闇の女神に纏わる遺跡 ⑥
『コツ? そんなの、簡単に出来ると思うけど?』
「んー。母さんには出来ても俺には出来ないから」
『そうは言っても特にコツなんてないよ?』
……母さんは不思議そうな声をあげている。
うん、なんていうかあれだな。俺は魔法に関しては母さんほどセンスはないのだろう。母さんは本気でこんな風に思っているのだろうな。
『母様、それじゃあ説明になってないよ』
『母様、その説明じゃ誰も分からないよ。咲人、《アイテムボックス》的なものに関してだけど制御が上手く出来るかに寄るかなという感じだね。私や志乃もそこまで細かい制御は得意じゃないの』
華乃姉と志乃姉は、そういう制御は得意ではないと言っていた。
なんというか、収納系の魔法って力任せに魔力を込めてどうにか出来るものではないのだろう。
『咲人、マンションみたいなのを想像してみて魔力で箱を作っていくイメージにしてみたらどう? 上手く制御しないと何処に何を入れたか分からなくなって交ざってしまいそうだから、そういう風に何処に何を入れるかのイメージは大切だと思うんだ』
『博人はそれで出来たのー?』
『一時的になら。でもずっとそのまま維持は無理かな。乃愛はこういうのずっと使い続けられるの流石だよね』
『えへへー。凄いって思うなら、褒めて!!』
『はいはい』
姿は見えずに声だけしか聞こえない状況だけど、なんていうか両親の光景が目に浮かぶ。
きっとにこにこしている母さんと、呆れたような顔で笑っている父さんが居るんだろうなと思う。
それにしても父さんのイメージが一番わかりやすいかも。
小さな箱をイメージするか。でも確かにそうだよな。一つの大きめの箱――その空間に全て入れると、交ざって大変そうだ。うん、食べ物と道具とか入れとくとべちょべちょになったりとかするのだろうか。後片付けとかするの大変だと思う。
効果がなくなるとその場にばっと入れていた荷物が広がるとか? そなると魔力を固定というか、収納系の魔法を自分に何かがあっても壊れないようにはしておかないと大惨事とか引き起こしそうだと思う。
「ありがとう。父さん、後で試してみる。それにしても父さんもこの世界に来るまで魔法を使ったことがなかったんだよね?」
『役に立ちそうならよかった。うん。僕は乃愛が魔法とか使うの見てただけ。といっても状況が落ち着いてからは見ることもなくなっていたけど。魔法って凄く楽しいなと思うよ』
『博人はね、想像力が凄くて、いつも落ち着いているから魔法を使うのに向いているんだよー。魔法って、精神的にぶれたり、余裕がなくなると暴走させがちになるから』
俺がお礼を言えば、父さんと母さんがそんなことを言う。
ああ、でも何だか母さんが言っていることは納得できる気がする。父さんは何事にも動じないというか、受け入れるような人間だから何かあった時でも平然と魔法が使えそうだ。それに父さんは漫画やゲームが好きだからそのあたりに関する想像力も高いだろう。
というか、俺が魔法に関して想像しやすいのも父さんの影響もあるしなぁ。
……母さんは父さんを新しい身体に入れると言っていたけれど、きっとその身体の性能はすさまじいものだろうなと思う。母さんが父さんとずっと一緒にいるために準備していたものらしいし。
改めて考えると二人で末永く過ごしていくために新しい身体に父さんの魂を入れるって中々凄いことをしている。そういう点も母さんが神様だから出来ることなのだろうけれど。
「俺は想定外のことがあると流石に慌ててしまうな……。父さん、落ち着くコツとかある?」
『え? いや、特にはないけど。でも咲人、心配しなくても本当に危ない時は僕や乃愛がかけつけるから、その点はリラックスして行動出来るんじゃないかな。例えば魔力が暴走したとしてもどうにでもするしさ。僕も乃愛がいるからこそ何があっても大丈夫だって安心感はあるし』
父さんはさらっとそんなことを言った。その後、何かが倒れる音がする。……と思ったら、『急に抱き着かないで、乃愛』という声が聞こえてきたので母さんがとびかかったらしい。
『それで百パーセント安心しているっていうのが父様だよねぇ。最初に出会った頃からそんな感じだったのでしょ? 普通はそんな風にいきなり母様と出会ったら落ち着いていられないのが自然だもの』
『そんな父様だからこそ、母様は大好きなんでしょ?』
『うん!! 博人はね、出会ってすぐからこんな感じで、芯の部分がぶれないっていうか、そういう所も大好き』
華乃姉達の言葉を聞いて、母さんは楽しそうにそういう。
多分、ひっついたまま喋っているんだろうなぁと想像が出来る。
父さんと母さんを見ていると、こういう風にいつまでたっても仲が良いのはいいなぁと思う。
地球に居た頃もいつか誰か大切な人が出来て結婚するだろうかと考えていたけれど、この世界でそういう相手とで会えればいいなとは思う。
「そういえば母さん、今、俺『ノースシィーダ』に来てるんだけど」
俺は母さんに遺跡のことを聞いてみることにした。