闇の女神に纏わる遺跡 ⑫
魔法を行使する。
異世界にやってきて間もなくの頃であったなら、俺はこんな風に対応など出来なかっただろう。まだ魔物への対応に慣れている今で良かった。
そう思いながら俺は魔法を行使していく。
……一回、思いっきり吹き飛ばされてびっくりした。だけど、どうにか対処を進める。
大分、痛みもあるし大変だったけれどなんとかなった。
様々な属性の魔法がその場に舞い、余裕なく魔法を使っていたからか壁なども破壊されている。流石に外が見えるほど破壊はされなかった。
というか、やっぱりこの遺跡は普通の場所とは異なるんだなとは思った。
母さんが俺の母親であることは事実だ。それなのにそれを認めないと勝手に決めつけて、発言をする存在には正直いら立ちを感じてしまう。
そもそもの話、本人の意思を無視して、無礼だとか勝手に決めつけられると嫌な気持ちにしかならない。
……俺、珍しく怒っているのかも。
そんなことを考えながら、俺はフォンセーラとクラを探しに向かうことにする。
二人とも別の場所に移動させられているのだろうか? 同じように危険な場所に移動させられてなければいいけれど……とそこまで考えて、一つのことに思い至る。
フォンセーラは純粋に母さんへの信仰心に満ちているから、正規の方法で移動したのかも。
クラに関しては……俺と同じような感じで、魔物の巣に飛ばされているのかもしれない。けれどクラに関しては基本的に問題はないだろう。
母さんの神獣であるクラが危険な目に遭うことはないだろう。しかし母さんはクラのことを可愛がっているからこそ、何かあったら母さんの怒りを買いそうなんだけどな。
そんなことを考えながら一人で進んでいく。
遺跡を一人で進んでいると、なんだか緊張してしまう。異世界に来て最初の方にフォンセーラと知り合いになって、クラもこちらに来て。そもそも一人行動していた時もこういう遺跡のような危険な場所に赴いたりはしていなかったしな。
異様に強そうな魔物がちらほらいるのは、この遺跡に関連する母さんを信仰している存在が俺のことを気に食わないとかそんな風に思っているからだろうか?
母さんのことを母さんと呼ぶのを無礼だって怒っていたみたいだし。そういう事実関係を何一つ確認せずに、思い込みで行動をしているのって本当にあり得ないよなぁと思う。
この世界にいた母さんは父さんに出会っていなくて、だからこそ、何一つ大切にせずに生きていたのかもしれない。
誰かと恋仲になったことなどなかっただろうし、興味本位で関係を結んだとしても子供なんて産まなかったのだろうなとは思う。だからこそ母さんに子供がいるという事実が信じられないとかだろうか?
でもそれにしてもだ。母さんにだって意思があって、母さんだって家族を持ったりするという当たり前のことを一切考えてないのが、頭が足りない感じがする。
本当に俺、魔法の才能があってよかった。あと異世界に来てから一生懸命練習して良かったとほっとする。死んでも母さんがどうにかしてくれるとは言っていたけれど、出来れば死にたくはないし。
様々な魔物がこの遺跡の中にはいる。こうやって対応を進めていると、俺だから生きているのだろうなと実感する。
――きっと普通の人ならばこういう場所まで入り込んだとしても、すぐに死んでしまうだろうと想像が出来る。
『なんだ、まだ生きているのか? しぶといやつめ!!』
しばらくそうやって進んでいると、そんな声が聞こえてくる。
「お前、母さんの信者なんだろう? 俺に何かあったら、母さんは怒るけれどいいの?」
『……ノースティア様のことを母さんなどと呼ぶな!! 無礼者!! それにノースティア様のことを性格が破綻しているなど……!!』
俺の祈りは、この意味不明な思い込みの激しい存在には聞こえていたらしい。
……本当にもう、話を聞かなすぎる。というか、母さんが性格破綻しているのは事実だからなぁ。
なんだろう、信仰することと、その信仰先を客観的に見れないはまた違う。
「事実だから。あとお前が何を言おうとも、俺は闇の女神であるノースティアの息子だよ。母さんは父さんのことを心の底から愛していて、だから俺達が産まれた。俺のことを認めないというのならば勝手にすればいい。それで後悔するのはそっちだよ?」
俺がそう口にした瞬間、目の前に何かが現れる。
――そこにいるのは、一人の小さな少年である。俺のことを睨みつけるように見ているその少年の耳には猫のような耳がついている。
美しい黒髪の美少年。それが宙に浮いている。
「いい加減にしろ!! ノースティア様は誰かを愛したりなどなされない!! 孤高で、一人で高みにいらっしゃるようなそんな存在なのだ。それにノースティア様は本当に美しい存在だ。お前のような平凡な見た目で子供なわけがなかろう!!」
……うーん、基準は見た目なのか? 俺は父さんに似た見た目だからなぁ。これを知ったら母さんが怒りそうだ。