闇の女神の信者達の村についての話 ③
「ノスタよ、無事でよかった!!」
「それにしても見た目が変わっていないのはどういうことだ?」
「もしかしたら戻れないかもしれないと言っていたから心配していたの」
村へとたどり着くと、ノスタが村人たちに囲まれていた。
この村、中々異質だ。なんというか、黒い物が多い。建物も装飾品も真っ黒だったりする。
……母さんが闇の女神って言われているからか?
今まで見た異世界の村は、もっと明るい壁色のものばかりだった。黒になると一気に不思議な世界にお座周れたようなそんな感覚になっている。
何もかも真っ黒で、母さんの像らしきものがあったりする。それらが至るところにある。
……あとなんかやたらと特定の果物が供えられているけれどなんでだ? 母さんが好きな果物と勘違いされているとか? なんか黒などのイメージのものしかないけれど、母さんって、闇の女神なんて言われいてもあんまりそれ、似合わない気がすると改めて考えると思う。
地球に居た頃の母さんは、父さんの傍でいつも幸せそうに微笑んでいた。無邪気な様子を見せていて、少し嫉妬深いけれど良い奥さんだった。あれは父さんが母さんに地球での暮らしに紛れ込むことを求めていたからこその姿なのだろうけれど、地球での母さんも母さんの一面でしかない。
この世界にやってきて見た初めての母さんの本来の姿。真っ白な髪に、赤い瞳。何か悪魔にも、天使にも見える――人間という枠組みから明確にはみ出た存在。人ならざる者。
母さんって闇の女神って言われていても闇属性だけを使うわけじゃない。伯母さんみたいに光とかも仕えるだろう。俺は母さんの魔法をちゃんと見たことはないが、母さんはきっと何でも出来るはず。
そう考えると、闇の女神って母さんのことをよく知らない人たちの言っている言葉なんだよな。邪神とかもそう。
母さんを示す言葉に、それは真っ先に思い浮かばない。
俺が父さんと一緒にいる母さんを知っているからかもだけど。
父さんも……同じことを思ってそうだな。
地球に居た頃、母さんは明るい色の衣服などを好んで着ていた。父さんに向かって「似合う?」とよく聞いて、にこにこしていた。
……そういえば、父さんの身に着けるものって全部母さんの手作りだった。俺達子供の服も気まぐれに作ったりはしていたけれど、よく考えれば父さんのものは全部そう。
父さんが着るものも食べるものも――全てが母さんが一から手を入れたものだった。外食などもほとんどしなかった。父さんがどうしてもといった時は外食が決行されていたけれど、お出かけする時も母さんが作ったお弁当だったし。
母さんって本当に、ありえないぐらいに独占欲が強すぎる。父さんのことを大好きすぎるが故にそうなのだ。
……闇の女神とか邪神とかより、ヤンデレ神みたいなそんな感じの方が母さんっぽい。それか父さん狂いみたいな感じとか。うん、邪神ってなんかすごく野心に溢れた神様のように見えて、なんだか違うよなと思ってしまった。
というか、伯母さんと対立しているみたいな構図をこの世界の人達は作りたいのだろうか。それともそういう思い込みか?
「君達もノースティア様の信者なのだろう? 若いながらに見る目がある。ノースティア様は素晴らしい神様なのだ」
「……そうですね」
にこにこしながら笑いかけられ、とりあえず頷いておく。
母さんの信者よりも、伯母さんの信者の方がずっとこの世界には多い。伯母さんがそれだけこの世界の人々に寄り添っていきてきた証だろう。
母さんの信者達しかいない村だからか、俺達にも最初から好意的だ。簡単によそ者を受け入れてしまって大丈夫なのだろうかと少しだけ心配になった。
ただノスタが連れてきた人間だからこそ信頼しているというのもあるのかもしれない。
それから俺達は、ノスタが前回貸してもらったという空き家を使わせてもらうことになった。良い家である。ただし内装も全て黒くて、変な気分になった。
俺はこんな部屋に居ても問題はないけれど、人によってはこんな真っ黒な部屋にいると具合が悪くなったりするかもしれない。
目の前一杯に広がる黒色。そこに黒猫のクラがまざると、一瞬何処にいるか分からないような感覚になる。馴染みすぎている。
ここの人達にとって黒色は神聖なものみたいな認識らしく、クラのことも「ノースティア様にぴったりだ」などと口にしていた。……実際に母さんのペットで神獣であるって知ったらどれだけ騒ぐんだろうか?
まさか俺が母さんの息子で、クラが母さんの神獣だとは誰一人思っていないっぽいけれど。
「僕は預けていたものをとってくる」
ノスタはそう言って、一旦部屋から出て行った。この村に来てから一切動揺した様子はないので、以前訪れた時もこんな部屋だったのだろう。
ここの人達っていつから母さんのことを信仰しているのだろうか。ずっと昔から、母さんが黒色が好きだと勘違いでもしている? 実際に母さんの声を聞いたことがある人なんて全然いないのかもなと思った。




