闇の女神に纏わる遺跡 ⑧
「フォンセーラ、今度の家族会議には参加してみて。たまにならいいって母さんが言ってた」
家族会議を終えた後に、俺がフォンセーラにそう言ったら驚いた顔をされる。その後、珍しく慌てふためいていて思わず笑ってしまった。
俺とフォンセーラは、部屋の中で会話を交わしている。
ちなみにクラは街の外でぶらついている様子である。
やっぱりフォンセーラにとって母さんのことだけを本当に特別に思っているのだろうなと思う。
これだけ母さんのことを特別に思ってくれているというのはただ嬉しい。家族会議に実際にフォンセーラが参加したらどれだけ面白いことになるだろうか。
「こほんっ、家族会議に参加させてもらえるかどうかはともかくとして、今回の会議ではどのような話をしたの?」
俺が楽しそうに笑っているのを見て、フォンセーラは咳払いをする。
そして話を変えるようにそう問いかけた。
「母さんと父さんは相変わらず仲良さそうにしていたし、姉さんたちは楽しそうにしていたよ。収納系の魔法に関して聞いてみたけれど、正直、一人で全部どう出来るか分からなかった。だから無理なら買おうかなって」
「そうね。収納系の魔法というのは本当に難しいはずよ。私もそんなものはちゃんと使えないもの。サクトならばそう言う魔法も簡単に使えるようにはなりそうだけど、買った方がはやいかも」
フォンセーラの言葉に俺は頷く。
俺は母さんの血を継いでいるとはいえ、何でも簡単に出来るわけではないのだ。
なんでも一発で出来てしまうというのは、少しつまらないなとは思うし。……うん、そう考えると母さんが色んな事に退屈をしていたらしいというのは納得が出来る。
母さんはこの異世界においても特別な存在で、誰かが隣に並ぶことはない。
母さんって本当に父さんに出会えたからこそ、こうして楽しそうにしているんだよな。
「あとは『ノースシィーダ』のことに関しても聞いたけど、母さんはあんまり記憶に残ってなさそうだった」
「……ノースティア様にとって、そういう認識なのですね」
「母さんに関わりがあるとされているものが全て、あんまり興味がないものなんだろうなと思うけど。でもなんかやっぱり母さんの周りをうろうろしていた存在がいるらしいけれど」
母さんの周りをうろうろしていた存在って、やっぱりこの世界にとっては特別なものなのだろうか?
一般的に見て特別な存在が、また特別な母さんの周りにいる。
そういう光景はきっと目立つだろう。
でも神様である母さんの姿なんて普通の人たちは見ることはないだろうけれど、そういう場面ってきっと幻想的なんだろうな。
「ノースティア様の周りにいる存在って精霊とか、神獣とかかもしれないわ。そういう存在ともしかしたらお会いできるかもしれないと思うと、緊張するわ」
「そこまで緊張する必要はないと思うけどなぁ。『ノースシィーダ』の深層部まで行けるなら会えるかもしれないけれど、実際に遭遇するかどうかは分からないしな。ただ奥まで行って、色々情報を持ち帰って終わりになる可能性もあるし」
俺が母さんの息子だと知っていたら、関わってくるかもしれない。でもそうでなければきっと俺に敢えて関わってこようとはしないと思う。
例えば俺が最深部までたどり着いたとしても、それでもただの人相手にそういう関心はないだろうなと思うし。
母さんを見ていると、それだけ自分よりも下位の存在に対する興味は本当にないからな。
ただ『ノースシィーダ』にいるそういう存在に関しては、どういう意図をもって母さんへの信仰心を遺跡で試しているのかなどは全く分からない。それをすることで母さんに何か働きかけようとしているのか、どうしたいかによっては最深部まで行った人に接触するかどうかは変わっていくだろうし。
でも母さんの名を好き勝手にしようとするのならば、俺はどうしようかな。その辺は『ノースシィーダ』の奥まで進んでからになるだろうけれど。
「フォンセーラ、俺はその母さんを慕っている存在が、よく分からないことを行って母さんに迷惑をかけるなら、もしかしたら意見を言ったりはするかも。母さんの遺跡に関するデマは母さん自体がどうにかするとは言ってたけど……。フォンセーラがそのあたりを嫌だというなら、宿で待っててもらってもいいよ。どうせ『ノースシィーダ』の最深部に行ったところで母さんに纏わる情報は幾つか集まっても、母さんの声を聞いたりは出来ないし」
俺がそう言うと、フォンセーラは少し驚いた顔をする。
俺がはっきりともしかしたら敵対するようなこともあるかもと言ったのに驚いたようである。
「サクト、貴方がノースティア様の息子であると分かったのならば、絶対に向こうはなんでもいうことを聞くと思うけど」
「でも母さんのことを慕った上で、これだけ好き勝手しているのだから思い込み激しそうじゃないか?」
うん、何か正直目的不明でも母さんのためにはならなそうなことをしていることは確かだしなぁ。