闇の女神の信者達の村についての話 ②
母さんはこの世界にとって、良き神であるかといえば人による。闇の女神だとか、邪神だとか、そんな風にひたすら言われているしなぁ。
そんな母さんの信者であるというだけで、面倒な連中が近づいてきたりもするものだ。
だからこそ、隠れ里というものがあるんだろう。……こういう異世界だと、人が近づいてこないような技術でもあるんだろうなと勝手に考えている。
「ノスタが訪れたことがある場所というと……随分昔に行ったことがある場所か。年を取っていないことに対して何か言われたりしないのか?」
ノスタはあのはた迷惑な神様の影響で、周りの時空をいじられていた。本人は数か月のつもりだったのに、長い時間が経っていたのだ。人間であるノスタの外見が一切変わらないというのは周りからしてみると驚くことではないか?
正直そう思ってしまう。普通ならそれだけの時間が経っても見た目に変化がないなんてありえないわけだし。
「別に問題はない。神の問題に巻き込まれたといえば、それだけでどうにでもなるはずだから」
「あー、それもそうなのか」
いまだに地球での常識に引きずられてしまいそうなことがよくある。この世界で生きて行くことを決めたのだから、ちゃんとこっちの常識に合わせなきゃって思っているのにな。
ただなんか神様に関連していることだからといえば全て許されてしまいそうなのはある意味問題だとは思う。なんか神の名を悪用する人とか当たり前にいそうなイメージ。
「……母さんの信者達が集まっている村は気になるけれど、俺が息子だって知られたら面倒だよな」
「伝えたら凄い歓待を受けるだろう」
「……それは嫌なんだけれど」
母さんの信者達が集まる村に、息子として興味がないわけじゃない。ただ俺が母さんの息子だって知られたら明らかに面倒なことになる未来しか見えなかった。
信仰対象の親族って、おそらく信者達にとっては凄く特別な存在のはすだから。というか母さんの信者達って全員が全員、母さん至上主義みたいな感じなのか? フォンセーラやノスタは俺の意思を無視して何かを起こそうとかはしていないけれど、その連中がどういう思考をしているか分からないわけだし。
「ノスタはそんなにもその村に行きたいの? 理由があるの? あるならちゃんと言わないと僕達には分からないよ」
俺とノスタの会話にクラが割り込んでくる。じっと、ノスタを見るクラ。
……確かにこんな話題を出してくる時点で、何かしらその村に行く理由があるんだろうな。
「……すまない。ちゃんというべきだったか。その村に預けているものがあるんだ。僕にとっては大事なものだ。あの神に目をつけられ、僕は逃げ切れるかも分からなかった。実際に僕は十年物時間を無駄にしてしまったわけだ」
体感時間はともかくとして、十年物間の時間を消費してしまったのは事実だ。
自分がこのまま大切な物を守れないかもしれないと思ったからこそ、預けたのだろうか。俺はそんな状況下に陥ったことは一切ない。だからノスタがどういう覚悟でその村に荷物を預けた気持ちは分からない。
ただこうして取り戻しに行こうとするのならば、よっぽど大切なものなのかも。
「なるほど。ノースティア様に関わるものかしら? もう二度と手に入らないような思い出のもの?」
「……そうだな。僕にとって大事なものだ。それを取りに行きたい。僕だけ行ってもいいけれど……それだと置いていかれそうだから」
フォンセーラの言葉に、ノスタはそんなことを言った。
あー、うん、確かにこのまま別行動するなら置いていく形になるかもしれない。あくまでノスタがついていきたいというから、一緒にいるだけだしな。
こういう異世界だと、一度離れたらそのまま二度と会えないというのもよくありそうだな。
一度訪れた場所ならば、昔話で盛り上がることもあるだろうし。それに仮に待ち合わせをしたとしても、不測の事態があって戻ってこれないこともあるかも。
……俺が母さんのようにいつでも誰かに連絡を取れるような力があったら別だけれども、俺は今のところそういうことは出来ないし。
「咲人、どうする? 行く? 乃愛を信仰しているって人たちに会うのは面白そうだなとは思うけれど」
「うーん、どうしようか」
クラの言葉に俺はそう答える。
いや、だって正直興味半々、面倒くささ半々ぐらいな感じ。ただあくまで母さんの信者達に対しては、俺はイメージでしか知らない。フォンセーラやノスタ以外とは深く関わったりなんてしていないわけだし。
「……ど、どうしても無理なら諦めよう。しかし出来ればとりにいきたい」
――そもそもノスタがこれだけのことを口にするのならば、本当に大切なものなのだろう。
それが分かったから、結局俺はその村へと向かうことを受け入れた。
どうやら正当な手続きでしかその村にはたどり着けないようになっているらしい。ノスタがてきぱきと道案内をしてくれる。
――そして俺達は母さんを信仰する村へとたどり着くのだった。




