遺跡へ向かう道中 ⑤
「クラネット、私にもいつか撫でさせてくださいね」
伯母さんは何度も何度もクラを撫でようとして拒否されて、諦めてそう言って笑っている。
それにしても相手が女神様だろうとも、いつも通りなクラに思わず笑ってしまう。
「仲良くなったら考える!」
「ええ。そうしてください。ところで咲人はしばらく神界に来る気はないと華乃と志乃に聞きましたが、まだ下界で遊ぶつもりですか?」
「そうですね……。俺にとって初めての異世界なので、見て回りたいなと思ってます。神界に行くとしたら大分後ですね」
俺がそう言ったら、伯母さんはおかしそうに笑っている。
「貴方は神の血を引いているからこそ、神界という場所を訪れる名誉が与えられています。この世界の誰もが私に会いたがり、願いを口にする者です。それに私に望めばすぐに神界に行くことが出来るのですよ。それなのにそれを望まないのが……本当に変わってます」
「だってやりたいことは他人任せにせずに自分の力でやるべきだと、そう父さんにも言われてますからね」
思えば父さんは昔から、そういう言葉をよく口にしていた気がする。
それは母さんが力を持つ神であるというのを父さんが知っていたからと言えるのかもしれない。
父さんは俺と同じ年頃の時に、母さんのような特別な女性に好かれて、自分の力を好き勝手してもいいとそう言われているのにも関わらずその力を一切に使わずに過ごしてきた人なんだもんな。
そういう教育がされているからというのも、俺がこうやって異世界に来ても落ち着いているのだろうなと思う。
まぁ、母さんが俺が異世界で落ち着くように何かしらのことをしているからというのはあるだろうけれど。
「そうですか。他に何か私に望みはありませんか? 私の初めての甥なので、願いがあるのならば叶えてあげてもいいですよ」
そう口にする伯母さんは、おそらく俺に何かしらの願いを口にしてほしいのだろうなとは思った。
とはいえ、特に何か頼みたいことなどない。
「ないですね」
「……本当に? 何一つ?」
「思い付きはしないです。思いついたら何か頼むかもしれませんが……急に言われても願いなんてないですね」
正直、こんな風に誰かからなんでもいいから願いを言えなどと言われても、そんなものはすぐには思いつかない。
なのでひとまずそれだけを口にする。
「そうですか……」
「はい。何かあったらいいますね」
ただ考えてみると俺は困った際には伯母さんよりも、母さんに助けを求めるだろう。何か頼みごとがあった際もそうである。
だから正直言って、伯母さんに何か頼むことはあまりない。
「ええ。何かあったら言いなさい」
笑みを浮かべてそう言っている伯母さんは、甥に頼られたいのだろうなと思った。
華乃姉と志乃姉も伯母さんに頼ることはあんまりない気がする。二人とも誰かにあんまり頼るタイプじゃないしなぁ。
……期待している目を見られても、きっと頼ったりはほぼしないんだろう。
「ノースティアにも何かあったら言うように言っているのに、全然何も言ってくれないのですよね」
「母さんは父さん以外には何も言わないタイプですからね」
母さんは聞けば割となんでも教えてくれる。自分の言動に嘘を吐かないタイプではあるから。
ただ聞かなければ何も教えてくれない。母さんは叔母さんのことを嫌ってはいないだろうけれど、だからといって何かを話すことはしないだろう。
「……伯母さん、父さんに会った時は父さんに興味を持った様子は見せない方がいいです」
思考していて、思わず思った言葉を俺は口にする。
「なぜですか?」
「母さんは独占欲が強い人です。だから、もし伯母さんが父さんに興味を持ったら嫌がると思いますよ」
「そうなのですか?」
「はい。なんか異世界に戻ってきてから、母さんはそういうのを隠そうとしなくなったので……」
まだ地球に居た頃の母さんは平凡を装っていたと思う。でもなんというか、異世界で本性を現すようになってからはすっかりそういうのを隠さなくなった気がする。
「なるほど。……ノースティアがそれだけ誰かを特別に思うなど、興味深いですね」
「伯母さん、あまりにも父さんに関心を向けるとさらに記憶を改変されたりすると思いますよ」
「……それは嫌ですね。紹介された際には気をつけましょう」
伯母さんは嫌そうな顔をしながらいう。
それからしばらく話した後に、伯母さんは「じゃあそろそろ戻ります。神界にやってきた際はよろしくお願いします」と言って去って行った。
そうして伯母さんが居なくなった後、通常の空間へと俺達は戻る。
フォンセーラは俺が空間に招待されるまでの間、時でも止まっていたようだ。
伯母さんと話す前と同じ態勢だった。
俺が伯母さんと話したことを言えば、フォンセーラは驚いた顔をしていた。そして俺が光の女神イミテア様を伯母さん呼びしていることにさらに驚愕していた。