。
この遺跡はチエリックが管理しているから、どこに魔物を出すかとか、そういうのも自由自在らしい。
クラやフォンセーラも一緒に、進んでいる。フォンセーラは母さんの信者だからあたりをきょろきょろと興味深そうに見ていた。