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母さんを信仰するということ ⑤

 フォンセーラさんも、俺達を追い詰めていた男たちも俺の突然の行動に驚いた様子を見せた。

 男たちは俺の行動を馬鹿にしたように笑って、口を開こうとする。でもそれは出来なかった。



 なぜなら、その場を闇が支配したから。

 急に世界が暗闇に包まれた。昼間だったはずなのに、その場は真っ暗で、明らかに異常な状態だ。




「咲人」


 そして、気づけばそれはそこにいる。

 ――母さんが、その場に佇む。どこか、不機嫌そう……ってちょっと怒ってる? 俺はそれを実感して青ざめる。




「か、母さん、ごめん!! 機嫌が悪いところ、本当にごめん!! ちょっと助けて欲しいんだ。フォンセーラさんがこのままだと――ってあれ?」



 俺は周りを見渡して驚く。闇の中にいるフォンセーラさんや男たちは身動き一つとれていない。寧ろ母さんがここに出現したことを知覚出来ていないようなそんな状態のように見えた。




「時間止めてるから、急ぐ必要はないよ。咲人のことは敢えて動かしているけど。それで? 私が博人の新しい身体の調整で忙しいのを知っていて呼び出したの? どういう用件? ピンチってどこが? 私が博人と一緒に二人きりで誰にも邪魔されずに独占して、楽しく過ごそうとしていたのに。今はね、こっちにいるときの博人の身体をどういう風にしようかっていうのを博人と仲良く相談していたの。見た目は今の博人のままにして、丈夫にはしようとは思ってて。だって私の博人が誰かに傷つけられるなんて許せないもんね。それで忙しいのに、私を呼ぶぐらいのこと?」

「母さん、本当にごめん! 父さんと過ごす時間の邪魔をして、本当ごめんって思ってる! ええっと、母さんの信者の女の子が母さんのお姉さんの過激な信仰集団に追われてて、俺はお世話になっているし母さんの信者だっていう子を放っておけなくて! 助けてほしい!」

「ふぅん。そっかぁ。お姉ちゃんの過激な信仰者たちかぁ。ちょっと待ってて」



 母さんはそう言ったかと思うと、無言のままだ。多分何かしているのだろうけれど、俺からしてみれば何をしているのかさっぱり分からない。



 少しして母さんは俺の方を向いていった。




「追手は全員排除するね? 博人にね、一応確認したの。博人に嫌われたら私、悲しいもん。でもね、博人に聞いたら私の好きなようにしていいって言ってくれたの。この異世界の常識は私の方が詳しいだろうからって。ふふっ、本当に博人は博人だよね。ねぇ、咲人。博人ってね、私に対して『郷に入れば郷に従え』って言葉があるっていって普通の生活させてたんだよね。こっちに来たから今度は博人がそうしてくれるんだって。でもあんまり私が悪く言われるのは博人にとって悲しいみたいだから、そのあたりは考えるけど」



 ……母さんは本当に、父さんのことしか考えてないなぁ。

 母さんの信者であるフォンセーラさんのことも本当に心の底からどうでもよさそうなのが母さんらし過ぎる。


 父さんのことだけが第一で、俺たち子供を可愛がっているのも父さんとの子供だからでしかなくて……。ぶれなさ過ぎる。






「じゃあ、すぐ対応するね?」



 愛らしく微笑んだ母さんがそう言ったと同時に、追っていた男たちが息絶えた。

 ……躊躇いもせずに、いとも簡単にそれをやってのける母さん。多分、殺した方が手っ取り早いと思ったからの行動なのだろうけれど、本当に神様なんだなって思う。


 俺はその様子を目撃していて、怖くなって顔がますます青ざめた。



「咲人、この世界で一人旅するならもう少し誰かが死ぬこととか慣れた方がいいよ? 咲人の心が壊れちゃったら博人が悲しむから」

「……うん。これからこの世界にちゃんと慣れてくよ。ありがとう。母さん。凄く助かった。俺一人だったらフォンセーラさんがあいつらに捕まっちゃってたから」



 母さんは俺の言葉に動かないままのフォンセーラさんに視線を向ける。





「咲人、これが好きなの? 結婚したいの?」

「なんで、話がそうやって飛ぶんだ……。そういうのじゃなくて、お世話になったから死んでほしくなかっただけだって」

「ふぅん」


 母さんは父さん以外はどうでもいいという極端な性格だから、俺がわざわざ助けるのもそういう理由ではないかと思い込んだらしい。




「まぁ、いいや。結婚する子出来たら紹介して。博人は挨拶したいと思っているだろうから。あと念のため違う場所に咲人とこの子、移動させとくね」

「ありがとう、母さん」

「咲人はこの子としばらく一緒?」

「え、それはどうだろ? 分からないけれど……」


 母さんの言葉に俺は答える。


 フォンセーラさんを助けたいと思ったのは心からの気持ちだけれど、その後一緒にいるかはフォンセーラさん次第なので分からない。




「ふぅん。咲人がお世話になったっぽいから、神託は入れとく。咲人のこと理解している子、一人ぐらいいた方が動きやすいと思うから」

「え」

「じゃあ、送るから、頑張って。私は博人の所に戻るから」




 母さんは言いたいことだけ告げると、そのまま俺とフォンセーラさんに何かをする。

 それと同時に――俺たちは転移させられた。





 その場所は、湖が傍にある森の中だった。

 




 


 

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