闇の女神に纏わる遺跡 ③
とりあえず一般的な遺跡に潜るための準備を済ませておく。
正直、ある程度の準備をしておけば問題ないとは思っているけれど……、だからといって油断をしない方がきっといい。あるべく母さんの助けは得ずに過ごしたいしなぁ。
この前、いきなり助けてはもらったけど……。
そういうわけでフォンセーラと確認をしながら、遺跡に潜るのに問題がない準備を整えたのである。ただいざ、遺跡へ入ろうとすると二人+一匹で入るのは危険だと言われた。
基本的に『ノースシィーダ』は少人数で入るものではないんだとか。皆、大人数で入るそうだ。
それは途中で怪我をする者が多いからというのもあるらしい。少人数で入り、誰かが怪我をした場合、見捨てなければならないようなことがあるからと。
……確かに、置いて行かなければならないって悲しいことだもんな。
「僕が居るから問題なし! 何かあれば乃愛を呼べばいいし」
「いやいや、クラ。流石に今回も母さんを呼んだら呼びすぎだから、なるべく俺達で解決な」
クラの言葉に思わずそう言った。
いや、まぁ、母さんは多分呼べば来る。他でもない父さんが俺の身に何かあったら悲しむからという理由だけで、何かあれば駆けつけてくれる。しかしホイホイ呼ぶと、母さんが不機嫌にはなりそうなのだ。それにこの世界でこれから生きていくと決めているのに、そんなに母さんを呼んでばかりだと情けなさ過ぎる。
というか、クラは母さんのことを神様だって知っても本当にマイペースというか母さんの扱いが軽い。
俺達は心配する者達を横目に遺跡の中へと足を踏み入れることにした。
さて、その遺跡、入った途端に罠が発動していた。こういう罠はランダムで発動するものらしいと事前情報で聞いている。
その罠はクラが軽い調子で対処していた。
やっぱりクラがいるだけで、命の危険がぐっと下がる。
人の姿はあまりない。この遺跡へと足を踏み入れる者がそもそも少ないからだろう。わざわざ得する事もほとんどない、危険な遺跡に足を踏み入れようとするものは少ない。よっぽど一攫千金を狙っているとか、この遺跡の謎を解き明かしたいと思っている人たちなら別だろうけれど。
「なんか、母さんの遺跡って感じはしないな」
「それはサクトが母親としてのノースティア様を知っているからだと思うわ。この遺跡はそもそも、ノースティア様があなたの父親に会う前に出来たものなのだから」
遺跡の中にいざ入ってみたわけだけど、母さんとあまり結びつかない。なんというか、俺の知っている母さんって父さんのことが全てで、遊び心があって、いつだって楽しそうにしている。
この遺跡って入った瞬間から冷たい空気が凄く漂っているというか。母さんは冷たいのだけど、冷たいだけではない。なんというか、この遺跡って母さんの一面だけしかあらわしていない感じがする。
「母さんの遺跡なぁ……。本当に全然母さんって感じしない」
「うん。乃愛っぽくない。でも乃愛への信仰心足りないと罰とか受けるって言ってたよね? 僕、乃愛に信仰心とかないけど」
「母さんが好きだって気持ちがあれば大丈夫じゃね? って思うけど」
クラの言葉に、確かにクラは母さんに信仰心があるわけではないよなとは思う。
そもそも俺も母さんへと信仰心があるというよりは、ただの家族として慕っているだしなぁ。それで罰とか受けたらびっくりだよな。そもそも罰ってどういうものなんだろう?
少しずつ遺跡の奥へと進んでいく。途中で魔物も見かける。普通に襲い掛かってきたので倒しておく。なんだか母さんが闇の女神だって言われているからか、なんかそれっぽい魔物が多い。
ちょっと危険そうなものだと、背景に紛れているような存在とか。影から出てくる魔物とかって気づけなかったたら最悪だ。
クラが真っ先に気づき、威嚇するから逃げていく魔物もそれなりにいる。クラってやっぱりこういう遺跡にいる存在からしても強大な力を持つ者と認識されるらしい。知能がある特別な魔物が居たりするか? まぁ、喋れる魔物だったら俺が母さんの息子だって知ったら手出ししてこないかもだけど。
いや、逆に母さんをどうにかすると意気込んでいる魔物もいるかもしれないけれど。
「なんか謎解きっぽいのもある?」
「そうね。ノースティア様は、信者に新たな知識を授けたりもすると言われているから」
「へぇー」
母さんって女神として色んな一面があるんだなとこうして進んでみると思う。
初めての遺跡探索なので、初日から深入りをする気はないのである程度進んだら戻るつもりだ。今日は様子見の日なのである。
そういうわけでしばらく進んで、クラに時間を確認してもらってから戻ることにした。
遺跡内は時間間隔が狂うけれど、クラがいるとそういうのもきっちり確認出来て便利である。結構こういう場所で時間間隔が分からずに深入りする人もいるらしいのだ。そういう点を考えると俺はフォンセーラとクラと一緒に遺跡に入ることが出来て恵まれているなと思った。