闇の女神に纏わる遺跡 ⑤
難しすぎると、失敗ばかりしながら数日過ごしている間に――、
『咲人、聞こえる?』
母さんから声をかけられた。
「母さん、どうしたの?」
『二回目の家族会議を行おうかなーって。今、時間ある?』
「うん。大丈夫。あ、そうだ。母さん、家族会議にフォンセーラ呼ぶのはあり?」
『ん? 咲人、あの信者と恋人になった? 結婚する?』
「いや、そうじゃないけれど。一回ぐらい入れてもいいかなって」
『ふぅん。まぁ、いいけど。あの子は私の信者だけど、咲人がずっと一緒に居るわけじゃないでしょう? たまにならいいけど、それ以外は駄目よ。そういうのはちゃんと、線引きしておくのは大事』
母さん的には色々と思う所があるらしい。
でも確かにそういう部分は、ちゃんと線引きしておいた方がいいかもしれない。
俺はまだ十代で、人生経験も少ないから……ただ何も考えずに提案してしまうことも多いけれど、母さんの言葉を聞くと確かになと思った。
「うん。じゃあ、そうしておく。ありがとう、母さん」
『そういうのは気を付けておかないと、変なことに巻き込まれるかもしれないからね。咲人に何かあったら博人が悲しむんだから』
それにしても母さんは本当にぶれない。父さんが悲しまなければそのまま俺のことなんて放置しそうだ。そもそも母さん的には子供なんて放っておいて、少しぐらい何かあってもいいとかそう思ってそうだし。
『じゃあ、博人と華乃と志乃呼ぶね?』
母さんがそう言ったと同時に、三人の声が突然聞こえてきた。
『咲人、久しぶりね。元気だった? あと伯母様にもあったって聞いたよ』
『咲人、クラとフォンセーラちゃんと仲良くやっているの? 咲人の周りに女性が居るかと思うと、心配だわ。騙されたりはしてないよね? 私からも忠告したいわ。可愛い弟が大変な目に遭っていたら私は嫌だわ』
華乃姉と志乃姉は、俺のことを心配で仕方ないらしい。
こうやって心配してもらえると、俺の心は温かくなる。
「華乃姉、志乃姉、大丈夫だよ。伯母さんと挨拶が出来て良かったなとは思ったよ。あとフォンセーラは母さんの信者だから、俺に何か嫌な目には合わせたりしないかな。それに俺の意見も尊重してくれるし」
フォンセーラが俺の意思など関係なしに好き勝手にするタイプだったのならば、俺は一緒に居ようとは思わなかっただろう。フォンセーラはそういうタイプではなく、俺の意見を聞いてくれる。
『それは良かったわ。今度、家族会議に呼んでくれるんでしょ? 楽しみだわ』
『母様の信者って言っても、色々あるかもしれないから気をつけはするのよ? 今はよくても後から問題になる可能性もあるから、そのあたりはちゃんと気を付けておいてね。もし何かしら問題が起こりそうなら相談するのよ? 家族会議以外の時間帯でもいつでも相談に乗るから。ちゃんと声をかけてもらえたらすぐに返事するわ』
華乃姉と志乃姉のそんな声を聞きながら、俺は笑ってしまう。
「うん。ありがとう。華乃姉、志乃姉」
「大丈夫だよ。僕がちゃんと咲人のことは守るから!」
俺の膝の上に乗って、家族会議に参加しているクラが自信満々にそんなことを言っている。
『クラがいるなら確かに変な女性は近づいては来ない気がするわ。それでもクラには分からないような人同士の関係もあるでしょう? もしクラは咲人が困ってそうだけどどうしたらいいか分からないってなったら相談してね』
『クラは物理には強いかもしれないけれど、複雑なものは分からないでしょう? その時はちゃんと私達のことを呼んでもいいのよ。母様を呼びにくい時だってあるだろうけれど、私達ならもっとお手軽よ』
次々にそんなことを言う華乃姉と志乃姉。俺にとっては家族で、姉。だけどこの世界にとっては半神という特別な存在達。
でも困ったら呼ぼうとは思った。
……というか、母さんと父さん喋らなさすぎじゃね?
「なんで乃愛と博人は喋らないの?」
クラも同じことを思っていたらしく、そう告げる。
本当に何というか、不思議なほどに二人は喋らない。
『博人と二人でお喋りしたいなーって思ったから、みんなで盛り上がっているし、放っておこうなかなって』
『いや、乃愛。僕に言わずにミュート状態にするのやめようよ』
『ごめんね、博人。私は博人の声を独り占めしたかったから』
母さんの楽しそうな声が聞こえる。本当に母さんは父さんのことが好きでたまらないなぁと改めて思う。
「母さんは父さんと今、二人っきりでぶらぶらしているんだよね? いつまで続けるつもり?」
『しばらくだよ! 私は博人のことをもっと独占したいからね。知的生物の誰も居ないところで、博人と一緒にいちゃいちゃするの!!』
母さんはまだまだ人前に父さんを出す気がないらしい。相変わらず仲睦まじい様子には嬉しくなる。
「本当に二人とも相変わらずだよな。あと母さん別件なんだけれど、《アイテムボックス》的な魔法のコツとかって何かある?」
俺は気になっていたことを母さんへと問いかけた。