砂漠を抜けた後のこと ④
「そろそろ休憩するか」
しばらく魔法の練習をして、少し休憩をすることにした。
幾らい俺の魔力量が膨大だったとしても、無理に魔法の練習をし続けるのは得策ではない。それで倒れてしまっても困るしな。
クラはその間、ずっと俺の膝の上に乗ったままだった。微動だにせずくつろいでいたクラは可愛かった。魔法の練習しながら時折、その触り心地の良いふかふかの毛を撫でて、気持ちよかった。
「これから何をするの?」
「だらだらする」
俺がそう答えるとクラは楽しそうな様子を浮かべている。
……クラって、神獣になっても相変わらずいつも通りなんだよなぁ。喋れるようになって、こうして一緒に旅をするようになって。
そうなったとしてもクラが一切変わらないから、俺はほっとする。
俺が異世界でこんなにも落ち着いているのは、母さんが何かしているからというのも大きい。俺が生きやすいように配慮はしてくれている。
俺が母さんの息子……父さんとの間の子供でなかったら、母さんはきっとどうなっても構わないという感じで俺のことを放っておいただろうな。母さんはそういう性格をしているのだから。
ただクラがもっと横暴になったり、これまでと違う態度をひたすら見せつけてきたら俺はどう思っただろうか? こんなにも落ち着けなかったかも。
ペットの躾をしなければならなくなるところだった。そうならなくてよかったなとは思っている。
母さんもクラが変に自分への態度を変えたりしたら、もっと冷めた目を向けただろうな。あくまでクラはクラのままというか、母さんが神様だと知ったところでいつも通りというか全く態度が変わらなさすぎるんだよな。
床へと寝転がる。
基本的にこの世界は、日本と違って靴のまま過ごす。だけど流石に布団を引くエリアは靴を脱ぐようになっているのだ。
というかこういうちょっと日本に似ている部分って、『勇者』とかの影響があるのかもしれない。地球での文化、少なからずこの世界に影響しているしなぁ。伯母さんも異世界の文化の影響に興味あるっぽいし。
「ふぅ……」
息を大きくはいて、天井を見上げている。
この世界って、危険な魔物も沢山いる。それに簡単にこの部屋へと入り込む小さな魔獣などもいるしなぁ。虫型のやつとか。
刺されたらそのまま死んでしまう奴とかあるそうだ。うん、本当に恐ろしい。俺としては本当にこの世界って危険だなってそんな気持ちになる。
「咲人、疲れた?」
クラは俺の上に乗っている。小さな体なので、そこまで重くはない。クラは神獣になってから体のサイズを変えられるようになったから、大きなものだと流石に重くて魔法を使わないと受け止められないけれど。
こうして身体の上に乗っているクラを見ると、地球に居た頃のことを思い起こしていた。地球に居た頃も、クラはこうやって俺達家族にべったりとくっついて過ごすのが好きだった。
逆に家族以外には全然近づかなくて、そういうところも可愛いなといつも思っていた。クラはペットなんだけれど、俺達家族にとっては大切な存在だから。
普通ならクラは先に寿命で亡くなるところを、こうして長い時間を共に過ごせるようになったというだけでも単純に考えると良いことだと思う。俺は嬉しい。
思えば俺が召喚されることがなければ、こんなことはなかったんだよな。
……俺が二十歳になったら言うつもりだってそう言っていた。けれどその頃にはもしかしたらクラは寿命を迎えていたかもしれない。それに高校を卒業した俺が異世界に来ることを選択したかどうかも、正直分からない。
だからクラが此処にいるのって、色んな偶然が重なったからなんだなとそんな気持ちでいっぱいだった。
「うん。少しな。こっちにきてから体力がついているから、身体的には全然余裕だけど。それでもずっと魔法の練習をしているとちょっと疲れるよな。もっと常に魔法とか使えるようになった方がかっこいいからそうなりたいんだけど」
黙々と魔法の練習をしたりするのは嫌いじゃない。ただ魔法の練習ってかなり集中力が居る。軽く使うことは出来なくはないけれど、そんなことをしたら魔力が暴走したりしそうだから。
「咲人って、かっこいいことって好きだよね」
「俺も男だし、そりゃかっこ悪いよりかっこいい方がいいだろ。なんか、うん、情けないのはちょっと嫌だなってこの世界にきて余計に思うよ。俺のことを知っている人だと、俺の行動で母さんや父さんの評価が変わるかと思うと気をつけたいし」
母さんと父さんの息子ではなくて、別の立場でただの異世界人として此処にいるならば別だったとは思う。
とはいえ、そもそも母さんの息子じゃなかったら俺が召喚されることなんてありえなかっただろうから結果論だけど。
俺はクラを撫でながら、ぼーっと天井を見上げているのだった。
クラと話していると、急に家の外が騒がしくなった。




