砂漠を抜けた後のこと ③
俺はクラを膝の上に乗せたまま、魔法の練習をする。俺は魔力量は多い方だから、勢いのまま魔法を使うことだって当然出来る。
だけれども個人的には力で押し切るよりももっと、魔力操作が得意になりたい。そう思っているので俺は必至である。というか母さんの息子である俺が魔力操作を上手く出来ないとか嫌だし。うん、それで母さんが侮られるのが一番嫌かもしれない。
そういうわけでこの世界にきてせっせと魔力操作は学んでいる。
ただそうはいっても勢い任せに魔法を使ってしまうことは度々ある。
それだけの力があるから、そういう時もある。ただし俺としてはもっと冷静沈着というか、どういう時でも魔力操作を上手く出来るようにはしておきたい。俺の魔力が暴走でもしたら、おそらく大惨事になる。
母さんとかは俺の魔力が暴走して、周りに幾ら迷惑をかけたとしても気にしないだろう。軽く笑って、「やらかしたね」ぐらいで終わりそう。俺はそれでいいとは思わない。
「魔力操作って結構難しいよなぁ。相変わらず、《アイテムボックス》は自分で作れてないし」
「まぁ、地球で魔力を使ってこなかった咲人がこれだけ使えているだけでも十分だと思うけれど」
クラは俺の膝の上でそんなことを言う。
本心からの言葉だろうし、実際にそうなんだろうけれど……。
それでもなんというか、俺はまだまだだという認識の方が強い。
父さんとは異世界にきてから一度も会ってはいないけれど、魔力操作が俺よりは得意そうだった。
母さんや姉さん達は当然、軽い調子で魔法を使ってしまうのだ。出来の良い家族と比べてもどうしようもないことは分かっている。
ただどうしても俺だってもっと出来るのではないかみたいなそんな気持ちになってしまうのだ。
俺が幾ら末っ子だったとしても、姉さん達よりも何かしら出来るようにはなりたい。そんな風にどうしても思ってしまう。
「んー、でももっと上手く使えた方がかっこいいじゃん」
「咲人は男の子だね! そんなこと気にしなくていいのに。それに咲人は十分凄いよ?」
「一般的に見てはそうでも、母さんの息子としてはまだまだかなって気はしている」
今のところは、何か問題が起きた時に解決は出来ている。最悪の場合は母さんに助けを求めてという情けない解決法だけど。
ただこの世界でしばらく過ごしてみると、俺にはもっと出来ることがあるのではないか……。もっとやりようがあったのでは? なんてそればかり思ってしまう。
どうしようもない時に神である母さんや伯母さんに助けを求めるのは仕方がないことではある。俺が完全に神へと変化したらまた別なんだろうけれど……。少なくとも俺って神の息子ではあってもまだ人だからなぁ。
うーん、寧ろ人という枠組みでも神様相手にもっとこうどうにか出来るようになれた方がいいか? そうなれたらきっと楽だ。
正直毎回母さんや伯母さん呼びだすのも悪いしなぁ。伯母さんは俺からの呼び出しに対して喜んでいてはくれたみたいだけど、母さんに関しては俺からの呼び出しなんて望んでいないだろうし。
そういうわけでひたすら、クラを膝の上に乗せたまま魔法の練習を続けていく。
「咲人はずっとやっているのは飽きないの? 僕はそんなことしたら退屈になっちゃう」
「少しでもそのうちもっと成果が出来るだろうなって思っているから、飽きるというよりも楽しいよ」
「そっかー。咲人はそう言う点、博人に似ていると思うな。博人もコツコツやるのとか好きなはずだし」
「まぁ、そうだな。父さんはそう言うタイプ。逆に母さんは父さんに関わること以外は凄い飽きっぽいよな」
「うん。それはそう。乃愛は博人が居ない時はいつも退屈そうだもん」
母さんと父さんって、性格とか結構違うんだよな。寧ろ異なるからこそ、良い夫婦なんだろうって思う。
全然価値観が違うというか。そもそも母さんは神様で、父さんは人間だったわけだし。そんな何もかも違うのに、父さんが母さんの唯一っていうのも不思議な話だ。
でも上手くかみ合っているんだよな。あの二人。
俺は幼いころから父さんと母さんのことが良い夫婦だなって思っていた。俺にとっては良い両親で、憧れはあった。
だって夫婦仲が良いって素晴らしいことだし、俺も結婚するならそういう夫婦関係が築けたらって思っていたから。
「咲人は博人と乃愛のこと大好きだよね。二人のこと考えて楽しそう」
「うん。まぁ、好きだよ。だって大切な両親だし。俺のことを育ててくれた血がつながった家族だしな」
俺にとって家族って大切な存在だ。だから彼らに何かがあれば俺は全力で抗うだろう。家族の方が強い力を持っているから、俺の方がピンチに陥りそうだけど。
「僕も乃愛たちに何かあったら絶対にどうにかするよ!!」
母さんって、邪神とか扱いされているからその分敵も居るだろうしなぁ。




