闇の女神に纏わる遺跡 ①
6/29 二話目
闇の女神、ノースティア。
この世界にとって有名な神の一柱。それこそ誰もが良い意味でも、悪い意味でも知っている存在。
神と呼ばれる存在は、その良し悪しはともかくとして人知を超えた力を持つという一点だけをもってしても、周りから信仰を集めるものである。
……そんな、この世界にとって特別な女神が俺の母さん。
頭では理解していても、本当に母さんって凄いんだなとこういう遺跡などを目にするとより一層実感する。
俺からしてみれば、ただただ母さんは父さんを愛してやまない一人の女性っていう認識の方が勝る。それは母さんの凄さを実感しても変わらない。俺にとっての母さんの名を聞いて一番に思い浮かぶことは、父さんをどれだけ愛しているかとかそのあたりばかりだ。
その母さんの遺跡の近くに大きな街がある。その街は母さんに纏わる遺跡に挑もうとする者達がよく訪れる場所のようだ。……まだまだ解明されたことのない母さんに関連する遺跡。あまたの謎を解き明かそうとすることを目的としている研究者や、怖いもの知らずで興味本位で足を踏み入れるような冒険者、はたまた光の女神イミテア――伯母さんのことを信仰しているからこそ闇の女神ノースティア――母さんの弱みでも探ろうとしている聖職者など……、様々な者たちがその場に集っている。
……伯母さんって母さんのことを大切にしてそうだから、伯母さんを信仰している連中がそういうことを起こしていることには何だかなぁって思うけど。
というか、そういえば異世界に来て色々あったのもあって伯母さんの信者達に殺されかけたこととか伯母さんに言うの忘れてた。母さんがさらっと助けてくれて、頭から抜けていたのもあるけど。
伯母さんも多分、俺に何かあれば怒りそうなんだよなぁ。普通に初めての甥だからって俺によくしてくれようとはしていたみたいだから。
伯母さんの意思って、結構人々に伝わってない感じなのかな。それとも母さんがあまりにも自由人すぎるからどうしようもないのかな。あとは信者の数が多ければ多いほど、制御が効かなくなるとかはありそう。
「サクト、まずは宿をとりましょう」
「うん。そうしようか。どういう宿がいいかなぁ」
「そうね……、私はやっぱりノースティア様に関連する場所がいいわ」
「そんな宿あるの?」
「あると思うわ。だってここはノースティア様の遺跡に近い場所だもの」
「難攻不落の遺跡、『ノースシィーダ』か……。遺跡があるからこそ、栄えているっていうのもありそうだもんな」
「ええ。そうよ。だからこそこの街ではノースティア様への信仰心……とはいえなくても特別に思っている人ばかりなのでしょうね」
そう言いながらフォンセーラはどことなく嬉しそうである。
伯母さんの信者たちが勢力を利かせているような場所とはまた違う。母さんに纏わる『ノースシィーダ』の遺跡があるからこそ、この場所にはこれだけ人が集まっている。
どんな神であれ、この世界にとって神というものはきっと絶対的で……。
闇の女神だとか、邪神だとか、それはもう恐ろしい呼び名をされ、まるで人類の敵であるかのように言われている母さん。だけどそんな母さんもこの世界にとっては特別な神なのだろうと分かる。
俺は気づいていなかったけれど、確かによく見てみればこの街には母さんを思わせるような装飾とか、そういう名前をもじったお店だとかが見られる。
もしかしたら街を歩く人たちの中には、フォンセーラと同じような母さんの信者もそれなりにいるだろう。
……なんか聞いた話では、遺跡の中に危険を顧みず入ることで母さんへの信仰を示すなどと言っている人たちもいるようである。母さんは絶対にそんな信仰心どうでもいいと思っている……。父さんが同じことをしたら感激でもするだろうけれど、他人からの信仰は気にしていないだろうし。
危険なことをしようがしまいが、母さんにとってはただの信者という認識しかきっとないだろう。
「あの宿とか、いいかも」
しばらく街中を歩いていて目についたのは、黒い壁で覆われた一つの宿。なんだか存在感がある。宿の名前も闇をあらわす単語のようで、母さんのことを連想してこういう宿が作られているのだろうなと思うと楽しい気持ちになった。
宿の中に入って、泊る手続きをすませる。宿泊料金は、一般的な値段で高価でも安価でもなくって感じだった。
共有スペースには様々な本が置いてある。母さんの本も当然置いてあるが、伯母さんなどの他の本も置いてあった。
母さんと伯母さんの本が一緒に置かれているのも珍しい。
ちなみに宿の店主はダークエルフと呼ばれる種族だった。
過去には迫害されて大変だったりしたらしいが、今はたまに街で見かける程度の種族らしい。基本的には他種族と関わらないんだとか。そういう話はフォンセーラが教えてくれた。
あとはダークエルフの歴史の中には母さんが関わっているんだとか……。絶対、気まぐれで関わったのだろうけれど。