闇の女神に纏わる遺跡 ⑭
「お前の仲間……?」
「フォンセーラという女の子と、あと黒猫のクラ」
「女の子の方は、ノースティア様への正しい信仰心を持っていたから普通に通した。お前とあの猫はなんなんだ! ノースティア様に対する気持ちが軽すぎる。……それにノースティア様の子供って、本当なのか? 僕はノースティア様に知らされていない!」
「フォンセーラが無事ならいいや。クラの方はどうにでもしているだろうし。というかクラは母さんの可愛がっている猫だから、クラに何かあったら母さんが怒るぞ?」
俺はそう言いながら、そいつが暴れないように拘束しておく。
魔力を纏わせて、相手の魔力が練れないように押さえつけるイメージ。だってこういう存在だと手足を拘束した所で、魔法などでどうにでも出来そうだから。
「……あの猫を、ノースティア様が可愛がっている? ノースティア様がそんな生物を可愛がるなんてやっぱりお前、嘘をついていないか?」
「全く。俺が母さんの息子であることも、クラが母さんに可愛がられていることも本当だ」
「……本当にそうだったとしたら、ノースティア様の猫が大変なことに! 僕はノースティア様に嫌われてしまうっ」
「母さんはお前のことを嫌うほど関心がない。クラに何かあれば嫌がりはするだろうけどな。俺はとりあえずクラとフォンセーラを迎えに行くから」
「え、待って!! 僕も……」
俺の言葉を聞いて、そいつは文句を口にする。
俺は一旦、その存在を放置してクラとフォンセーラを迎えに行くことにする。
「僕はノースティア様の話を――」
「ああ、もう煩い。後で話は聞いてやるから」
俺はそれだけ口にして、そいつから聞いたクラとフォンセーラの居る場所へと向かうことにする。
魔力を流しながら、気配を察知して、遺跡の中を歩き、二人の元へと向かう。
「咲人!!」
クラはすぐには見つかった。
クラは分かれた時と変わらず、元気そうだった。おそらく俺と同じく魔物に囲まれて大変だったのではないかと思う。けれどクラにとってみたら魔物に囲まれようとも、全く困ることではなかったのだろう。
寧ろすっきりしたような表情には見える。
「クラ。無事でよかった!」
「僕は全然大丈夫だよ。色んな魔物が居たけれど、特に強いのはいなかったし。乃愛の神獣って立場の僕がそんな簡単に負けるわけないし。咲人は大丈夫だった?」
「俺も魔物には囲まれたけれど、なんとか乗り切ることが出来たよ」
「よかった! 咲人に何かあったら絶対に嫌だもん」
クラはそういう。
俺のことを心配してくれていたんだろうなとそう考えると、思わず笑ってしまう。
大切な飼い猫の可愛い様子を見ると、思わず頭を撫でてしまった。
俺に頭を撫でられると、クラは気持ちよさそうに鳴く。
思わずそれにほのぼのした気持ちになってしまったが、俺ははっとする。
「そうだ。フォンセーラを迎えにいかないと!」
「フォンセーラ、姿消えていたよね。どこに行ったかわかるの?」
「うん。母さんの信奉者をとっちめて、情報聞き出したから場所は分かるよ」
「そうなの?」
「そう。俺が母さんの息子だって言っても全然信じなかった奴。それで戦ってとっちめた」
「へぇ。咲人は乃愛と博人の息子なのにね。実際にそうなのに信じないなんてよく分からないね」
「母さんが誰かを愛したり、子供を生んだりすることがあり得ないってそう思っていたみたい」
俺がそう答えると、クラはちょっと怒った様子である。
こうやって決めつけるのは正直言って、嫌だなと俺は思う。ああいう連中が好き勝手母さんの名前を使ってるのは本当に気分が悪い。
フォンセーラと合流した後、あいつに母さんの名前を勝手に使わないようにくれぐれも伝えておかないと。
というかああいう連中って横のつながりとかあったりするんだろうか? 母さんの信者達でつながっているのならば、そういうことをしないようにしたいよな。
俺とクラはそんな会話をした後に、フォンセーラの居る場所へと向かう。
そちらは俺やクラが飛ばされたような場所ではない。どちらかというと魔物などとは無縁に見え、整えられている。一口に遺跡とは言ってもこんな風に違う一面を沢山持ち合わせているのだなと驚いてしまう。
「フォンセーラ!」
フォンセーラの姿はすぐに見つかった。
遺跡の装飾品をまじまじと興味深そうに見ながらフォンセーラは歩いていた。
「サクトに、クラ。全然来ないから先に見ていたの。再会出来て良かった」
フォンセーラはそう言って、柔らかな笑みを浮かべる。
そんなフォンセーラに俺とクラが魔物の蔓延る場所へと移動させられたことや母さんを信仰する者との遭遇のことなどを話した。フォンセーラはとても驚いた顔をしていた。
「そんな存在に襲われるなんて恐ろしいわね。ノースティア様の信者でありながら、サクトの言葉を聞かないなんてっ」
そんな風にフォンセーラは憤慨した様子だった。
信者であるのならば、母さんの言葉である俺の言葉は聞くべきという認識なのだろう。
これからその存在の元へと向かうと告げると、フォンセーラは「よく話をしないとしけないわ」とそう口にするのだった。