闇の女神に纏わる遺跡 ⑨
とりあえず母さんのことを慕って暴走しているっぽい存在は、思い込みが激しそうだが会ってみないと分からない。
一旦、『ノースシィーダ』の最深部を目指すための準備をし始める。
ちなみに《アイテムボックス》系の魔法に関しては父さんの助言に沿ってやってみると前よりは上手く出来た。とはいえ安定してその魔法をどうにか出来るわけではないので、諦めて一旦は収納系の魔法具を購入してみた。
……なんか結局妥協案になってしまったことに関しては、悔しいなと思う。
母さんのことを知っているこの世界の人達にはきっと、そんなことも母さんの息子なのにできないのかみたいに言われたりしそうな気がする。
俺自身がそんなことを言われるのはまぁ、俺が上手く出来なかったのが悪いからともかくとして……俺が出来ないことによって母さんが侮られるかもしれないことが一番嫌だなと思っているのだ。
食料などを買い込む。
どのくらいの期間、遺跡に潜ることになるか分からないのか多めにである。
「咲人と僕が居るんだから、そんなに時間はかからないと思うよ?」
クラはそんな風に軽く言っていたけれど、絶対に大丈夫というのはきっとないと俺は思っている。もしかしたら何か不測の事態が起こるかもしれないと考えた上で進んだ方がいい。
それに早急にスピード重視で遺跡を進んでいくのならともかく、俺は色々見て回りながら遺跡内を探索したいからなぁ。
この前の探索では母さんに纏わる情報は手に入らなかったけれど、奥まで行けば少しはそういうものがあるかもしれない。
母さんはあまり覚えていなかったけれど少なからず母さんに纏わる場所なことなのは確かだしなぁ。
そういうわけで遺跡へと再度向かう。
ちなみに遺跡の入り口には騎士達が居たりするのだけど、俺達がもう一度遺跡に行くとは思っていなかったようだ。
この前、遺跡に入った時は……すぐに戻ったしなぁ。それ以降、一度も遺跡に足を踏み入れてなかったので諦めたと思われていたっぽい。
そうやって一度だけ遺跡に入って、その後二度と『ノースシィーダ』に足を踏み入れない人なんかも多くいるみたいだ。それだけ『ノースシィーダ』が危険だからなのだろう。罠や魔物が多くて、来るものを阻む仕掛けが山ほどあって……そんな危険な場所にはよっぽどの理由がないと何度も何度も足を踏み入れる人などいないことも納得が出来る。
「君達はそれだけノースティア様の信者ということか?」
そんな風に問いかけられたけれど……フォンセーラはともかく俺は信者かと言われれば家族愛だしなぁと思うので否定はしておいた。信者と言えば信者なのかもしれないけれど!
母さんという圧倒的な力を持つ神様を信仰し、その声を一度だけでも聞きたいとそういう気持ちで命を賭けてでも潜ろうとする――そういう狂信者のような人の方が多かったようだ。
ちなみに母さんが何かしらの情報改変をしたのか、遺跡を奥に進んでも母さんの声は聞こえないだろうというのが共通認識にはなっているらしいけれど。……なんだろう、今まで奥へ進めば母さんの声を聞けるとされていたのが、急に声は聞こえないだろうとなっても誰も疑問に思わないのが……母さんの力ってやばいなと思う。
俺とフォンセーラにはその常識改変がかけられていなかったわけだけど、そんなことをさらりとされているとびっくりしてしまう。
だって普通に考えてさ、気づいたら自分の考えや記憶が改変されているって怖すぎる。
うん、本当に母さんだけは何が何でも敵に回したくないってそんな気持ちでいっぱいになるよ。そもそもそれだけ簡単に常識を改変していくって、勝負にならないしなぁ。
敵対している気持ちを、好意に反転させることだって母さんにとっては自由自在なのだ。生物を魅了して操ることも、周りの意識を改変することも――だから母さんのことを討伐しなきゃ見たいに考えている伯母さんの信者達って本当にマリオネットか何かみたいなものだと思う。
母さんがひとたび、その認識を改変しようと思えば幾らでも出来るから、ただ相手にされていないだけだしなぁ……。
そんなことを思いながら、遺跡へと入る。
この前とはまた違った罠が発動した。
その罠はマグマのようなものが一時的に降り注ぐようなものだった。すぐに魔法で対応をしたから問題がなかったが、こういうのも対応ができなければ死が待っているだろう。
あと魔法による罠なのか、一定期間のみしかそのマグマは出現しなかった。
……なんだろう、こういうランダムな罠というか、予想外の方向で来られると本当に死者多数の遺跡だなと改めて認識する。
「なんか奥まで行かせる気ないとかかな? それだったらそれだったで、此処の遺跡に居る人って性格悪そう……。というかあと此処に居る母さんを慕っている何かにも常識改変がきいているのかな」
正直二度目の遺跡探索で、この遺跡って奥まで行かせないことが前提だったりするのだろうか? などと思った。