使い魔のお店と、旅立ちと ④
「おおおっ」
大型の使い魔を預けられる施設に辿り着いて、俺は興奮して声をあげてしまう。
だってなんというか、凄く見た目がかっこいい。
もふもふなものもいれば、堅そうなものもいる。
なんというか、異世界だなと興奮する。というか、これだけ大きな使い魔ってなんだかすごいなと思うし。
『僕のが、凄いよ? それに僕も大きくなれるよ?』
大型の使い魔を褒めまくっていたら肩の上のクラが拗ねている。クラの頭を俺は撫でまわして、「クラが一番だよ」とも言っておいた。
クラはなんというか、飼い主に対する独占欲は強い方なのだと思う。地球にいた頃も、近所で飼われている犬に構っていたら嫌がっていたしなぁ。
それにしても大型の使い魔にはいろんな種類がいるわけだが……、その巨大な体の彼らもクラのことをなんとなく感じ取っているようだった。
「あれ、どうしたのかしら? いつもより大人しいわね」
「普段だったらもっと威嚇したりもされるのに……」
通常時だと普通に威嚇などもしてくるらしい。……まぁ、気性が荒らそうな見た目の魔物ばかりが居るように見えるからな。
狼のような巨大な魔物に関しては、牙も鋭く、噛まれたら大変なことになるんだろうなというのが分かる。
馬の姿の魔物……角が生えてたりする。この魔物は目つきが悪くて、対峙することになったら一瞬怯むかもしれない。ああ、でも俺が視線を向けていたら視線をそらされたので、そこまで攻撃的な魔物ではないのかも。
それにしても今、目の前にいる魔物たちは使い魔として人と交友を持っている存在なわけだけど……、野生で見かけて襲ってきたら危なそうな魔物ばかりである。
この施設に預けられるぐらいの魔物だとまだ騒ぎにはならないけれど、もっと巨大で危険な魔物を使い魔にしている人とかは色々大変そうだなと思う。クラのように自身の体のサイズを変更できるならともかく……基本はそういうことが出来ない魔物の方が多そうだからなぁ。
それこそファンタジーの代名詞ともいえるドラゴンなどを使い魔にしているとかだとどうな感じなのだろうか? やっぱり使い魔が大きければ大きいほど、餌代とかかかるのかな。
ドラゴンもいつかみたいな。撫でたり、乗ったり出来ると良いかもしれない。ああ、でもそういうことをしてしまうとクラが拗ねそうな気がするなぁ。
母さんの神獣だし、ドラゴンよりもやっぱりクラは強いのだろうか?
黒猫がドラゴンを圧勝する姿……うん、それはそれで見るのが楽しそうな光景だと思う。
じーっとクラに視線を向ければ、「何?」とでもいう風に頬にすりすりされる。やっぱりうちのクラが一番可愛いなどと親バカなことを考えてしまう。
「そういえばドラゴンとかを使い魔にしている人もいるんですか?」
興味本位で聞いてみる。そうしたら一緒にこの場に来た常連の女性は笑いながら答えてくれる。
「個人でとなると中々いないはずよ。国が事業として竜を育て、竜騎士隊に回していたりはするはずだけど」
この世界、竜騎士というかっこいい職業がいるらしい。個人でドラゴンを飼うとなると本当に大変そうなのが想像できる。
そもそも希少な使い魔を持っていたら、それだけで狙ってくる悪人もいるだろうし。
でもそういうのを悪人たちを全員押しのけて、ドラゴンを連れて旅をしているような所謂漫画の主人公っぽい人も実在したりするのだろうか? そういう人もいたら会ってみたいなぁ。
そんなことを考えているだけで何だか楽しかった。
それから俺はしばらくお店の常連客と使い魔についての話をし続けた。全員が使い魔を好ましく思っているというのもあり、話が尽きなかった。
楽しくて仕方がなかった。こうやって使い魔についてのことを沢山知れたのも良かった。
そうやって楽しく会話を交わしているとあっという間に時間が過ぎていき、日も暮れてきたので宿へと戻った。
フォンセーラの泊っている部屋をノックしたけれど、まだ出かけているようだった。
そういうわけで自分の泊っている部屋へと戻る。
「咲人、僕の方がずっとあそこにいた使い魔よりすごいからね!」
「うんうん。知っているよ」
「本当に分かってる? 乃愛が僕に力くれたんだから、僕は誰にも負けないよ」
なんだかんだクラは母さんのことが好きだよなぁと思う。自分が認めている家族から力をもらっているからこそ、誰にも負けたくないと思っているのだろう。
「クラは神獣だから本当に滅多なことでは誰かに負けることはないと思うけれど……、もし自分では勝てない相手と遭遇したら命を大事にな」
「んー。勝てない相手って」
「神様とか、特別な魔物とか」
「遭遇した時に考える!」
……心配して告げた言葉にはそう答えられる。とりあえず、出来ればそういう危険な物とは敵対したくないなと思う。
本当に何かのきっかけで、俺やクラではどうにでも出来ない存在と対峙したら、迷わず母さんを呼ぼうとそう思うのだった。