闇の女神に纏わる遺跡 ⑪
奥へと進めば進むほど、この遺跡は本当に母さんと関わりが深いのだなというのは分かる。
それだけ母さん――闇の女神、ノースティアに関連するものが見られるのだ。
この遺跡は母さんのために作られた建造物であるといっても過言ではないだろう。それを実感すると母さんは本当に凄いなと思ってならない。
「……母さんへの信仰心を示せか。事前情報だとこういうのなかったよな?」
「ここまでたどり着ける人が居ないからか、それとも言えないように魔法でもかけられているかじゃない?」
進んだ先に、真っ黒な石で作られた石像がある。それは女性――母さんをかたどっているもののようだ。
その巨大な石像に何かしら母さんへの信仰心を示さなければならないらしい。
……母さんへの信仰心などと言われてもなと正直思ってしまう。
母さんは、俺にとって特別だ。そりゃあ、俺の事を生んでくれた母親だから。母さんのことを俺は大切だと思っているし、慕っている。とはいえこの遺跡の主の望むような信仰心が俺にあるかどうか……は正直分からない。そもそも人によって信仰の仕方は様々異なるだろう。どういう基準で、母さんへの信仰心を図るのだろうかなどと甚だ謎だった。
「信仰心の示し方……一先ず、ノースティア様に対しての感情を石像に伝えたらいいのかしら」
フォンセーラはそう口にすると、目を閉じ、手を合わせて祈り始めた。母さんへの心に秘めた信仰心を伝えているのだろう。
「咲人、僕らも乃愛への気持ちを伝えるの?」
「多分。でもまぁ、フォンセーラの祈りで、信仰心を示すことになるかどうか次第じゃないか」
俺とクラはそんな会話をしながら、フォンセーラのことを見守っている。それにしてもこういう神秘的な雰囲気の場所で、フォンセーラのような可愛い女の子が祈っているととても絵になる。
そしてその祈りの後――フォンセーラの姿がその場から消えた。
「フォンセーラ!? え、どこに!?」
俺は慌てて声を上げるが、フォンセーラの姿は周りには見られない。ついでに言うと俺が声をあげてもフォンセーラへと届いてはいなさそうだった。
「咲人、落ち着いて。騒いでも仕方ない。もしかしたら、祈りが届いて正規の方法で進んだとかかもしれない」
のんびりとした様子のクラにそう言われたけれど、いきなり目の前で旅の仲間が消えたら慌てるのは当然だと思う。
フォンセーラは魔法の腕が良いとはいえ、こんな危険な場所で一人だと大変な事態に陥るかもしれないのだから。
とはいえ、焦っても結局どうしようもない。そう結論づけて、俺は大きく深呼吸をする。
「それもそうだな。一旦、俺達も母さんに対する気持ちを伝えるか」
「うん。そうする」
クラに関しても多分、母さんへの信仰心なんてものはないだろう。母さんの神獣とはいえ、家族としての感情しかないはずだから。
それにしてもフォンセーラが消えたのが正規の進み方であるというのならば、失敗したらどうなるんだろうか?
そんなことを考えながら、俺は母さんへの感情を石像へと祈りながら伝えることにする。
闇の女神、ノースティア。俺の親愛なる母親。
母さんは正直言って、性格は破綻している部分もあると思う。母さんの世界は父さんとそれ以外しかなくて、どれだけ周りが母さんを慕っていたとしても、母さんはその気持ちを父さん以外に返すことはなくて、自分の思いが第一で。
うん、こうやってつらつら母さんのことを考えていると母さんは本当に母さんだなぁと思う。
人によってはそういう、他人なんてどうでもいいなんて考え方に眉を顰めるかもしれない。だけど母さんはそれでいいのだ。
俺はそういう母さんだからこそ、慕っていて、好ましく思っている。
母さんが異世界の女神様だと知って、本当に驚いた。でもそれが俺にはしっくりきた。それだけ人という枠組みを凌駕している存在だからこそ、母さんなんだなと思ったから。
俺の母さんへの感情は、一般的に考える信仰心とは言い難いかもしれない。だけど俺は……母さんの言うことは基本的に何でも聞くだろう。
――母さんは俺の言動なんて簡単に操れるから、それが本当に俺の意思かどうかは分からない。けれど操られていたっていいと思っているぐらいには、俺は母さんを慕っているのだ。だから、俺の示せる信仰心はそういうものでしかない。
今回、俺は異世界の母さんを知りたくて此処にきて――。
つらつらと、母さんのことを石像に向かって語り掛ける。
『ノースティア様を母と呼ぶなど、無礼な!!』
――その最中に、そんな怒り狂ったような声が聞こえてきた。若い少年の声のように思える。
「え?」
俺が困惑した時にはもう遅く、俺とそして隣のクラはいつの間にかどこかに移動させられていた。
そして移動させられた瞬間、また驚愕する。そこは魔物が敷き詰められたような部屋だった。……いきなり現れた俺のことを獲物と認識しているのか、彼らは襲い掛かってくる。
俺は何がなんだか分からないまま、その魔物たちの相手をすることになった。