街で過ごしながら、魔物を倒す ⑤
頭ではそういう人の命が奪われるような危機的状況がこの世界ではよくある話だと理解していても、実際に遭遇してみるとまた違う。
街は徐々に殺伐とする。
その恐ろしい魔物の討伐隊が編成されたらしいが、その討伐は上手くいかなかったらしい。
正体不明の、強力な魔物。
その存在が一体現れただけで、こうも街は変わってしまうのだ。
今の所、その魔物がどういうものなのかさっぱり分からないらしい。その魔物の被害者の家族が騎士たちを責めている様子が映る。
責めたところでどうしようもないことだけど、きっとやるせない思いでそうやって誰かを責めるしか自分の心を保てないのだろうと思う。
俺はそういう大切な人を失うという状況には、今の所陥ったことがない。例えば父さんや母さんが死んだら――いや、ありえないな。うん、いや、ありえない話なのだけどそれでもそういうことが起きたら俺はとてつもない喪失感を感じると思う。
すぐに対応がなされて、倒されるだろうとそう思っていた。
でも俺が想像しているよりもずっとその魔物は厄介らしい。あの魔物が現れたせいで、街の外には出れないし、犠牲者が増えている。
「……フォンセーラ、俺たちならその魔物、倒せる?」
このまま放っておいても益々悲しい思いをする人が増えるだけ。俺としても外に出れない状況は困る。それにこういう風に街の雰囲気が悪くなっていくのも嫌だと思っている。
「なんでそんなに不安そうなのよ。サクトとクラがいて倒せない魔物は数えられるぐらいしかいないはずよ」
「そうなの?」
「ええ。ノースティア様の息子であるサクトと、その神獣であるクラに倒せない存在なんてほとんどいないわよ。サクトが倒したいなら魔物を倒しに行く?」
「フォンセーラは倒さない方がいいと思っているの?」
「いえ。私は今の所、必要がないから倒してないだけだわ。冒険者ギルド経由で私に依頼が来ているわけでもないもの。でもサクトが倒すことを望むなら行きましょう」
フォンセーラは周りに対してそんなに関心がない。思いやりがないとかそういうわけではなくて、ただフォンセーラは必要がないことはしない。そういう性格なのだと思う。
この街を騒がしている魔物に関しても正義感に駆られて倒すなんてことはしなくて、はっきりしている。フォンセーラは何か重要な決断をどこかの場で求められたとしても――きっと一切悩まないのだろうなと思う。
「俺が倒したって分からないように出来るかな?」
「出来ると思うけれど……。サクトは自分が討伐したって言いたくないのね」
「だってそれで報酬とかもらえるとしてもさ、面倒なことになる割合の方が高いだろう? 俺はこの世界でどういう生き方をしていこうとかまだ全然決めてないしさ。目立って母さんの息子だって知られても面倒だし、冒険者ギルドに所属するようにとか言われても困るし」
これからどうやってこの世界で生きていくか。
何をしたいのか。
俺はまだまだそれを決め切れていない。やりたいことは色々あるけれど、こういう職業につきたいとかそういう目標は見えてこないしなぁ。
地球で読んだ漫画とかでも戦いの結果を出すと冒険者ギルドとか、貴族とか、色んな人から目をつけられたりしていたし……。そういうのはない方がいい。
「なら、気づかれないように街の外に出て討伐しましょう」
「うん。そうする。フォンセーラも来る?」
「私も行くわ。ただ……私では手に負えなかったら私は逃げるわ」
フォンセーラはついてきてくれるらしいけれど、そうも言っていた。
……俺のことは死んでも母さんがよみがえらせるとか言っていたけれど、母さんはフォンセーラが死んでもそういう風に力を使うかどうか分からないしな。母さんは父さんが望んでいるかどうかしか考えてないし。
「クラも、魔物討伐一緒にやってくれる?」
「うん。僕も行く。僕も乃愛がくれた力の確認するの!」
俺はどれだけその魔物が強いのだろうかとかそういうことを考えて心配しているけれど、クラはあっけからんとしている。母さんから力を与えられて、母さんの神獣で、うん、自信満々というか自分が負けるなんて欠片も思ってないのだろう。実際にそういう風に負けることはないだろう。
例えば母さん以外の他の神様とか、クラと同格の神獣とかだと別かもしれないけれど。
あ、でもこういう異世界だと神様とか神獣に届くぐらいの凄い人が現れたりとかするんだろうか? それはそれで凄まじいよなぁ。そういう人が居たら俺も凄く興味を持ちそうだ。だって俺は母さんの息子だからこそ魔力が多くてうまく使えているけれど、そういう人って自分の産まれながらの才能でそうだってことだろうし。
そんなどうでもいいことを俺は思考する。
「サクト、ぼーっとしているけれどどうしたの?」
「なんでもない。それより、早めに倒した方がいいだろうから行こう」
ゆっくりと討伐をするなんてしない方がいい。倒すと決めたならさっさと倒した方が犠牲者は少なく収まるのだから。